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Re: 《インフィニティ・オンライン》 ( No.2 )
日時: 2011/08/14 16:33
名前: 神凪夜草 (ID: 4CT2wXi/)

「うおおおお!? 何か巨大な花が追いかけてくるんだけど!?」
「馬鹿! 背を向けるな! てかこっちくんなああああ!!」

 青色の薄い皮鎧に身を包んだ男、サラディンは、根を足代わりにして動き回る植物型モンスター《グリングリーン》に追いかけ回されたあげく、俺の方にそいつを連れて走ってきた。
 サラディンの後ろから走ってくる緑色の化け物を見て、思わず俺まで背を向けて走り出してしまう。それは俺がチキンだからではない。誰だって、顔に目が付いていて、それを悪意を感じさせる微笑みの形に崩してる巨大な緑色の花がこちらに向かって走ってきたら逃げるに決まっている。
 
「待ってくれーーーー! た、たすけてええ!」

 サラディンは半ば泣きそうになりながら俺に助けを求めてくる。しょうがないなあ、と呆れながら、俺は背中に背負っていた太刀を手に取った。
 《レストソード》。
 俺が構えた太刀は名前の通り、錆びている。頼りないことこの上ないが、これがこのゲームで選択できる初期装備の一つなのだから仕方ない。
 サラディンが俺に追いつき、背中に隠れてくる。女性にやられるならともかく、こんな逞しい男にやられるのは凄く気持ち悪い。だが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
 グリングリーンはあへあへ、と甲高い声で笑いながら、緑色の蔓を胴体から伸ばしてきた。俺はそれを太刀で切り下ろし、グリングリーンの懐に潜り込む。
 下から見上げる化け物はより一層気持ち悪かったが気にしていられない。数枚の巨大な花びらで、俺を包み込もうとしてくるグリングリーンに向けて、スキルを発動した。
 《スラッシュ》。
 これまた何ともしょぼい名前だが、まだこれしか使えないのだからしょうがない。それに、名前に似合わず最初の方はこれだけで結構モンスターを倒せる。
 スキルゲージを四分の一ほど消費し、錆びた太刀は青色に輝く。そして、向かってくるグリングリーンの顔面を斜めに大きく斬り付けた。

「あへへえへへ」

 断末魔とも付かない笑い声を響かせながら、グリングリーンのHPバーは0になり、小さな赤い光の球となって消えていく。
 モンスター撃破により経験値が入り、テロリロリンとレベルアップ音とファンファーレが鳴り響く。
 安堵により太刀を納める俺に、隠れていたサラディンがバツの悪そうな顔をして笑いかけてきた。

「い、いやー流石レイン、強いなー」

 レインと言うのは俺の仮の名前だ。

「全く、お前のためにモンスターを狩りに来ているのに、俺が闘ってどうするんだよ」
「わ、わりぃ」

 謝るサラディンに溜息を吐きつつ、俺は次のモンスターを捜した。