ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Ebony girls dual Fencer 【自作絵】 ( No.26 )
- 日時: 2011/08/30 16:26
- 名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)
- 参照: http://loda.jp/kakiko/?id
「れいじ・・・あの馬鹿は!!どうして逃げ足だけは速いのですか!?ていうかどこまで逃げたのですか!?」
再び現れた【犬】の大群を目の前にして、シャルルが咆哮する。怒りを孕んでいるような、どこか黎迩がちゃんと逃げおおせているのかという心配の色を宿しているような・・・なんともいえないような声だったが、【犬】たちには容赦することなく、漆黒の剣を振りかざし、風をも、音をも斬るのではないかというほどの速さでその刃を叩きいれる。目にも留まらぬ速さ。まさにそれにあてはまる速度で切り刻まれた【犬】たちは一瞬でその存在を消滅させていき、なかには逃げるものまでいる。だがしかし、シャルルの爆走は止まらない。一体一体確実に仕留めるのではなく、二体同時、三体、四体同時と・・・とにかく数を減らすべく圧倒的なスピードと圧倒的な大振りでなぎ倒していく。ただの下僕である【犬】にはそれに反応することもできず、ただただ血飛沫をあげ、血を吐き、骨髄を粉砕され、内臓を飛び散らせながら存在を消していく。
一秒も惜しい、シャルルのその思いが形として表れているのだろう。シャルルの振りにはどこか乱雑さが含まれていて、危ういところがいくつも見受けられた。下手をすれば———死角を作ってしまい、戦士として最悪な状況を招いてしまう可能性があったが・・・今のシャルルにはそれを気にしている暇はなかった。
斬る、斬る、斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る・・・ただそれを繰り返す。今まで以上に、ありえないほどに大量出現した【犬】をなぎ倒し、
潰し、殺し、殲滅する・・・ただただシャルルは斬るだけ。というよりも、本体、この【異空間時計】を創りだした【異形】と戦う前にして力はおさえないといけない。何度も何度も【デュアルフェンサー】の封印をとけば、さすがのシャルルでもその疲労は隠せないものになってしまう。だからただ太古から続く一般的な行動・・・斬るだけ。超高速で。
「ああもう・・・どんだけいるのですか!?今回の【異形】はびびりなのですか!?」
そう叫びながら武器を大きく振る。それによって【犬】が三体ほどその体を両断されて、存在をなくす。・・・しかし、シャルルの勢いは、そこで止まってしまった・・・否、きたるべくして、止められてしまった。
ただ我武者羅に武器をふるいまくっていたシャルルは、最後の一振りで勢いあまったのか、剣を手から離してしまう。
「あっ・・・!!」
気がついたときにはもう遅い、剣は斜め上方向に勢いよくとんでいってしまい、隣にある家の屋根を通り越して反対側の道にいってしまう。
丸腰になったシャルルを見て、逃げていた【犬】たちが異常に気がつき、仲間の仇といわんばかりに殺到する。だがシャルルは長年【デュアルフェンサー】としての仕事で培ってきた経験のもとに、とっさな反応で剣術から体術へとシフトを入れ替える。
一番にせまってきた【犬】の真ん中から裂けている頭に右の拳を叩きいれ、ひるませてところで腰を低く構え、一気に拳を振り上げる。
その拳は【犬】の腹を貫き、内蔵をひき潰す。そのまま【犬】の腹の中に入った手をひろげて内臓のひとつをつかむと、一気に引き抜く。
【犬】はあまりの苦痛に絶叫をあげて、そこに悶えるようにして倒れる。だが死なないのは流石【犬】といえよう。シャルルは掴んでいた【犬】の内臓を適当な場所に放ると、その【犬】の後ろから殺到してくる【犬】から距離をとるために一度後ろに跳躍して、それなりの距離をとった。
「・・・くそっ、まずいのです。【デュアルフェンサー】がなければ、力を使わずにこれを切り抜けるのは過酷なのです」
そういいつつシャルルは腰を低く構える。もともと体術は得意ではないために、その構えには達人からみたらちょっとした隙が存在するかもしれないが、それなりに隙のない構えをとりつつ、後ろに後退していく。【犬】たちはそんなシャルルをみて、丸腰と感じたのか大挙して押し寄せる。
