ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Ebony girls dual Fencer 企画進行中 ( No.15 )
日時: 2011/09/04 14:16
名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)

「まだ終わってないのです」

「・・・は?」

「だから私は、まだ終わってないのですといったのです」

さきほどの出来事がなかったかのように黎迩をシャルルがひっぱりながら、二人はまだ消えない【異空間時計】の中をさまよっていた。
黎迩はシャルルの言葉を理解することができなかった。第一、さっき【異形】を倒して、だから時間がたてばもうすぐでこの【異空間時計】はきえると思っていたから、理解することができなかったのだ。不測の事態に弱い、ということからそのことが伺える。

「ちょ・・・ちょっとまてよ、【異形】はさっき倒したんだろ?だったら歩かなくてももう【異空間時計】は崩壊するんじゃ———」

「・・・さっきのが【異形】?笑わせるんじゃないのです」

シャルルは黎迩を小ばかにしたかのような態度になり、でも困惑している黎迩を見て可愛そうになったのか、すぐに説明を始めた。

「さっきのは文字通り【犬】なのです。【異形】が使役する、というのでしょうか?とりあえず【異形】が使う使い魔のような存在なのです。そいつの味覚、嗅覚、感覚、聴覚、視覚はすべて主である【異形】と【共有】されるので、お前をさっきのやつが喰らっても【異形】はそのまんま自分が食べているのと同じような感覚を味わうことができるので———とりあえずは、今回の【異形】が大物だということが明らかになったのです」

「・・・ってことは、さ。どんくらいその【犬】はいるんだ?」

「さぁ?その【異形】の力によっては何十体も一気に扱うことが可能と聞きますし、今回のがその例に漏れないとしたら、まだたくさんいるということなのです」

「うそだろ・・・」

「でも一体一体は雑魚のようですし、問題はないのです」

恐怖にふるえそうになりながらも、なんとかそれを抑えている黎迩。しかし、それとは反対にぜんぜん余裕なシャルルの姿は、頼もしいを通り越していっそ清々しいといえるほどでもあった。
黎迩はシャルルのことを改めて見る。自分の手をひっぱって先導する姿はどこか頼りないのに、ものすごく頼もしかった。自分がなにもできないという現状が気に喰わない、自分がなにもできない、なにもすることができない、ただの足手まといでいるこの現状が気に食わなかった。だけど、それを覆すような能力は黎迩にはない・・・だからこそ、腹立たしかった。シャルルを手伝えない自分が・・・自分の命すら自分で守ることのできない自分が———。

「———黎迩、ちょっとはなれているのです」

「・・・きやがったのか?」

「はい・・・前の曲がり道から何体か気配を感じます。ですが、心配はいらないのです。どうやら【デュアルフェンサー】の増援部隊も近くまで来ているようなので」

「えーとさ、なんでそんなことが分かるんだ?」

「ただのかんなのです」

堂々というシャルルにあきれ返りつつも、黎迩はシャルルからはなれて後ろにさがる。緊張感に包まれ始めた雰囲気の中で———その姿を、あらわした。
それはさきほどと変わらない、嫌悪感を振るい立たせる気色の悪い造型をした【犬】だった。だがしかし、それは一体だけではなく、その壁のさきから何体も・・・何体も何体も、大きさは違えど姿かたちがまったく同じの【犬】が・・・現れる。その数、十五匹。
大小さまざまな形でそろったその【犬】たちは、統率のとれたかのように動きだし、シャルルを取り囲みつつも、二体だけ黎迩のほうににじりよってる。・・・この状況で、一番好ましくない状況だった。なんにもできない黎迩に、二体もの【化け物】をあいてにできるわけがなく、

