ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Ebony girls dual Fencer ( No.2 )
- 日時: 2011/08/18 05:10
- 名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)
First chapter・・・Storage
さかのぼること九時間前
その日はいつもとかわらない、普通の・・・男子高校生、というよりも、普通の一介の高校生として、あたりまえすぎる光景のもと朝が始まった。
夜峰家の長男であり一人っこである黎迩は、両親ともども共働きのために、毎朝用意されている朝飯を一人で食べる、というところから朝が始まるといっても過言ではなかった。
「・・・ねむい」
誰にいうまでもなく、黎迩はそんな言葉をもらす。
夜峰家はもともと、古い旧家とかそういった類のものではなく、むしろごく一般的な普通の家庭だ。父方のほうがだいぶ長くから夜峰家を相続していると聞くが、ただそれだけである。
適当に朝飯を食いながら、黎迩は時計を見上げる。するとそこにはと七時十分という時間が記されており、学校までの距離がだいたい十分もかかんない距離であるために、ぜんぜん余裕だな、とか思いながら、テレビをつけることにした。
テレビには、朝のニュースが流れており、天気予報だの政治経済がどうこうだのといったさまざまな情報が飛び交っているが、どれも黎迩の頭に入ってくることはない。そもそも、朝のニュースはだいたい記憶に残らないものがおおいというか、むしろまじめに見ている人は少ないんじゃないかと思っても不思議ではないぐらいじゃないのか?と黎迩は誰にいうまでもなくそんなことを思う。むしろ頭に残るものっていったらだいたい天気予報ぐらいしかないのもそれはまた事実なので、気にせずにニュースを左から右に受け流しながら朝飯である食パンをほおばりながら、その隣にあるサラダにドレッシングをかける。
簡素に食事といえるぐらいにシンプルな食事なのだが、別に黎迩は気にしない。むしろ、昼にガッツリといつも食べているために、朝飯はあんまり多くしないでほしいといったのは黎迩のほうなので、文句が言えるはずもない。
適当に飯を食べ終えた黎迩は、食器を片付けることなくそのままリビングをあとにして、自室のある二階の部屋に戻り、鞄の中に適当な道具を詰め込み始める。高校とはいっても、毎日教科書を持ち帰っているわけでもなく、そういった規則もないので、だいたいもっていくものは授業とは無関係のものばかりなのだ。
まだまだ時間がありあまっているために、黎迩はどうしようか、と一瞬思案顔になるが、すぐさま今日は朝風呂でもしてくかな、とか思ったりもして、二階の、黎迩の部屋の隣にあるぜんぜんおきてこない、このまま寝てたら学校遅刻するぞといいたいぐらいおきてこない妹の夜峰裕香の部屋をちらりとだけ見て、おはようと小さくつぶやき、もう一度一階に下りて、今度はリビングのほうには向かわずに、そのまま風呂場に直行する。
洗面台と隣接している風呂場は、さほば大きくはない。かといって、せまいわけでもないので、まぁいってしまえばありきたりの風呂場というものだ。
黎迩は、寝巻きであるジャージを脱ぎながら、ふと思って洗面台のほうに目をむける。洗面台の近くに洗濯物を入れる籠があるために、どうしても洗面台の近くで着替えないといけないのだ。その洗面台には当然のように鏡があるわけで・・・そこには———少し茶色がかった髪の毛、ジャージを脱いで、シャツ一枚になったからわかる少しばかし鍛えられた体、それなりに整っている顔立ち、鋭い目つき・・・一言でいってしまえば、あまり目立つようなタイプではない、普通の少年の姿がそこにはあるわけで
「・・・そろそろ髪きろうかね」
とか鏡を見ながら思ったりするわけで、だけどそう思ったところで結局髪の毛を切れるのは親がいる休日のどちらかしか無理で、しかも今日は週の始まりである月曜日のために、あと五日ぐらいまたないといけないという現実をつきつけられたりもして、ちょっとだけ元気がなくなる。
そんなことを考えててもしょうがないな、と自分に言い聞かせるかのようにして黎迩は鏡から目をはなし、脱ぎ終わった洗濯物を洗濯籠にいれて、ちょっと贅沢な気分になった朝風呂を開始するのだった。
