ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 切 り 裂 き 歌 ( No.2 )
日時: 2011/08/15 22:35
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 9K3DoDcc)

第一章 漆黒と白銀

 本日は日曜日。平日のように学校の準備でどたばたすることもなく、黒須と優希はのんびりと過ごしている。まぁいくら日曜でも部活があるところはあるのだが、元々部活に所属していない黒須と優希には関係ない話であった。と、言うよりこの二人、長期休暇の間に引っ越してきたわけで、まだ新しい学校と言うものには一度も足を踏み入れていない。挨拶に行ったほうがいいんじゃないかとも思ったのだが、どうやら優希たち抜きでそれは終わってしまったらしい。生徒となるほうも挨拶に行ったほうがいいじゃないんだろうか、そう考えて首をかしげる黒須に優希は軽い調子で、気にしない、気にしないなんていう風に言うのだった。
 黒須と優希だと明らかに優希の方が真面目なしっかり者に見えるのだが、実際のところは優希の方がわりと軽いノリで行動することが多かった。逆にそんな優希のストッパー役として黒須は動いているためか基本的に冷静なことが多い。……まぁ優希以上に軽いノリになることも少なくはないのだが。黒須が軽いノリになったときは急に優希が真面目なしっかり者になるのだから、結局は持ちつ持たれつの関係なのかもしれない。

 「黒須ーお腹すいた。朝ごはん」

 床に寝転がって自堕落モードの優希がそういう。それを聞いた黒須は少々呆れたような顔をして「そろそろ文人フミト辺りが呼びに来るだろ。アイツ面倒くさいから嫌いなんだけどな」なんていう風に言う。優希は優希で不満げな表情でごろごろしながら朝ごはんと繰り返す。駄目人間め、そうは思ったが口に出せば、確実に何か危険なものが飛んできそうなので黙っておく。怒ったときの優希ほど怖いものはないからな、と一人で頷く黒須。
 お腹空いたと連呼する優希をよそに、黒須は外から聞こえる足音を聞き取ろうとしてみる。それらしき音は聞き取れなかったし、外からの音は一切届いていないようだ。ドアをノックしてもらわないと気づけないよななんていう風に考えた後、まだ皆寝ている可能性もあるか、と一人首をかしげる。その瞬間に勢いよくドアが開かれたのに驚いて優希が飛び上がった。

 「白銀のジョーカー、漆黒のキング、朝ごはんの時間ですぅ」

 部屋に入ってきたのは肩よりも四cm程度短い赤茶色の髪に、紫色の瞳の少年。真っ黒な執事服にも似た服を身にまとって無邪気な笑みを浮かべるこの少年の名は秋月 文人(シュウゲツ フミト)。文人を見た黒須は露骨に嫌そうな表情をしている。逆に優希は朝ごはんと言う言葉に反応を示してのそのそと動き始めていた。

 「文人、その変な呼び名やめろって言ってるだろ」

 黒須の言葉を聞いてキョトンと愛らしく首をかしげた後はっきりと「断りますぅ」なんて言葉を残し、優希の手を引いて走っていく文人。それを見て呆れたようにため息をついた後、のんびりと部屋を出て長い廊下を歩いてリビングへと向かう。そんなに間を空けずに部屋から出たはずなのに優希たちの姿は見えない。相変わらず足が速いな何て呟いて、少しだけ歩くスピードを上げた。

Re: 切 り 裂 き 歌-死 へ と 続 く 歌- ( No.3 )
日時: 2012/01/06 21:24
名前: 霧月 蓮_〆 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: GsLNLUDc)

 黒須が長い廊下の先、食堂と書かれた木のプレートのかかった部屋にたどり着いた頃には、優希はサンドウィッチを口いっぱいに頬張っていた。その姿を見た黒須は思わず噴出してしまう。同時に待っているという選択肢はなかったのだろうか、と首を傾げる。しかし、言ったところで「だってお腹すいてたんだもん」なんていう風に返されて、そのまま終わりということは何となく想像できるから、黙って席についた。
 文人が差し出してきたお茶を啜り、カツサンドに手を伸ばす。優希に睨まれながらも無事にカツサンドを口に運ぶ。その横で喉に詰まらせたのか優希がもがき始めたが無視。淡々とカツサンドを食べる辺り、自分は冷たいのかもしれない……なんて考えて黒須は笑った。そんな黒須を見て今にも泣きそうな優希。文人が慌ててお茶をとりに行くのと、黒須の正面に座っていた女が笑い出すのは同時だった。青い透き通った瞳に人形を髣髴とさせる整った顔立ちをしているのに、長い金髪はあちこちがに寝癖がついているし、スタイルはいいのになんだか常人には理解できないであろうセンスの服を着ているし……とにかく元は美人なのに残念な雰囲気満載な女である。名を羽沢 小雪(ハザワ コユキ)という。
 これでもか、というぐらいに馬鹿笑いをする小雪を見て黒須は深くため息をついた。小さな声で「やっぱりコイツは小雪というより吹雪だろ」なんて呟いている。それが聞こえてしまったのか、小雪が黒須を睨むが、黒須はなんでもないかのようにカツサンドを口に運んでいた。ちなみにさっきからずっとカツサンドしか食べていない。