「れいじ!!とりあえず逃げるのです!!絶対に後でむかえにいきますから!!」

そういいながらシャルルが取り囲まれつつも【犬】の首をはねるのが見えた。それを見て一瞬吐きそうになるが、黎迩は吐き気を無視して走り出す。その速度は一般の高校生よりはちょっとばかし速く、黎迩が運動神経がよいということが伺えるが、いかんせん、相手は【化け物】だ。黎迩が逃げ切れるはずも無いので———その住宅街の地形を上手く活用して、黎迩は逃げることにした。
後ろから死を誘うような唸り声がきこえてくる。よだれをたらしながら、狂ったかのように黎迩に迫ってくる感覚がわかる。黎迩は体を九十度横にまげて、曲がり角に入ると、そのまま一直線に続く道をダッシュで駆け抜けて、大通りに出た後もう一度複雑につながる曲がり角をまがって路地に入る。【犬】たちは黎迩のその相手を惑わすかのごとく逃げる姿に怒りを覚えたのか、けして犬のそれではない、どちらかというと猛獣のそれに近い咆哮をあげながらも黎迩を追う。
その距離は縮まることは無かった。このあたりの地形を理解している黎迩だからこそできる逃走術だった。追っている側は追われている側がどの道を進むかわからないので、黎迩が突発的に壁を曲がったりすることによって今までだしていた速度が失速してしまい、また初めから走りなおし、ということになる。相手が人間ならばその不利を悟った時点であきらめてくれるのだが、相手は【化け物】だ。それが通用するはずがなかった。
黎迩の息がだいぶあがり始めてくる。そもそも運動をここ最近やっていなかった黎迩にとって、これはつらいとしかいいようのない逃走術だった。というより、あきらめというものをしらない、欲望と快感を求めるその【化け物】たちは体力という概念が存在しないのだろうか、いっさい息を切らすことなく、スピードも最初のころからぜんぜんかわらないその速さで黎迩のことを追い続ける。その距離もじょじょに縮み始める。
黎迩が再び曲がり角に入る。そのすぐ後に二体の【犬】が軽率の取れた動きで曲がり角にはいり、黎迩を追う。そして・・・

「しまった・・・っ」

黎迩はうめく。距離が縮まりつつある現状で———一本道の曲がり角に入るのは———間違いだったと。
黎迩の服になにかがふれる。それは牙だった。その牙が黎迩の服のすそを引きちぎり、黎迩をその場に倒させてしまう。黎迩はいきなりおこったそのことに反応することができずに、地面に頭を叩きつけられる。ぐぁっ・・・とうめいた黎迩は、逃げ切れなかったことに憤りを覚え・・・本当に、逃げることすらまともにできなかった自分の無様な姿を思い浮かべて———諦められるか、と、自分の首もとに近づけられた【犬】の頭を殴り飛ばし、すぐさま跳ね上がるようにして立ち上がり、ダッシュして逃げる。・・・ただあそこであきらめるよりも、逃げていたほうが———可能性があったからだ。自分が助かる・・・ただひとつの可能性が

「雑魚のわりにはなかなかいい動きをしてるんだな」

そして———その瞬間、黎迩のすぐ横を、銃弾の形に光るなにかが二つ通り抜けて、正確に二体の【犬】の、脳がのこっているほうの頭を貫いく。

「そもそも・・・貴様らのような【下僕】が人間を喰らおうなんて考えるのがまず第一に早いんだよ」

そしてまた、その少しだけ物事を楽観的に考えているかのような口調ではなたれた少女の声に呼応するかのように、色とりどりに光る銃弾のようなものが出現して、それぞれがすべて【犬】の体に吸い込まれるかのようにして放たれ、【犬】たちが悲痛な悲鳴をあげる。
その光景を呆然と眺めていた黎迩は、その声の主を探す。だけどもその姿はどこにもなくて、それでも声が聞こえてきて———

「くたばれ」

最後に、もう一度色とりどりの銃弾がどこからともなく出現して———【犬】の体のいたるところに風穴をあけて、その姿を消滅させてしまった。
呆然と黎迩はそれを眺める、あまりにあっさりと倒されてしまった【犬】たちがいた場所をながめながら、再び声の主を探すために首をふる。だけどもやはりそれらしい姿はなかったが———