「あ、黎迩く〜ん、おっはよ〜!!」
「あ・・・ああ、幸凪、おはよう」
朝風呂にはいって、今日はなんかいいことがありそうだぜ・・・とかなんとかいろんなことを考えながら家をでたのが八時十分の出来事となる。
学校指定の制服に着替えた黎迩は、そのまま鞄をもって家をでて、それからだいたい五分ぐらい歩いたところで一人の生徒に捕まったのである。
黎迩の家は住宅街の真ん中らへんにあるために、そう、黎迩とおんなじように、近いから、といったふうな理由で・・・水無月高等学校に通う生徒がそれなりにこの場所を通るのだ。別に学校に行く道がひとつというわけでもないのだが、この道が一番の近道であることを知っている生徒は多いらしく、黎迩もそのうちの一人だった。
黎迩は、後ろのほうからかかった声の主が誰だかだいたい予想がついていたので、振り向きざまに返事をする。その黎迩の視線のさきには、同じく水無月高等学校の指定の制服をきた・・・幸凪遥、という名の女子生徒の姿があった。
黒髪のショートヘアーで、身長もそれなりにあって、体のメリハリちゃんとしている。指定の制服であるセーラー服とプリーツスカートという組み合わせは、彼女の活発的なイメージをさらに際立たせているようにも思えるほどだった。スカートの中から伸びる足はそれなりに鍛えられているのだろうか、ほっそりとしていながらも、引き締まっているイメージがあった。
だが・・・黎迩は正直、この女子生徒を苦手としていたのだ。
実際問題、黎迩は普通すぎるタイプの人間で、こういった活発てきでかわいらしくてなんというかちょっともてそうなタイプの女の子とお友達てきな関係にはべつになってもかまわないのだが、あれなのだ、ちょっと元気すぎて黎迩のテンションがついていけないところが多くあるのだ。だからだろうか、黎迩はちょっと元気を、朝風呂にはいって得た元気をちょっとばかし失いつつ・・・
「そしてさようなら」
「え、ちょ・・・、ちょっとまってよ黎迩君!!そんなあからさまに私を避けるような態度とらないでよぉ〜!!」
「ふっ・・・俺は朝からそんなテンションの高いやつと知り合いになった覚えは・・・」
「とかいいながらさっき挨拶したじゃん!!」
早歩きで歩きだそうとした黎迩の肩を、がっしりと両手で捕まえる。それによって黎迩は前に進むことができなくなり、想像以上の力に拘束されながらも、なんとか逃れるための手段を頭の中でいろいろと模索し始める。しかし
「黎迩君、しばらくみないうちに成長したわね〜ん・・・」
とかいいながら、遥が黎迩のあたりまえのように平べったい胸に手をのばしてくる。さすがにちょっとばかし鍛えているとはいえ、女性のそれほどもりあがるわけではないのが男の胸・・・否、胸筋というものだ、黎迩の胸は遥の手にすっぽりとおさまり・・・
「ちょっ・・・おま・・・」
「ぐへへへへ・・・こうすりゃええのか?こうすりゃええのか〜?」
「あっ・・・やめ・・・ってなにしやがる!?」
黎迩が若干強引に遥の拘束を解き、引きつった笑顔で遥のことを見る。というよりも、美少女が朝っぱらら男子生徒にセクハラするっていったいどうことだよとかそんなことを思っていたりもしたのだが、当然それを口にだすわけでもなく
「それはもちろん、愛しの黎迩ちゃんを愛でるために・・・」
「まて、おかしい、俺は男だ、そしてお前は女だ、OK、これどういうことかわかる?」
「つまりあれだね!!愛があれば関係ないってことだよね!!」
「・・・じゃ、俺急いでるから」
「って黎迩く〜ん、冗談だってば〜!!」
顔を少し赤らめながら、黎迩は早歩きで再び歩き始める。それを後ろから遥がとてとてと追いかける。
一言でいってしまえば、美少女に愛しのだとか愛でるだとか、愛だとかいわれるのはものすごく恥ずかしいのだ。だから黎迩は顔を見られないようにいつもの数倍早く歩く。そう、黎迩はこういったタイプ、恥ずかしいことを平気でいってのける元気娘が苦手なのであった。
毎日が平穏で、なにもない、普通の日常を生きていく日々・・・そんなことに、黎迩は退屈していた。
別に、つまらないとかそういうわけではなかった。今のように、苦手だけれどもおもしろい遥とかが周りにいたりして、つまらないはずなんてないのだ。だけれども・・・なにをするにもやる気がなくなってしまった黎迩にはもう、この日常を、平穏すぎるこの日常を覆せるほどの、気力など残っていなかったのだ。———そう、なにもかもを失ってしまった・・・自分自身といってもいい———剣道というスポーツを失ってしまったあの日から———黎迩にはもう、なにをするにもやる気がなくなってしまったのだ。