 「むぐ……死ぬかと思った」

 文人が持ってきたお茶をひったくる様に奪い取って飲み干した優希が呟く。しばらく恨めしそうに黒須を見つめていたが、相手にしてもらえないのでシュンとし、キャベツやトマトの挟まっているサンドウィッチを食べ始めた。流石に懲りたのか、食べるスピードはゆっくりだ。その様子を眺めている小雪は笑顔で頷いて立ち上がった。仕事か、そんな風に考えるも声を掛けずに黒須はサンドウィッチを口に運ぶ。すっかり夢中である。

 「おいおい、長いこと一緒に生活しているお姉さんが出かけるというのに行ってらっしゃいもなしかね?」

 少々不服そうに小雪が言う。顔を上げて面倒くさそうな表情をした黒須はプイッと顔を逸らした。それを見た小雪も諦めたようにため息をついて歩き出す。優希の明るい「行ってらっしゃい。怪我しないように、ですよー!!」なんていう声に頬を緩ませて。既に背中を向けているから、優希たちには分からないだけであって、その表情を見たら誰もがドン引きするレベルである。悟られないように、そう考えながらヒラリと手を振って歩いていく。

 「もう、駄目だよ、黒須……。ちゃんと行ってらっしゃいぐらい言ってあげなきゃ。後、カツサンドばっかりじゃなくて野菜のやつも食べなさい」

 小雪が去った食堂では、優希が黒須にトマトやキャベツの挟まれているサンドウィッチを押し付けながら、お小言を言い始めていた。黒須はうんざりとした様にそれを聞き流す。カツサンドに手を伸ばそうとしたら、その手に優希が押し付けてきたサンドウィッチを掴まされたから仕方なくそれを口に運ぶ。それを見た優希は少しだけ満足そうに笑って頷いた。

 「寂しいんだよ、小雪さん。あの歳で彼氏もいないんだしさー。僕たちぐらい優しくしてあげないと」
 「小雪が聞いたら怒り狂いそうな言葉だな……」

 優希の発言に黒須は思わず苦笑いを浮べる。思ったことでも素直に言っていい事と悪い事がある。文人は苦笑いを浮べて二人の様子を眺めていた。まるで血のつながった兄弟みたいだなぁなんて考えて……。
 食事を取り終わった二人は仲良く部屋に戻って、テレビを見始めた。優希はテレビから少し離れた位置にチョコンと正座して、黒須は押入れベッドに寝転がっている。この設定はもっとこうするべきだ、と話してみたり、くだらない内容に笑ってみたりと何の変哲もない時間を過ごす。特に優希がテレビに夢中で画面に釘付けになってしまっている。苦笑いを浮かべた黒須が「あまり画面に近づくなよー」と注意するも、優希には聞こえていないようだった。やれやれ、と黒須が身体を起こして肩をすくめる。
 突然、押入れベッドの枕の横に置いてあった携帯が鳴り響いた。携帯を確認した黒須は口元に笑みを浮かべる。そんな黒須を優希がキョトンと首をかしげて黒須に顔を向け「どうかした?」と問いかけた。

 「仕事だってよ。さっさと着替えろ」

 無造作に投げ捨ててあった真っ黒なコートに手を伸ばして黒須は言う。首をかしげていた優希も、黒須の動作を見て納得したように頷いて、きちんと畳んで端っこの方に置いてあった真っ白なコートを身に纏った。黒須のコートの丈は膝より少し上程度までの長さでサイズについてはぴったりなのに対し、優希はといえば、丈はふくらはぎのちょうど真ん中辺り、袖は長すぎるのか指先がちょこっとだけ見える程度……正直言って全体的に大きめだ。動きにくくないのだろうか、そう考えて黒須は首をかしげる。


___________________________
月に一回どころじゃない亀更新。
別の小説に気をとられていたのが大きな原因です。満遍なく更新していかないといけないんだけどなぁ、とは思います。

とりあえず今月中に出来るだけ更新しようと。出来れば四回以上は更新したいなぁ……。

Re: 切 り 裂 き 歌-死 へ と 続 く 歌- ( No.4 )
日時: 2012/01/06 23:40
名前: 霧月 蓮_〆 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: GsLNLUDc)

 部屋から出て玄関へと向かう間、鬱陶しいぐらいに声を上げてくる同居人がいたが、黒須は無視していた。逆に優希はご丁寧に手を振り替えして笑顔を振りまいている。そんな事をしているから、何時まで経っても同居人から子ども扱いされるんだ、なんて黒須は呟いた。優希からすれば同居人に冷たくして面倒ごとが起こるのが嫌だし、特別嫌いなやつがいるわけでもないからそうしているだけなのではあるが。
 部屋から玄関まで移動するだけなのに偉く疲れた様子の黒須を眺めて、優希は苦笑い浮べる。同室の人間が自分以外だったら黒須は日に日にやつれていくのだろう、そう考えて一人頷いた。そんな事を考えているなんて知らずに、黒須は靴を履きながら優希を怪しいものを見るかのような目で見る。

