ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 切 り 裂 き 歌-死 へ と 続 く 歌- ( No.7 )
- 日時: 2012/03/29 00:20
- 名前: 霧月 蓮_〆 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: gG3G93SR)
「大丈夫だよ。誰にも言ってないから」
少女は無邪気に笑う。それでも黒須が警戒を解くわけが無く、重苦しい沈黙が続いた。優希も無表情で何も言わずに少女を凝視するだけ。……ただただ、お互いに見詰め合うだけでどちらも動かない。それは危険を感じてなのか、思考をまとめているだけなのか……。選択を誤れば大きな問題になる、そう考えると黒須はプレッシャーで押しつぶされそうになってしまって、嫌な汗が頬を伝う。いくつも手段を浮べては最悪の場合を浮べて……無意識のうちにきつく拳を握っていた。
対して優希は、どうやって確実に少女を潰すかだけを考えている。一撃で仕留めなければ自分達の身が危なくなる、そう考えて目つきを鋭いものへと変えた。相手が自分たちが来ることを知っていたのならそれ相応の対策はしてあるはずだ。下手に手を出しても危ないし、このまま黙って睨みあっているのも危ない。一分一秒無駄にしてはいけないのに、いつものような手段だと防がれる可能性があると考えると、手が出せなかった。
「……信じると思うか?」
平坦な声で黒須は問いかける。目の前で自分よりも遥かにデカイ二人の男をジッと見つめる少女に。その問いに少女は黙って首を振る。そして、ゆっくりと言葉を紡ぎながら黒須の方へと足を動かす。黒須は黙って顔を顰めてコートの下のホルダーへと手を伸ばす。
「私は殺されても構わないの。でもね……その前に一つだけお願いを聞いて欲しいな」
素早く短刀を取り出して構える黒須に怯えることなく、少女は黒須の服を掴んだ。掴む、というよりもつまむと言う方がしっくりくる。上目遣いで自らを見つめる少女に、黒須は黙って短刀の切っ先を向けた。鈍い光が視界に飛び込んできても少女は引き下がらない。黙って舌打ちをして少女から距離を取る黒須に対して、少女は悲しげに笑った。
優希が、黒須の横に並んで、深く息を吐く。殺されても構わないと言った少女、彼女が何を考えているのかが全く読み取れない。少女の言うお願いとは一体何なのか……明らかに年下の少女の言葉を警戒して、怯えていた。元々、相手に情報が漏れることなんて無かったのだ。だから、相手がターゲットだと言うことを確認したら、後は有無を言わさずに潰すだけ……。それなのに、今回は? 少女が優希と黒須が来ることを知っていた。それだけのことなのにどう対応するのが安全か、分からない。リスクは嫌いではないのに、慎重になってしまう。
「……願いとは何だ?」
「私のこと、信じてくれるの!?」
悩む優希をよそに黒須は少女へと言葉を投げかける。途端に表情を明るくする少女をみて、自分の頬が緩むのを感じた。深く、息を吸い込んで黒須は言葉を放つ。平坦なままの、つまらなそうな声。
「話だけは聞いてやる。その後、お前を信用し、願いとやらを聞くかは別問題だ」
信じられないとでも言うかのように優希が黒須の顔を覗き込んだ。まるでお面をつけたような無表情。少女だけは明るい笑みを浮かべたまま、黒須の手を掴んだ。小さな真っ白な手で包み込むように、優しく、包み込むかのように。
しばらく沈黙が続く。少女は何かを考えているようで、黒須の手を掴んだまま唸り声を上げたりしていた。願いを聞いて欲しいと言ったくせに、肝心の願いが決まっていないんじゃないか、黒須は呆れたようにそう呟いて、少女に掴まれていない方の手を腰に当てた。しかし、呆れたような表情をしながらも、少女をせかしたりするつもりは無いらしく、黒須は黙って少女の言葉を待つ。優希は腕を組んで深くため息をついた。この隙に潰してしまえばいいんじゃないか、そんな考えが頭に浮かぶ。
少女は優希の事なんか見ていない。これは好都合じゃないか、そう考えたが、距離があまりにも近い。変な動きをすれば覚られて終わりだ。深く優希はため息をついて、辺りを見渡す。
「お願いって言うのは簡単なの。……私と遊んで!!」
「はい? 今なんと?」
少女の言葉に言葉を返したのは優希だった。黒須は無言で軽く口を開いてポカンとしている。無邪気に笑う少女を凝視した後、黒須と優希は顔を見合わせた。
「いつも一人だから、寂しかったの。……最後ぐらいは……ダメ?」