キッカケは些細なものだった。大会で、たまたま同じところで習っていた先輩とあたり、その先輩が黎迩に負けろといってきて、それでも黎迩は剣道を本気でやっていたから、当然のごとくそんなせこい手を使うような先輩のことを圧倒して倒した。そして黎迩はその大会で優勝し、先輩は一回戦敗退となった。
そのときの屈辱からなのだろうか、先輩は黎迩に嫌がらせをするようになった。始まりは黎迩の胴着に落書きをすることからだった。だがそれはしだいに派手になっていき、小手を隠され、黎迩専用の竹刀を真ん中からへし折られ———最終的に、黎迩本人にたいしても、嫌がらせの範疇をこえたその行為を———するようになっていった。
最初は黎迩が横を通ったときに肩をぶつけるものから始まった。それは当然のごとくエスカレートしていき———裏に呼び出し黎迩のことを集団で圧倒し、ボロボロの雑巾みたくしたあとに、サイフを奪っていった。そして———そんな日々が、二ヶ月も続いたのだった。
黎迩はそのころは中学二年生で、当然のように、そんなことを親にはなせるわけもなく・・・そして、自分でもその過激になっていくいじめ・・・誰も味方ではなくなってしまったその現状を解決できるわけもなく———唯一相談できる相手であった妹の裕香に多大な迷惑をかけ———その事件は、起こるべくして起こってしまった。
誰も奪ってはいけない———人の夢・・・黎迩の夢を、その先輩は・・・奪った。
いつもと同じように、道場の裏に呼び出されて、いつもと同じようにボロ雑巾のようにあつかわれていた黎迩にむかって・・・先輩は、ゲラゲラと笑いながら———こういったのだ。
(黎迩く〜ん・・・最近ちょぉっと反抗ぎみだねぇ?上下関係ってのをわきまえない餓鬼には教育が必要だなぁ?)
そして———道場から、ひとつの木刀をもってきたのだった。
ほかの、黎迩をノリでいじめていたやつらも、さすがにそれはやばい、といった。だけども、当然のようにそれはとまらずに———黎迩の左肩に、思い切りたたきつけられた。
それがきっかけで———黎迩の左肩は骨折、幸いにも一年でその怪我は治ったが、親がその事件をしって、今のこの街に引越して、黎迩には剣道をやめるようにと告げた。当然のように、左肩は直ったはいいけど、これ以上剣道は続けられないという医師の判断というか、医師の宣告により・・・黎迩の夢は、そこで絶たれてしまった。
当然のように黎迩は絶望した。どうして自分がこんな目にあわなければならない、どうして自分が———自分が———と、何度も何度も、そんな言葉を吐きながら、泣き続けた。妹の裕香は、そんな黎迩をはげましたりしたが、黎迩は反発して、傷つけた。そしてその自分のその行動に・・・黎迩はまた絶望したりした。そんな日々が一年続いて———ただただなにもすることなく、高校にはいって———普通すぎる、日常を送るようになった。
だからこそ———黎迩はつまらなくなくても、退屈を感じていた。自分がなにもしていないのなんて信じられなかった。自分が夢を絶たれたなんて、信じられなかった。だから現実から逃げて———ただただ、平凡すぎる、平穏な日々をすごしていた。
そこで一度、黎迩は空を見上げる。空は、澄み切ってはいないものの、綺麗な青色をしていた。ところどころに灰色の雲が見えるところから、雨がふるのではないかと伺えるけれども、今日の天気予報ではべつにそういうことはいっていなかったので、気にしない。
「黎迩く〜ん!!まってってぱぁ〜・・・ちょっ・・・ほんとにまってください」
後ろからちょっとかわいそうなぐらいに弱気になってしまった声が聞こえて、ようやく黎迩は後ろを振り返る。頭から、失ってしまった夢の記憶を消し去り、再び現実を逃避して、黎迩は後ろを振り返る。そこにはちょっと涙目になってしまっていた遥の姿があって、黎迩はそれに少しだけドキッ・・・としてから、ハァ、と一度ため息をついて
「言うことは?」
「ご・・・ごめんなさい」
「ん、よろしい」
そこで一度黎迩はニヤリ、と意地悪気な笑顔を遥にむけて、遥がそれに頬をふくらませておこったぞ〜、てきな雰囲気を放ちはじめる。
それを見て再びはぁ、とため息をついて、黎迩たちは通学路を歩くのだった。