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Re: Ebony girls dual Fencer 企画進行中 ( No.14 )
日時: 2011/08/20 14:17
名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)

「わ・・・わたしはっ・・・」

「・・・はい」

「私はっ!!十五歳なのです!!」

「へ・・・へぇ、そうなのですか」

「お前のことももう調べてあるのです・・・!!水無月高等学校に通う一年生で、私と同い年のはずなのです!!それなのにこ・・・子供?ふ・・・ふざけるんじゃないのです!!」

「ちょ・・・ちょっとまて、俺のことを調べたってどこまで———」

「別にそこまで詳しくはしらべてないのです【デュアルフェンサー】自体そこまで力のある組織ではないので今のお前の肩書きと年ぐらいしかしらないのです。・・・そんなことよりっ」

「わ・・・わかった、訂正する!!訂正します!!子供っていってごめんなさいっ!!」

自分のことを調べた・・・と言われて、黎迩は一瞬からだを凍りつかせかけたが、だがしかし、過去のことは別になにもしらないようなので、すぐに安心するがしかし、シャルルが首にかけられている十字架に手をふれそうになっていたので、あわててそれを止める。シャルルのほうはわかればいいのです。といって憤りをおさめてくれたが、黎迩はここで心に刻み付けておくことにする。シャルルに子供とかいったらやばい・・・ということを。

「第一ですね、私たち【デュアルフェンサー】の活動時間というのはだいたいが夜なのですよ?ですから夜更かしすることなんて楽々なのです」

シャルルがそう自慢げにいって黎迩は気がつく。さきほどシャルルがいっていたイレギュラーというのは・・・その言葉にも当てはまるのではないか、ということに。だから確認をするために、黎迩はシャルルに問いかける。

「あー・・・つまり、今日の夕方に【異形】がでてきたっていうのもイレギュラーってことなのか?」

その質問に、シャルルはいいことを聞いたといわんばかりに頷く。さきほどの怒りはもう収まっている、というか、シャルルのほうは子供っていわれて今の流れになることになれてしまっているのだろうか、元の状態に戻り、尊大な口調でこう告げる。

「別に・・・イレギュラーってわけでもないのです。夕方の時間たいに現れることは別に今日から始まったわけではないのです・・・問題のイレギュラーは、今日でてきた【異形】が、お前だけに狙いをつけて・・・一切摘み食いをしなかったということなのです」

「そ・・・それは俺がその【異空間時計】の中で動いてたから、俺だけを狙ったんじゃないのか?」

「それは無いはずなのです。その【異形】はおそらくその街に人が、餌がいっぱいあったから【異空間時計】を生み出し、食事をしようとしたのです。なのに、どうして動いているお前を食そうと考えたのですか?明らかに効率の悪い、動く獲物を狙ったりしたのですか?」

「だからそれこそ、動いているやつの感触を味わいたかったんじゃないのか?」

自分でいってておぞましく感じるが、そうとしか考えられないため黎迩はそう告げる。だけども、シャルルは納得いかないといったふうに言葉をつなげる。

「ですが、あの【異形】はおそろしく弱かったのです。腹が減っているとき、何日か食事をしていない【異形】の力は弱く、あの【異形】と似たような状態の【異形】を私は討伐したことがあるのです。ですから、お前を食べるにしても、少しばかりつまみぐいをした後でもぜんぜん間に合うはずなのです。なにせ【異空間時計】をつくりだすその【異形】本体が消滅するか自分の意思で消すまで・・・その【世界】は消えないのですから、メインディッシュは一番最後にとっておくはずなのです」

「・・・なら、なんのために俺だけを追ってたんだ?」

「それがわからないから・・・今回のことはイレギュラーが多すぎる、と言っているのです———」

その瞬間、シャルルの目つきが鋭くなる。それは、今回の出来事がシャルルにとって負担になっているということをあらわしているようで・・・黎迩は申し訳ない気持ちになる。だけども、自分ではなにもできないことを知っている、というよりも、シャルルのいうその弱っている【異形】にすら怯えて、逃げ回ってしまった自分がどうにかできるわけないので・・・黙ってシャルルの言葉を聞くことにした。

