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Re: Ebony girls dual Fencer ( No.11 )
日時: 2011/08/19 09:35
名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)

だから黎迩は・・・そっとリビングの扉をとじて、廊下に適当にほうに捨て置いた鞄を拾ってそのまま二階に行くために階段の一段目に足をかけたとき———

「ちょ・・・ちょっとまつのです!!どうして何事もなかったかのように終わらせようとしているんですか!?」

さっきしめたはずのドアが勢いよくバンッと開き、中から可愛らしい女の子の声が聞こえてくる。だがそれは幻聴だ、と黎迩は自分に言い聞かせてそれを無視するかのようにもう一歩階段をあがったところで———

「ほ・・・本当に待つのです!!せ・・・説明しますから、私がお前の家にいる理由もさっきの出来事も全部説明しますから無視しないでほしいのです!!」

人にせがむ態度としてはいささか尊大な口調だったのだが、黎迩はその必死な声音にハァ・・・と一度だけため息をついて、しょうがなく鞄を階段において、シャルルのほうをあきれ返ったかのような目で見つめる。
シャルルはなみだ目になりながらもきつい目で黎迩のことをにらみつけていた。どうして無視するのですかといわんばかりのその視線に黎迩はなぜか申し訳なくなってしまい・・・言い訳を始めた。

「いや・・・せっかくさっきまでの出来事すべて夢物語で終わらせようとしてたのにお前の登場だぞ?もう逃避してくもなるわ・・・」

「それはお前の事情なのです!!それよりも、お前みたいな貧弱で、売られた恩も忘れるような駄犬であるお前が、私のことを無視するというのはどういう了見なのですかと私はいいたいのです!!」

「・・・一応俺もお前を助けたつもりではいるんだけどな」

「う・・・あ、あれは着地に失敗しそうになっただけなのです!!自惚れるなこのハゲ!!」

「誰もハゲてねぇよ・・・ハァ」

だがその申し訳ない気持ちはすぐに消え去ってしまい、あきれた表情に黎迩は戻る。すると、やはりどこか不安そうに表情をゆがめたシャルルの姿が目に入り・・・

「わかったから・・・とりあえず話しだけは聞いてやるからさ」

そう黎迩があきらめたかのようにいうと、パァッと無邪気に顔を輝かせて、シャルルは一度だけガッツポーズをとると

「ならば早くくるのです」

そういってリビングに消えてしまう。
まるでこの家の中を我が物のようにして振舞うシャルルを見て・・・黎迩はどこか不安を覚えたりしていたのだが、シャルルがリビングに消えたことで再びよみがえるさきほどの出来事・・・夢だってことで終わらせようとしていたあの出来事が頭の中に思い浮かんできて、恐怖に黎迩の顔が歪む。
・・・あきらかに人間ではない【化け物】の姿。まるで時間が止まってしまったかのように動かなくなってしまった人々・・・そしてなぜか自分だけ動けるという事実。そこで目にしたもの・・・記憶してもの———すべてが黎迩の体を凍りつかせて、恐怖の底へと落としていく。
だけども・・・そこで黎迩は一度笑い。バカバカしと口にして歩き始める。万一にもあの出来事が夢じゃなかったとして、それがどうなるというんだ。あんな出来事はもう二度とおこらないかもしれないじゃないか、と自分に言い聞かせるようにして頷き、そこで疑問に思う。
ならばなぜシャルルは自分を【デュアルフェンサー】という組織につれて帰ろうとしたのか・・・そしてなぜ、今現在シャルルはこの家の中に・・・そんでもって、自分になんの用事があるのだろうか————自分で考えてもいっこうに答えが見つからないその疑問を解消するべく、黎迩はリビングのドアをあける。すると最初の時とまったく変わらずに、まるで我が物のように黎迩の椅子に座り、妹に出されたのであろう、ちょっぴり中身がなくなりかけているコーヒーを飲みながら、ジト目をこちらにむけて・・・

「ほら、早く座るのです」

その尊大な口調に黎迩はふたたびため息をはきすてながら、本来は妹の席である場所の椅子に座り、シャルルのことを正面から見つめる。
・・・やはり、シャルルはあの【世界】の中ででてきたシャルルとまったく同じで、そのことから、さきほどの出来事はやはり現実であったということが、今その瞬間で証明されたような気がした。

