ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Ebony girls dual Fencer 企画進行中 ( No.12 )
- 日時: 2011/08/19 12:47
- 名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)
「ってことは・・・今日のあれも、共存しているっていうことなのか?」
「はい・・・そうです。つまり、そういうことなのです」
自分の無様な姿を、まだ見たことも無いやつらに見られていた、という真実に黎迩は若干いやな気分になったが、シャルルの平然とした態度を見て・・・ああ、あっちの世界ではそれが普通なんだなと思いなおしてから、すぐに平気そうな顔に戻った。
だけども、そのすぐあとに発せられたシャルルの言葉のせいで・・・黎迩のその平然としたような態度は、すぐに崩されることとなった。
「そう・・・つまりは、お前のその【異空間時計の中で動けるただの人間】という変な現象のことも知られた・・・つまり、お前は記憶してしまった。あの中のできごとを———だから喰いにくるのです。【異形】が・・・人間を餌としている、消して動いている、生身の人間を食べることのできない【異形】が・・・快感を求めて、お前を喰らいにくるのです」
その言葉はあまりにも・・・冷酷に、冷淡に、冷徹に・・・黎迩の耳に届いた。
黎迩は絶句する。そのシャルルの言葉の意味を理解したとき、恐怖に震える。不快感に襲われ、逃げ出したくなる。今までのシャルルの話しを聞いている限り、【異形】というのは人間を好んで食べる。というよりも、人間を餌としている【化け物】なのだ。だから・・・自分がそんなやつらに積極的に狙われているとしって・・・黎迩は絶句する。
もとより、シャルルの話だと【ただの人間】は、その【異空間時計】という世界の中では背景でしかなく、いってしまえば気絶しているのと同じような状況だという。だからこそ、なにをされても気がつかないわけで、死んでいることすらもわからないという。なのに、黎迩はわかってしまう。その世界で動けるからこそ・・・【捕食者】による恐怖を味わい、殺されるという絶望を味わい・・・後悔をしながら死んでいくということを———
その黎迩の、今にでも逃げ出して、早くどこかに消えてしまいたいという絶望の表情を見たシャルルは、どこか自分を懐かしむような表情で黎迩のことを見つめる。見つめられているということに気がついた黎迩は、それどころではないはずなのに・・・シャルルに無理やり作ったような、ぎこちない笑顔をむける。それにシャルルはちょっとだけ頬を赤くしたが・・・黎迩の精神のほうはかなり限界に近そうだったために、救いの言葉をかけることにした。
「———ですが、安心するのです。お前を絶対に【異形】には喰わせたりしないのです。そのために・・・私はここにきたといっても過言ではないのですから」
「・・・は?」
一瞬だけ、黎迩の表情から影が消えて、明るい表情になりかけるが、最後の言葉を聴いて、再び、というか、また違った色の絶望に染められたかのような表情になる。・・・それって、つまり?
「そう・・・そのために私はお前の『家』に来たのです!!次の【異形】がでてお前が私に助けを請って【デュアルフェンサー】に保護されたいというまで———お前の『家』で生活するためにきてやったのです!!」
その自信満々で語るシャルルを黎迩は冷淡な瞳で見つめる。なにをいっているんだこいつは、そんなことできるわけないだろう、だいいちお前、自分の仕事とかどうするんだよ、俺を守るとか俺の家に居座ることとかが本業じゃないだろ、【異形】を倒すことが本業だろうが。
とかいろいろつっこみたいという衝動をなんとか黎迩は抑えながら・・・こめかみをひくつかせながら、引きつった笑顔をシャルルにむけて、必要最低限の質問だけさせてもらうことにした。
「・・・俺の家族の許可はとってあるんだろうな?いや、許可なんてしてくれるわけないよな———」
「そのへんは心配無用なのです。お前の親の職場に出向いて、数日間家に滞在させてもらうっていったらあっさりオーケーはもらえたのです」
・・・ニコニコと、不自然な笑顔をむけるシャルルを見た黎迩は、あの両親たちがそんなあっさりオーケーしてくれるわけないだろうと思っていたが、そのあたりはどうでもいい・・・たぶんこいつ、自分の用件だけ言ってさっさと帰ってきたくちだな、と頭の中で考えて、ハァ、と一度だけため息をついたあと・・・それでも自分を守ってくれるというシャルルのことを頼もしげにみつめて・・・最後にひとつだけ、質問をさせてもらうことにする。
そう・・・それは、【デュアルフェンサー】のことについて———いや、正確にいえば、【デュアルフェンサー】の、【異形】に対抗している【人間ではないなにか】について———質問をさせてもらうことにしたのだ