「こっちだよ」

真上から聞こえてきたその声で———ようやく、その姿をたしかめることができた。
その少女は、黎迩のいるすぐ近くの家の屋根から顔をだしていた。すこし癖のある金色の美しい髪の毛。目は緑色で見ているとどこか吸い込まれてしまいそうな雰囲気を漂わせていて、シャルルとは違う、少しだけ大人っぽい雰囲気を宿した少女がそこにいた。
その少女は屋上からヨッ、という掛け声とともにとびおりて、地面に着地する。黎迩の前にたったその美人さんは・・・握手を求めるかのように黎迩に手をさしだして

「暁寧々だぜ。よろしくな」

と、前歯を見せて爽快に笑って見せた。
黎迩は少しばかりしどろもどろになりつつも、汗でびっしょりとなった自分の手を見返して、ズボンで強引にぬぐうと、それを見た寧々と名乗るその美人さんは笑う。美しい雰囲気を漂わせている彼女には少しばかり不似合いなほど子供らしく笑う。だけども、それがまたその美人さを際立たせているようにも見えて・・・お姉さんタイプな女性がちょっぴり苦手だったりする黎迩にとっては、ありがたいギャップだった。

「お・・・俺は夜峰黎迩だ。た・・・助けてくれてありがとな」

「ハハハ!!お前かわいいなぁ・・・。なぁに、あいつが気に入ったおもちゃだ。そう簡単に壊させてたまるかよ」

「あいつ?」

「ああ、シャルルのことだよ。あいつが誰かを気にかけるってめずらしいことだからなぁ・・・でもま、だいたいわかるような気がするよ、あんたのその・・・目を見ているとな」

にらみつけるかのようにして寧々は黎迩と目を合わせる。黎迩はそれに、自分のすべてを見透かされているかのような気がして・・・目をそらしてしまう。それを見てやっぱお前かわいいよとかいいながら寧々が黎迩の肩をバンバンと叩く。黎迩はそれに

「か・・・かわいくなんかねぇよ」

とせめてものばかりの反抗をする。

「お?そうか?」

とかいいながらニヤニヤ笑っている寧々のことを、黎迩はまじまじと見つめる。
その寧々の格好が少しばかり気になったのだ。
今の自分と同じような、まったくもって外にでるような姿ではないと思われる、短めのジーパンに、ちょっとだぶだぶの丈の長いTシャツ。
普通すぎて今の時期だと誰も着ていないような姿格好をしているが、とくにそこには気をつかっていないという現われなのだろう。だけども、その手につけられている黒い皮製のグローブはいかにも高級そうで、膝上あたりまで覆いかくす黒いブーツはシャルルのつけている漆黒のレギンスにも負けず劣らない不自然さをかもしだしていた。いってしまえば、グローブとブーツだけ力をいれているといったふうな感じの服装をした、珍妙な美人さんだった。あと少しだけ話てわかったことがあるのだが、どうやらこの美人さんは他人との間に壁を作らないタイプの人間らしかった。どちらかというと黎迩にとってはありがたいタイプの人間だ。

「ま、とりあえずそれなりに関わるとおもうから念のため、私はお前よりいっこ上の先輩ってことでよろしくたのむぜ」

「・・・ていうことは十六歳ってことか?」

「おおぅ・・・先輩にため口をきくとはこいつ、なんたることか!!ってそんなことはどうでもいい。とりあえずそのとおり、十六歳だぜ」

「・・・もっと年上かと思ったぜ」

「おおっと、それは聞き捨てならないなぁ!!それは私がおばさんだとでもいいたいのか?このくそじじい!!」

「ってなんでそうなるんだよ!?ていうか俺はじじいじゃないっ!!」

「なら私もおばさんじゃねぇ!!」

「だから俺は一言も・・・」

「なんて冗談だよ、ハハハ!!」

黎迩の肩を叩きながら、さも面白いといわんばかりに笑うその寧々の姿を見て黎迩は、緊迫したこの雰囲気を一切忘れてしまいそうになったが・・・そうもいかなかった。
寧々が笑いながら黎迩をかばうように前にでる。するとその視線のさきには、さきほどと同じような形をした【犬】が五匹、曲がり角を曲がってくるところだった。ここは壁と壁、家と言えにはさまれてしまっているせいで狭いため、一匹一匹をあいてにしやすいという利点があるが、シャルルみたいに武器を使って戦うのならばかなり不利なものになるだろう。だけども、寧々はそんなことは興味ないな、といわんばかりに【犬】たちをみながら