だが———【犬】がシャルルのもとにたどり着くことは無かった。
「シャルル!!大丈夫!?」
「————由詩!!」
そう、シャルルの目の前に、突如として一人の女が現れたのだ。
屋根から飛び降りるようにして現れたその女は、由詩という。そう、由詩という名前だけの不思議な少女だった。黎迩ほどとはいわないがれっきとした日本人の髪の色、黒。瞳の色は茶色で、強気なイメージがもてる少女だが、その身長はシャルルよりも高く、だいたい160センチぐらいとうかがえる。服装は【デュアルフェンサー】公認の制服・・・黒い半そでYシャツにシンプルな赤いプリーツスカート。細い足をおおうのは黒いタイツという、いかにもまじめそうなイメージをもてる少女だが・・・その両腕には縦に伸びる細長い傷跡があり、何度もその場所を傷つけているのだろうか、一生消えない傷になっているのは見ている側からでも明白だった。
そこからは今も血が流れている。それはさっきも傷つけたよと言わんばかりに生々しいもので、どこか嫌悪感を誘うどす黒い色の血だったが、由詩のほうは別に気にしていないのだろう、シャルルの目の前にたって、【犬】たちのでかたを伺っている。
そう・・・この由詩という少女こそが、この【異空間時計】にまきこまれたシャルルの同僚の一人だった。
由詩が両腕を自らの眼前に構える。どこか止まっているかのように思えるほど滑らかな動きで前につきだされた腕・・・それを目の前にして、由詩がつぶやく・・・静かで少し弱気だが・・・力のある声で。
「・・・起動【ブラッディエッジ】」
ズズズ・・・という音をたてて、今まで傷口から流れていた血が固まっていく。それは歪な形ではない。ただただ鋭利に研ぎ澄まされたかのような、逆刃の剣が由詩の両腕にくっつくかのようにして固まる。その色はどす黒い・・・赤。血で作られたその刃は、どこかトンファーのようなイメージをもてるが、その切っ先は相手がわにむけられているわけではなく・・・由詩自身にむけられている。そう・・・一言であらわすのなら———魚の胸鰭のようなものだった。
それを腕から生やした由詩は、【犬】にむかって一直線に走っていく。真っ向から迫ってくる由詩に若干気おされながらも【犬】たちは、滑降の獲物だといわんばかりに咆哮をあげて由詩に迫る。だが・・・どこか体術を連想させるその由詩の動きには、ひとつの死角も、ひとつの隙も存在しなかった。
右腕を大きく振りかぶり、拳を振り下ろすようにして放たれた一撃。拳は【犬】にはあたらないものの、その腕に形を創る刃が【犬】を両断する。たった一撃で【犬】はその存在を消し去るが、由詩の動きは止まらない。振り上げるようにして放たれた拳・・・それと同時に刃が【犬】の引き裂き、その反動で由詩は一回転して回し蹴りを【犬】の頭に直撃させる。例によって威力が相当なものなのか、【犬】の頭はからだからきりはなされて、動けなくなる。そのような動きを何度も繰り返し繰り返す。何度も腕をふりあげ腕を振り下ろす。たまに蹴りや投げ技などをきめたりして、【犬】を一人で蹴散らしていく由詩の姿を見ながらシャルルは
「・・・少しの間まかせるのです!!由詩!!」
「りょうかーい!!でもなるべく早く戻ってきてほしいかな、僕は君が思っているほど強くないんだよ〜っと」
のんびりとした口調で由詩はそういうものの、シャルルはどこがですか、とあきれたようにため息をついて足に力をいれる。反対側にいってしまったであろう自らの半身である剣をとりにいくためだ。
シャルルは力強く地面を蹴り、宙を飛ぶ。その勢いで屋上に飛び乗って、もう一度跳躍をして反対側の地面に着地する。どこに剣がいったのか一度あたりを見回してから
「・・・あったのです!!」
といって、わかりやすい、自分の姿格好と同じ色を宿す剣・・・【デュアルフェンサー】をとりに走る。
剣は地面に突き刺さるようにしておいてあった。シャルルはその柄を握り、思い切りひっぱる。シャルルの細腕からはありえないと思うほどの力強さで引き抜かれた剣はなんともなかったが、無理やり剣を引き抜かれたほうの地面には罅が走っていたが、そんなことは気にしなかった。もとより【異空間時計】と現実世界と乖離されているため、ここで物を壊そうがなんだろうが、それに命が宿っていない限り現実のほうではなんの変化もないのだ。気にする要素がなかった。