「だからこそ・・・お前には【デュアルフェンサー】の支部にきてほしかったのですが、それも無理な話なのですよね・・・これもある意味ではイレギュラーなのです」

そういったあと、シャルルはため息をつくが、黎迩はそれだけはどうしても賛同できないのだ。第一、両親には本当にこれ以上の迷惑をかけられないし妹のこともある。だから、自身がピンチに陥ろうがなんだろうが、それだけは絶対に譲れないのだ。
それを知っているからこそ・・・シャルルはもう一度ため息をついて、黎迩のことをどこか昔の自分を見ているような懐かしむような瞳でみつめて———その手をいきなり首元の十字架にもっていく。
その瞬間に、十字架をにぎっていないほうの手に漆黒の剣が出現する。その形はシンプルな西洋の剣で、シャルルの身長からだとちょっと大きめなサイズに見えたが、その突然のシャルルの行動に驚いた黎迩は、そういった細かいところを気にする余裕はない。
シャルルは剣を手にもつと、椅子をひっくりかえしながら立ち上がり、黎迩のもとにかけより———

「家をでるのです———」

「・・・は?」

一瞬、呆気にとられる。
しかし、すぐにその違和感に気がつく。さきほどまで電球で明るく光っていたリビングは、濁ったかのような灰色に染まっていた。当然、時計のほうを見ても針は動いていない。その時計が止まっているだけという可能性も考えて、近くにおいておいた携帯を確認して見るが、その携帯の時計も動いていない。なにもかもがとまってしまっている・・・なにもかもが背景となってしまう、因果の調律を狂わせた空間———【異空間時計】が発生したのだ。それがあらわすもの・・・それが意味するのは———【異形】の出現、自分の命の危機———

「わ・・・わかった」

「安心するのです———どうやらこの【異空間時計】には、私の仲間も入り込んでいるようなのです」

そういわれるやいなや、黎迩は立ち上がる。ちょっと外にでるにはいささか常識外な、上だけシンプルなTシャツに、下は黒いジャージというラフな格好。髪は暇な時間にごろごろしていたりしたからちょっとだけボサボサになってしまっている。だけども、別に近所の人とかに会うわけでもなければ、誰にも咎められはしないだろう。
黎迩のほうは、命を狙っている相手が近くまで来ている、という状況のはずなのにどうしてか緊迫感はぜんぜんなかった。それはシャルルという最強の守り手がいるから、という理由なのかもしれないが、そのシャルルのほうはそうではない。妙に真剣なまなざしで外をにらみつけたシャルルは、そこらへんにほうり捨ててあった漆黒のマントを肩にはおる。そしてそのままダッシュでリビング、廊下を駆け抜けて、家を出る前に膝元まで覆い隠すレギンスをすばやく足に装着して、こいこい、と黎迩を促す。
黎迩はとりあえずといったふうに玄関まででて、靴をはく。あんましはく必要はないんじゃないかとか考えていたりもしたが、一応は一応だ、といったふうな思いで靴をはく。シンプルなスニーカーだったが、走る分には申し分のない靴だった。

「いそぐのです。家の中では流石に分が悪い・・・というよりも、こちらの行動は完全に制御されてしまいますから」

そういってシャルルは玄関の扉を開いて黎迩を外にだす。その後をシャルルがついてくるかのような形で二人は外にでる。
そしてそこには・・・【異常】な光景が、漆黒の闇で覆われているはずの街が、街灯が———すべてが赤色に染まり、家からもれる光がすべて塊、赤に熔けていて———近くのコンビニでなにかを買ってきたのであろう、こんな時間でも外にでている住民が・・・動かなくなってしまっていた。
それは夕方のあれと同じだった。それを意識したとたん、黎迩に恐怖が生まれる。自分は死ぬんじゃないのか?本当に大丈夫なのか?こんな気味の悪いところで・・・俺は、生きていけるのか?といったふうに、まるで意識を乗っ取られたかのように恐怖が黎迩の体を支配していく。黎迩はそれに抗うことができない。自分の内側から芽生えてくるその感情を———おさえることが、できない

「・・・れいじ!!危ないのです!!」

そして、来たるべくして現れたその存在に———気がつくことができなかった。
突然立ち止まってしまった黎迩を不審に思ったシャルルは見る。自分たちの前方から———犬の形をした。それでもけして犬とは形容できない形をした———【化け物】の姿を。
その大きさがまず異常だったのだ。百獣の王ともいわれているライオンなんかよりもはるかに大きい体躯。どちらかというとバッファローとか、牛に近い大きさをもっているその犬のような形をしたものは、顔に・・・中心から裂けて二つに分かれている、気色の悪い顔があり、その内側からは、大量の、目で追うのはむずかしいぐらいにしわが刻まれている・・・脳のような形をしたものや、血管の断面、骨の断面や突起などが見て伺える。一言でいうのならば、それは人間が見たら一瞬で吐いてしまいそうなほどにグロかったのだ。
血がお供なく流れ落ちているその姿は・・・まさしく【異形】だった。
その【異形】はシャルルが反応するよりも早く、黎迩のことを喰らいにかかる。黎迩はそれに反応することができずに、あっさりとその巨大な体におしたおされて、身動きが取れない状況になる。