「まぁいい・・・じゃぁ最後に聞く。お前ら【デュアルフェンサー】のやつらは・・・人間、なのか?」
その質問にシャルルは・・・儚げに瞳を揺らして・・・こう、答えるのだった。
「いえ・・・私たち【デュアルフェンサー】は———【人間】を捨てた【人間】なのです」
シャルルの瞳には、一筋の後悔の色が宿っているような気がした—————————————————
「いったい・・・なにがどうなってやがるんだ」
シャルルからある程度の事情と、自分が命を狙われているということを知ってからまだ二時間ちょっとしかたっていない今の時間に、黎迩はちょっとした危惧に見舞われていた。
そう、それは【異形】とかに襲われるとかそういった類の危惧ではない。人間の本能としての危惧というか・・・そう、もっと根本的な危惧に黎迩は見舞われてしまっていたのだ。
両親はまだ帰ってきていない。どうも今日からその会社の大きな企画の大詰めに入るらしく、帰ってこれない日が続くかもしれないからと、食事代だけさきほど届けにきたきり、両親は再び仕事にでてしまっている。そして。その食事代の中にはなぜか三人分・・・無理やり押し入ってきたシャルルのぶんもふくまれており、黎迩はあとでちゃんと金は返せよとシャルルにいって、わかってるのです、と尊大な口調でいわれてから、ちょっとした時間つぶしをしたあとに———その危惧は訪れたのだ。
「・・・お前は、なにをしているんだ?」
その声は、黎迩のもとからでたとは思えないぐらいに低かった。その声を聞いた主は、ビクッと肩を震わせて、後ろを振り返り黎迩の表情を伺う。黎迩は、こめかみをひくつかせながら、口だけを笑顔にして、できるだけ穏やかな口調になって
「お前は、なにをしているんだ?」
と、もう一度いう。
そう、その黎迩の視線のさきには、幼いながらも美しい、流れる澄み切った金髪を片方で結んでいる、小柄な少女の姿・・・シャルルの姿があった。その手にはなぜかどこからともなく現れた漆黒の、神仏な剣が握られていて———今この場所、黎迩の自室であるこの部屋のある一方だけが、どれだけあばれたらこうなるんだよといいたいぐらいに荒れているという状況で———
「れ・・・れいじぃ〜」
だがしかし、シャルルのほうにはそれが見えていないようだった。シャルルは漆黒の剣をほっぽりなげて、黎迩にむかっていきおいよくだきつく。正面からだきつかれた黎迩は、びっくりしてバランスをくずし、それでもシャルルを受け止めながら、
「ど・・・どうしたんだ?」
かわいそうなぐらいに怯えきってしまっているシャルルを見て、黎迩はそう聞かざるをえなかった。うけとめたシャルルの体は震えていて、目じりには涙が浮かんでいる。ふるふると震えているシャルルはその手を黎迩の部屋の中央にもっていき・・・そしてようやく、黎迩はシャルルが怯えるほどの相手の姿を捕らえる。
それは黒光りする小さな物体だった。その物体は黎迩は目があうやいなや突然俊敏な動きで走り出し、シャルルによっていろいろと散乱してしまっている家具に隠れてしまい、そいつは消えてしまう。だがしかし、その正体がわかった黎迩は、シャルルと同じように体をブルッと震わせて・・・キュッと服のすそをにぎってるシャルルの手をとって
「よ・・・よよよよし、シャ、シャルル、とりあえず体勢を立て直すんだ・・・あいつは強すぎる」
「う・・・うん」
そういって黎迩はシャルルをひきつれながら、震える体をなんとか動かして一階におりていく。
リビングにでた黎迩は、自分の椅子にシャルルを座らせて、自分は妹の席に座る。その後すぐに黎迩は目だけであるものを探しながら、シャルルに問いかける。
「シャルル・・・だ、大丈夫か?」
若干震えてしまっているがそんなことは関係はない。あれを目にしてしまった以上、ほうっておくわけにはいかないのだ。ましてや、自分よりあれが苦手なのであろう女の子を目の前にして、ほうっておくわけにはいかない。だからこそ黎迩は毅然とした態度になり、シャルルの手をギュッとにぎりながら、真摯な瞳でシャルルのことをみつめる。
シャルルはその黎迩の真摯な瞳に・・・なぜか頬を赤らめさせて、ボーっとしたような表情になるが、すぐにあわてて顔をブンブンと横にふって
「だ・・・大丈夫じゃないのです・・・は・・・早くあいつをどうにかしなければ———」
黎迩は、さっき初めて名前を呼ばれたって言う真実にも気がつかずに、たださきほどの物体を頭の中で思い浮かべる。とある特殊なノズルからはなたれる、ガスでしか倒せないのだという。だとしたら・・・やはりあれを使うしかないようだ・・・と、黎迩はようやく見つけた、戸棚の一番上に置かれているその筒状のなにかを手に取り・・・気丈とした態度で歩きはじめる。その後ろを、ビクビクと体を震わせながら、黎迩の服のすそを後ろから握っているシャルルがついてくる。