ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Ebony girls dual Fencer 【企画始動】 ( No.23 )
- 日時: 2011/08/27 23:54
- 名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)
「・・・コイツッ!!しつこいのです!!」
可愛らしく、そしてどこか清んでいる声がそう叫ぶと同時に、生物的な血・・・よりも赤黒い、どちらかというとゾンビの血を思い出すかのような色をした血が飛び散り、なにも動かなくなってしまった住宅街の壁に広がる。
【犬】三十頭・・・いや、もっといるだろうか。黎迩が逃げたすぐあとにあらわれた大量の【犬】を一体一体確実に仕留めながらシャルルは攻撃の手を止めない。
三十頭いる【犬】は、どこもかしこもシャルルがつけたのだろう、刀傷というか、切れ筋がいくつもうかんでいて、もともとどこかしらか流れていた血以上にその切れ筋から滴り落ちている。
シャルルの漆黒の剣はそれでも、赤黒く染まるということは無かった。どこまでもどこまでも・・・漆黒の闇の色をしていて、何度も何度も肉を切っているのに、血をながさせているはずなのに・・・一滴の血も、シャルルの剣にはついてさえいなかった。それ以前に・・・シャルルはここまで大量の敵を開いてにしていても・・・傷ひとつなかった。
か弱い女の子があぶなっかしく武器を振るうのとは違う。屈強な男が力強く武器を振るうのとも違う。流れるように軽く、風のように速く動くシャルルのその柳眉な動きに【犬】たちは反応がついていっていないのだ。反撃にでようとしてもシャルルの【漆黒の剣】によって叩き斬られ、その存在をなくしてしまう。だからといって動かなければならないからいっせいに飛び掛ると、シャルルが【異能の力】を放ってそれをふせいでしまう。
人間相手には絶対の力をもっているはずの【犬】は・・・シャルルの前ではただの蠅のような存在だった。
「お前らにかまっている暇なんてないのです!!早く・・・早く黎迩を助けないと!!」
そういいながらシャルルが剣を横薙ぎに振るう。それはあまりにも軽く、どの【犬】にもあたっていなかった。宙を薙いだ剣はシャルルの動きにあわせて一回転して、そのままシャルルは一周したところで一度上にむかってジャンプする。するとさきほどまでシャルルがいたところには、剣の切っ先の軌跡の円が魔方陣を作り出していて・・・そりにむかってシャルルは剣を地面に突き刺す目的なのだろうか、思い切り上からなげつけて、そのまま魔方陣の中心部に突き刺してしまう。
丸腰になったシャルルを見上げて、【犬】たちは殺到しはじめる。今まで圧倒的な力をはなっていたのがシャルルではなく剣のほうだと勘違いをしてしまっているのだろうか、地面につきささっている剣と魔方陣には目もくれずにシャルルが落ちてくるのを、咆哮をあげながら待っている。
だがシャルルは・・・そこで口を開いた。それはまるで呪文を唱える魔術師のように・・・世界をあざ笑う、神のように———
「荒れ狂え・・・【漆黒の剣———デュアルフェンサー】」
その瞬間———剣がシャルルの声に呼応するかのように、シャルルの声を否定するかのように・・・内側から白い光を放ち始める。そのたびに魔方陣が漆黒に染まっていき———やがて剣から、頭のなかに直接響いてくるかのような、人間てきではない、生物てきではない・・・無機質でしわがれているかのような声が———聞こえてくる。
『我は堕ちた魔剣・・・【白夜の剣———デュランダル】』
刹那に鳴り響く轟音、刹那に揺れる地面、刹那に塵となる【犬】・・・すべてが一瞬の出来事だった。さきほどまでの住宅街の一面は、一瞬で・・・剣から放たれた白い光のような稲妻によってクレーターのような跡がそこにのこっているだけだった。風がそのあとにふきあれ、シャルルは一瞬それにとばされそうになるが、すぐに地面に着地して、白くなった剣に捕まりそれを耐える。
自分でさえも危険にしてしまうほど強大な威力を放つ一撃・・・自身のいる組織と同じ名前をもつ剣の力の解放・・・封印の解放。それをすることによって、今までシャルルは大切なものを失ってきた。自身の両親さえも・・・自身の立場さえも・・・自身の人生さえも。