 「うーむ、今日はすっきり晴れすぎてて目立つかもねぇ」

 扉を開いた優希は思わず顔を顰めてそういう。雲ひとつない晴天……そんな空を黒須は無言で睨みつけた。睨んだところで天候が崩れるわけはないのだが……。優希も、黒須も晴れ渡った空が嫌いだった。全てを包み込みそうな真っ青な空を見ると、なんだか自分が惨めなように感じてしまうから。自分達が酷く浮いた存在に思えてきてしまうから……。くだらない、そんな風に呟いて黒須は歩き始める。
 日曜日ともなればどんなに頑張っても、人がまったくいないような道を探すのは難しかった。物陰に身を潜めて時計を確認する優希の顔は真剣だ。普通の仕事ならば人目を気にする必要もないのだが、黒須と優希がやっていることは少々どころかかなり特殊なものである。関係のない人間に見つかれば格段にリスクが上がってしまう。優希はそんなリスクの中、仕事を終わらせる緊張感が好きなのではあるが、パートナーである黒須がそれに大反対だった。出来るだけ面倒な処理を減らしたいタイプなのである。

 「どっちにしろ、色んな処理があるんだから一つぐらい増えてもいいと思うんだけどなぁ」

 ポツリ、と優希が呟くと、小さなモニターと睨めっこをしていた黒須が、顔を上げて優希を睨みつけた。薄暗い中でモニターの弱い光を下から浴びるその顔はただでさえ不気味なのに……そう考えて優希は黙って黒須から顔を逸らした。不気味すぎて直視できないとでも言うかのように。その様子を見て黒須は深くため息をついてモニターに視線を戻した。立て続けに現れては消える文字を目を通していく。
 不要な情報ばかりで、読む必要性を感じないが、欲しい情報が出るかもしれないと考えるとどうしても……と結局はモニターを見続ける。だんだん目が痛くなってくるがその辺は我慢だ。横で完全にリラックスしている優希に押し付けようかとも思ったが、途中で渡されても戸惑うだけだろうと、一人だけ黙々と読み進める。読もうとした途端に消えていく文字に半ば腹を立てながら……。
 不意に流れた文字の羅列を見た瞬間、黒須が口元に笑みを浮かべた。小さな声で「やっとターゲットの居場所見っけ」なんていう風に呟く。それを聞いた優希がいきなり姿勢を正して満面の笑みで黒須に顔を向けた。黒須から場所を聞けばポケットに手を突っ込んで淡い光を発する石を取り出す。

 「ちょ、オマ、それ使うのは……!」
 「止められても使ったもの勝ち!!」

 石を見て慌てたようにする黒須を無視して、優希は石にそっとキスをした。それに反応してか、石が発する淡い光がゆっくりと大きくなって二人を包み込む。一瞬、目を覆うほど強い光を発すれば跡形もなく二人の姿は消えた。……まるで始めから、誰もいなかった様に。

 二人が現れたのは豪奢な屋敷の一室だった。いかにも高そうな壷に絵画……ぼんやりを辺りを見渡した優希は思わず「趣味悪ー……キモイ」なんて声を上げた。流石に黒須も同意見だったのか無言のまま、コクコクと数回頷いて見せた。しばらくの間呆然と辺りを見回していた二人は、ため息をつきながらも“ターゲット”を探し始める。どこかに隠れてんのかなぁ、なんて考える黒須と、絶対この部屋の中にいると思うだけどなぁ、と物陰を覗き込む優希。しかし部屋の中をいくら探しても人らしきものは見つからない。深くため息をついて「別の部屋を探すか」という黒須の言葉で、部屋から出ようとしたとき、背後から声がした。

 「こういうとき、相手は天井に隠れている可能性あり!」
 「ねーよ」

 優希がいたずら交じりに声を変えて言ったのだろう、そう考えて黒須は言葉を返す。ドアに手をかけたところで、優希が黒須のコートの腰の辺りを引っ張った。首をかしげて振り返れば優希は黙って一点を指差している。その方向に黒須が視線を向ければ、カールのかかった金髪に青目の少女が天井の角の方にへばりついていた。黒須は呆れたような表情で少女を凝視し、優希は苦笑いを浮べて少女を見ていた。
 そんな二人を見て少女は満足そうに笑って、天井から降りてきた。ジロジロと優希と黒須の顔を見て、ペコリを頭を下げる。

 「私を殺しに来たのでしょう? 白銀の方に、漆黒の方」

 無邪気に笑って、そんな事を言う少女に黒須が露骨に顔を顰めた。小さな声で「情報が漏洩してるんじゃねぇか」と優希に向かって言う。その言葉に僅かに顔を顰めながら、優希は頷いた。そんな二人の様子を眺めて少女はニコニコと笑うだけで何も言わない。どうするべきなのか、そう考えて黒須は深くため息をついた。情報が漏れているなら下手に手を出せば、面倒なことになるかもしれない、と考える。目の前にいる少女が他人に助けを乞わないはずがないとも……。