「一撃で終わらせてやるぜ」

そういって、手を前に突き出す。
その手を一度上にあげて、そのまま下に、垂直に降ろすという不可解な作業をした寧々が、一言口にする

「開け」

そう寧々が言った瞬間に———その寧々がさきほど指さきで描いた線が空気中で裂かれ始めるそれは縦に開いた目のような形にも見えるし、また違うものにも見える。後ろからだとよくわからないのだが、それが寧々の力だということが・・・黎迩にはわかった。
【犬】の一体が寧々にむかって猛然とダッシュする。その速度はあまりにも速く、よくさっきまで逃げられてたなとか黎迩は思いながら、後ろにじりじりと後退していく。恐怖に気おされながらも、寧々の邪魔をしない程度に———。

「ま、見てなって。こんな雑魚、私の敵でもなんでもねぇ」

そう黎迩に笑いかけながら、寧々はその作り出した隙間の線をさらに広げるかのようにして、上にまた線をひき、下にも線を伸ばす。その裂け目はさらに広がって息、やがて寧々の身長と大差ないほどまでにその裂け目が広がる。
そこで寧々は笑う。あまりにも楽しいといわんばかりに・・・その力を使うということが、あまりに楽しくてしょうがないといわんばかりに・・・笑うのだ。

「さぁて雑魚ども・・・私の愛をこめた弾幕、喰らっとくかい?」

その言葉とともに、無風だったはずのこの【世界】に強烈な風が吹き出す。そう、それはまるで、別の次元からあらわれた風のように・・・、その隙間から、その裂け目から・・・あふれ出していた。
やがてその裂け目は開く。縦に開かれたかのような瞳のような形に大きく開き、そこから風を噴出す。【犬】とそれに一瞬ひるんだが、すぐに体勢を立て直してかけだし、だが———寧々より半径五メートル。そこからさきに進むことは・・・かなわなかった。
そう、さきほど、黎迩を追っていた【犬】がなったように・・・その体のいたるところに風穴をあけ、もはや自分が死んだということすらわからない程度に原型をなくしてしまったその【犬】は、音もなくその姿をけしてしまう。一瞬のことすぎて、血すら飛沫をあげることはなかった。それに黎迩は驚愕の表情をうかべて、寧々は笑う。

「ほらこいよ雑魚ども。テメェら全員皆殺しにしてやるよ!!」

それに反応して【犬】たちが咆哮する。狭苦しいこの通路を無理やり四体ではいろうとした結果入り口あたりでつっかかってしまい、身動きがとれなくなってしまう。だがしかし、その闘争心はなくなっていないのか、煩いばかりの咆哮をあげ続ける。それに寧々は、寧々とその裂け目は近づいていく。どういった原理で裂け目が動いているのか黎迩には謎だったが、黎迩はいつ自分が危険に及ぶかわからないので寧々の後ろをついていく。
寧々は【犬】たちと十メートルぐらいの距離の場所で立ち止まり、裂け目にむかってこういうのだ。動けない敵に容赦のない一撃を与えるために———その、力を放つのだ。

「さあ・・・雑魚ども、命乞いをしてももうおせぇからな!!」

隙間がその声に呼応するかのように眩いばかりの光を放ち始める。瞳がたに開いていたその隙間は中央からさらに大きく広がり、その中から・・・さきほどの弾幕とは比べ物にならないぐらいに大きい、さきほどの弾幕の攻撃力をみているかぎりこれはあたったら本気でまずいんじゃないかと思えるぐらいの威圧感をだしていた。
その例にもれることなく、それは【異常】だった。隙間からでてきた、大きさでいってしまえば体重百五十キロ台の男のサイズと同じぐらいの大きさのそれが【異空間時計】の中にあらわれたことによって、強烈な風が吹き荒れたのだ。それはまさに、台風の日に無謀にも外にでているのと同じような感覚で、黎迩は別の意味での危機を覚えてしまっていた。