だけれども、シャルルは自分のことを弱いと思っていた。なにもかもを守れなかった、壊してしまった自分は弱いと感じていた。過去にいつまでも振り回され、過去に囚われ続け・・・過去に怯え続ける自分は弱いと思った。だから、自身が剣を握ることなんてもう二度とないと思っていた———。こんな力を使うことなんてないと思っていた———。
だけど、自分の周りではその力を使い続ける仲間がいた。自分と同じような過去を繰り返していながらも強く生きる仲間がいたのだ・・・そして、今日出会ってしまったのだ———【デュアルフェンサー】が選んだ———契約者に。
そのことはシャルル本人しかしらない、誰にもいうことのない秘密のひとつだった。その剣を手にしたときからシャルルは・・・その契約者を探していた。自身と同じ闇を背負い、それでも自分ではなく誰かを守ることを誓ったあの優しすぎる少年のことをずっと探していた。
だからこそ、シャルルは守ろうと思った。ただのイレギュラーな存在だからではない、ただの仲間だからではない・・・それは———
そこまで思ったところでシャルルは首を振る。弱くなった風、それを確認してシャルルは剣を地面から引き抜く。引き抜くと一気に白くなっていた剣は漆黒に染まり、なにごともなかったかのように風がなくなり魔方陣も消える。だがそのあたりにはただ吹き飛んでしまった街が広がっているだけで、血のあとさえも、【犬】がそこにいたという証さえも、なにもかもが消えてなくなってしまっていた。
「・・・黎迩っ!!」
だがシャルルはそれに眼もくれずに走り出す。今日出会ったばかりの少年を助けるために、もしかしたら自分の同僚が助けに入っているかもしれないとも思ったが、自分が助けなくてどうするんだと自身にいいきかせて走り出す。そもそもシャルルは黎迩に一度だけ助けられているのだ。いくらシャルルが【異能の力】をもっていたとしても、ビルの屋上から飛び降りて、着地を失敗してしまえばただではすまない。
それだからこそ黎迩のあのとっさの行動というのはシャルルにとってありがたいものだった。あんなところで自身の目的を潰すわけには行かないから・・・【狂い神】をすべて殺すまでは———。
「・・・そうじゃない、今はそんなこと関係ないのです!!」
そう、関係ない。【狂い神】のことなど今はどうでもいい、とシャルルは首をふる。一番大事なのは・・・自分が黎迩を助けることであって・・・黎迩が誰かに助けられることではない、黎迩が殺されるということではないのだ。結果的に誰かが黎迩のことを助けたとしても・・・最終的に黎迩を自分が助けられればそれでいいのだ、とシャルルは強く思う。
「・・・またなのですか!?」
しかし、そのシャルルの動きは再び封じられる。まだ一分もたってないというのに【犬】が一せいにせまってくるのが見えたのだ。その狙いはあきらかにシャルルを狙っているものであり、あきらかに戦力を分散させようという動きが見て取れた。
武器はしまってはいない。いつどこでどんな敵があらわれるかわからない【異空間時計】の中で武器をしまうというのは自殺行為といってもいい。
見て取れる数はだいたい三十近い。それを倒すことはたやすいのだが、シャルルにとって今は時間が惜しかった。だから・・・力を使うことは惜しまない。
「契約の声に呼応しろ・・・【デュアルフェンサー】!!」
清んだ声。その言葉は呪文を唱える魔術師のように・・・世界をあざ笑う神のように、その言葉を噤んだ。
それに呼応するかのようにして剣が反応する。その内から白い光をあふれ出しながら・・・もとの漆黒の色とはかけ離れた純白の色となった剣が、脳に直接響いてくるかのような声で、脳に直接語りかけてくるかのような声で———
『契約、第一段階解除・・・【ゲイ・ボルグ】を起動』
その瞬間、剣に紫色の炎が宿り始める。剣をもっていないほうの手、つまりシャルルの左手にもその紫色の炎が宿り始めたかと思えば、それはまるで意思をもっているかのようにして荒れ狂い・・・大小さまざまな形をした【犬】たちにむかって、竜の頭のような形を象りながらはなたれた。
グウウゥゥゥアアアァァ!!