「ガァッ・・・!!くそっ・・・なんだよこいつ・・・!!」

「今助けるのです!!」

そういいながらシャルルが剣を構える・・・だがしかし、その犬のような形をした【異形】は、シャルルの行動を読んでいたかのように黎迩の体を———突然背中から突き出してきた、赤黒くそまった人間の手のようなものでもちあげて———盾にする。

「くっ・・・な、なかなか頭がいいようなのですね、ほめてやるのです」

そういうシャルルの口調には、もう余裕なんてものはなかった。
シャルルは剣を構えなおし、【異形】を警戒する。だが、黎迩が人質にとられてしまった以上、簡単に動くことはできなかったのだ。それを見て黎迩は———自分が不注意、ほんの気の迷いでおこしてしまったこの現状をどうするのか思考を展開する。
もとより頭のいいほうではない。だけども、守ってくれるといったはずのシャルルを信じないで、勝手に恐怖に震えていた自分が巻き起こしてしまったこの状況なのだ・・・どうにかしなければならなかった。そうするしか———助かる方法なんて、ないんだからな———

「うううぅぅああぁぁぁっ!!」

突然黎迩が咆哮をあげる。そしてなんの意味もなさないであろうその拳を———犬の片方の顔面にむかって叩きつける。それにビクッと反応したのは【異形】だった。【異形】は黎迩が抵抗するなんて思っていなかったのか、びっくりして黎迩のことを落としてしまう。黎迩はそのまま地面を無様に転がるが———その黎迩がつくった隙は、決定的となった。
シャルルが黎迩がはなれたとみるやいなや、黎迩の目では追うことのできないスピードで走り出し、【異形】の目の前でとまる。【異形】はそれを、背中から何本も突き出してきた、今度はちころどころで肉がはがれて気色の悪い腕で、それをシャルルにむかって伸ばす。シャルルはそれをことごとくかわしてから一度助走をつけて宙を舞う。犬はそれに反応することができずに———シャルルは空中から、剣を思い切り【異形】の中心・・・つまり、胴体にむかって投げつけたのだ。
一直線に落ちるその剣の速度は異常だった。絶対にかわせるはずのないそのスピードで、剣はふかぶかと突き刺さる。激しく血飛沫を飛び散らせ、剣が肉をえぐる嫌悪感を誘うその音を聞かないといわんばかりに目をふさぎ、耳を黎迩はふさぐ。
だがシャルルのほうは止まらない。たった一撃でしとめられる【異形】は、本当に弱い【異形】にのみかぎることだからだ。だからシャルルは宙で再び十字架にふれて漆黒の剣を生み出し、そのまま落下とともに【異形】にむかって突き刺し、一度反動でジャンプして地面に着地してから、もう一度十字架をにぎる。
そこで———シャルルは剣をもたなかった。
十字架をにぎったままのシャルル。その周りには漆黒の、シンプルな西洋の剣のような形をした剣が何十本も出現する。その剣の切っ先はすべて【異形】にむけられていて———それをみた【異形】は、怒りに体を振るわせ、狂ったかのようにシャルルにむかって走り出す。だが———

「放つ」

そのシャルルの冷徹に放たれた言葉によって、剣が重力を無視して動き始める。一直線につっこんでくる【異形】にむかって、漆黒の剣たちは同じように一直線に飛んでいく。【異形】はそんな単純なことに気がつくことなく———すべての剣を、体に受け入れた。
激しく血飛沫が舞う。腕が飛ぶ、首がもげる。大量の血があたりいったいにふきつけられる。骨が砕ける。血にそまった骨の断片が舞い散る。もはや原型がとどまっていないその【異形】は———前の【異形】と同じように———その姿を薄れさせていって、後にのこったのは返り血をあびたシャルルの姿に———当たり一帯にまきちられた【異形】の断片。そして・・・怯える黎迩の姿だった。