ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 怖いよね? ( No.4 )
日時: 2011/08/15 20:15
名前: 夕海 ◆7ZaptAU4u2 (ID: LXdRi7YQ)

  #02 [路地裏]


今日もまたあの路地裏へ遊びに行く。
何度も何度も親に行ってはいけないと言われた場所なのだが。
理由はあの路地裏に住んでた子供が一斉に行方不明になったらしい。
それは数年前の話だが。
けれども、子供は好奇心の塊。親の言いつけを守らず、毎日あの路地裏へ行く。
理由はあの路地裏は自分の抑えきれない好奇心を刺激してくれるのだ。
何を好奇心が刺激するかと言うと、路地裏に小さな小さな神社がある。そしてその隣に祠が。
祠に祀られてるのは、お地蔵様でなく狐だった。—— そう、稲荷神。
何故お地蔵様ではなく狐なのか、の可笑しさも相まって自分は良く遊んだものだ。
何処か薄暗くしかし涼やかな気温、以外に広々とした草原みたいな草花が生い茂る場所。
薄暗いけど、時々だが暖かい日光が差し込むのだ。
そして木々たちの爽やかな風が、吹き渡る。
こんな絶好の数少ない自然がある場所を見過ごすわけがない。
自分は今日も遊びに来た。
今日はいつになく何処か陰惨な雰囲気を醸し出していた。
違和感を覚えつつ、自分は友達が出来ない暗い子供だったので一人遊びしか出来なかったのである。
いつものようにお気に入りのボールを持ち、壁に当て跳ね返るボールを跳ね返す。
それらの繰り返しをしてたところ、ある歌声が聞こえてきた。



鞠を返して、鞠を返して。
おらの手鞠を返してくんろ。
おらのおかあちゃんの形見なり。

鞠を返して、鞠を返して。
おらのおっとちゃんがくれた手鞠なり。
おらのばあちゃんが作ってくれた手鞠だべ。

鞠を返して、鞠を返して。
おらのねえちゃんがくれたさ、鞠だべ。
おらのじいちゃんがさ、あげた鞠だべよ。



東北の方言混じりの歌だった。一般的に知られてない童歌だろう。
今時こんな古臭い歌を歌う子がいたんだな、と自分は感心した。
内容の意味は鞠を返して欲しいらしい。
だが、自分が持っているのはボールで鞠でない。
それどころか、歌を歌ってる子は何故そんな歌を歌うのだろうか。
まるで自分の持ってるボールを狙っているような歌だった。
思わず、持ち前の好奇心で自分は言ってしまった。

「だ、……誰?」

しかし、辺りを見回しても、誰もいない。
ただ、神社へと続く階段の先が薄暗いくらいなものだ。
とうとう、自分は怖くなった。
慌てて壁の端に転がったボールを持ち上げ、逃げるように走り去った。
その間にあの歌声が背後で聞こえたような気がした。
それから、自分はあの日以来あの路地裏に行かなくなった。
親が不審がり、事情を聞いたので自分があの歌のことを話した。
しかし、親はパソコンでその童歌を調べても、出て来なかったという。
では、あの童歌は何なのか。
それで、あの童歌を歌った子は誰なのか。
老人なら、まだしも、自分はたしかに聞いた。
幼い女児が歌った声だった、と。
その数年後、ある小さな事件が新聞の片隅に載った。


——— 江戸時代と思しき女児の白骨化死体と、
何故か現代の行方不明の子供たちの死体が一緒に見つかったという







END