【犬】と炎の竜の咆哮が重なるようにして響く。果敢なのか無謀なのか、一体の【犬】が竜にむかって突進する。だがしかし、無慈悲にも竜は【犬】を一瞬にして塵にしてしまい、後ろに続いた【犬】たちも一瞬にして塵にしてしまう。
圧倒的なまでの破壊の力。【デュアルフェンサー】・・・組織名と同じ名前をもつその剣・・・これを組織の人間は【異形】と呼んだ。そしてそれを扱うシャルルのことを・・・【化け物】と呼んだ。【異形】という名の化け物を殺す組織の人間のほとんどがシャルルのことを化け物と呼び、傷つけた。そのことからシャルルは自身が化け物と呼ばれることを嫌う。人が化け物と呼ばれるのを嫌う。だからこの力を、【デュアルフェンサー】の力を使うときのほとんどが、一人で行動しているときなのである。
別に秘密にしているというわけではないが、これによって———最近配属された【デュアルフェンサー極東支部】の人々にまで化け物と呼ばれることを恐れていたのだ。
だけど・・・それももう無用な心配だ。というよりも———【極東支部】には自分と同じような・・・圧倒的な力、それこそ【異形】を一瞬で殲滅させてしまうような力をもった【異能力者】であふれかえっているのだ。いわば【極東支部】は・・・【異端者の集まり】というわけだ。
「そこをとっととどくのです雑魚ども!!」
そういいながらシャルルは走る。竜によってことごとく塵にされる【犬】たちを無視して、その場を駆け抜ける。後ろから聞こえるのは竜の咆哮と【犬】の断末魔のみ・・・自身を追うものはもう、いなかった。
それにしても、とシャルルは思う。今回の【異空間時計】というかなんというか、今回の【異形】はどれくらい大物なのだろうか、と。
もともと、【異端者】ばかりが集められている【極東支部】周辺では、力の強い【異形】が多く現れると聞く。噂では、【異形】を形創るなにかが【極東支部周辺】・・・【日本】という国のどこかにあるのではないか、というのが【デュアルフェンサー】の考えだった。それを裏付けるものはなにもないとしても、シャルルにはひとつだけ覚えがあるのだ。その【異形】を形作る存在じゃなかったとしても・・・【異形】を操る存在を、一人だけ、シャルルは知っているのだ。でも、今回のそれは関係ないとシャルルは断言するだろう。
そう、力の強い【異形】は・・・【狂い神】によって操られることはないのだ。
そのために、前回、黎迩に助けてもらったときの戦いでは、【異形】は弱かった。だから【狂い神】が絡んでいるものと思ったが、自身の部下を殺されたというのにでてこなかったからあれも違う。でも、あのように弱い【異形】がでてきた場合は、かならずといっていいほどシャルルは警戒している。だけど今回はケースが違う。まずはイレギュラーである【黎迩】だ。快感を味わうために【異形】はこれから黎迩によってたかって集まってくると考えるとすると、おそらく今回現れたのは、この区間を締める【異形の主】、つまり最強クラスの【異形】のはずだ。そう考えるとこの多すぎる【犬】の説明もつくし、【狂い神】が関連していないという説明もつくというわけだ。
とにかく、敵が最強クラスなのかどうかはわからないにしても、強者であることはたしかだった。だからシャルルは再び気を引き締めて、黎迩の捜索に力をいれることにした。