「じゃぁまず聞かせてもらうぞ・・・」

その事実にショックをうけながらも、重々しく黎迩は口を開く。それにシャルルはフン、と鼻をならして

「おおかた、私がどうしてここにいるのか不思議に思っているのでしょうから、私から教えてやるのです」

「・・・よろしくたのむよ」

若干そのことにたいして怒りを覚えているような黎迩の声にビクビクしながらも、尊大な口調を崩さないシャルル。シャルルはだいぶ強気な性格をしているが臆病者でもあるらしかった。そんな一面を見れて、黎迩はちょっとうれしい気持ちになったりもするのだが、それとこれとは別で、シャルルのその言葉を待つ。
シャルルは一度のどを鳴らした後、妙に強気な表情で黎迩のことをみつめてきて・・・口を開いた。

「まずはさっきお前が体感した【現実】の説明から始めさせてもらうのです」

それに今度は黎迩がのどを鳴らす番だった。そう、そのシャルルの言葉は、やはりそのさっきの出来事が本物でありまぎれもない【現実】であったということを証明させてしまっているわけで———黎迩は再び、恐怖に打ち震えそうになるがしかし、それを何とか抑えながらこくりと頷く。

「あの場所の中でも説明したとおり、あの【世界】の名前は【異空間時計】・・・因果を捻じ曲げた先に存在する架空の空間。そこでは本来、ただの人間は【背景】でしかないのです。その証明として、そこにいた人間、因果を捻じ曲げられたその場所にいた人間はすべて動かなくなって、それを創る存在・・・【異形】によって、やる気や精気・・・悪いものでは命を喰われてしまうのです」

「い・・・命って———じゃぁ、喰われた人間はどうなるんだよ?」

「そうですね・・・因果を捻じ曲げられて作られた空間で命を喰われた人間の体は、【異空間時計】の中に永遠と彷徨うことになるのです。
いってしまえば・・・現実の世界、私たちが呼ぶ名前でいうところの【現世】での存在ができなくなり、すべての人間の記憶から抹消される・・・といったところですか」

「ちょっ・・・ちょっとまてよ!!命を喰われた人間の記憶が抹消される?そんなバカなことがあるわけ———」

「いえ、これは紛れもない事実なのです———ですが、それを起こさないために、【異形】により命を奪われないように活動する組織・・・【デュアルフェンサー】が、そこででてくるのです」

「つまり・・・その【デュアルフェンサー】が、【異形】?だっけか、そいつらを駆逐してくれているおかげで俺たちは普通に生活できているっていうわけなのか?」

「それもまた違うのです・・・残念なことに、【異形】の数は一向に増えるばかりで、近年ではものすごい量の増殖をしてしまっています。
【異形】の存在意義、意味、そのすべてがまだ謎に包まれている今現在ではどうしようもないのです・・・だから、私たちがそれを少しでもいいから抑えよう・・・そういった主旨で、私たち【デュアルフェンサー】は動いているのです」

「ということは、お前らだけじゃ【異形】の・・・なんだ、人間喰らいは止められないって言うわけか?」

「そう・・・ですね、今現在ではそうとしかいえません・・・ですが、必ず・・・必ず私が【異形】を・・・【異形】による脅威を消し去って見せます———そのためにはまず【狂い神】をさがさなければ———」

「・・・どうした?シャルル」

「・・・っ、な、なんでもないのです」

あまりにも壮大な話で、あまりにも残酷な話で・・・あまりにも、奇妙な話に、ついていけなくなってしまった黎迩をよそに、シャルルの表情に影がおちる。それを見た黎迩は心配になって声をかけるが、やはりシャルルはなんでもないかのように表情を元に戻し、説明を続ける。

「話を戻すのです。今現在【異形】はあるチームのようなものを組んで【異空間時計】を作り出していると【デュアルフェンサー】は推測しているのです。たとえば・・・今日でてきた【異形】も、この地区の【異形】のチームに一人で、その【異空間時計】の中の情報を共有していると推測ができるのです」