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Re: Ebony girls dual Fencer ( No.3 )
日時: 2011/08/15 13:34
名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)

「ふぅ・・・やっとおわったぜ」

あの後、遥と一緒に学校にきて、ちょっとばかしクラスメイトにからかわれたりなんなりしたあと、授業が始まり、ようやく四時間がおわって時刻十二時五十分。椅子の背もたれに意気消沈したかのような雰囲気で黎迩がそうつぶやく。もともと勉強は苦手なほうではないのだが、やる気がないために授業とかを聞いているだけで眠くなってしまうのが黎迩の常だった。先生のわかるようでわからない説明を適当に聞き流して、そして聞き流しているだけでは暇すぎるのでいろいろな暇つぶしを模索して四時間を過ごして、ようやく待ちに待った昼休みなのである。

「なぁ夜峰・・・お前最近ちゃんと授業うけてんのか?」

「舟木・・・お前が俺にそれをいうのか?」

黎迩が椅子の背もたれに力なくもたれかかっていると、隣の席から声がかかってくる。そこには、黎迩と同じく水無月高校の男子生徒の制服をきた、ちょっと生真面目そうな顔立ちをした・・・舟木力也という生徒がいた。
あからさまに馬鹿にしたかのような態度でこちらにそういってきた力也は、黎迩にこそそうはいっているものの、その生真面目そうな顔立ちとは裏腹に、勉強をそっちのけで毎日授業中にいろいろな一人遊びを実施している、いってしまえば別の意味でのさぼり魔だった。だからこそ黎迩とは気が合うのだろう、黎迩は親しげにいう。

「毎日毎日へんなことばっかりやりやがって———集中したくてもできないだろうが」

「なにをいっている、集中できないのはお前の集中力がもとからないからだろうが」

「・・・うん、それいわれたら反論はできないんだけどね」

「わかったのならばよろしい・・・っと、さて、今日も購買にいくのか?」

「あー・・・購買、飯か・・・うん、行こうか」

よっこらせ、と力也が机に手をかけて椅子から立ち上がる。黎迩をそれを道地も、まだ絶つ気力がなかったために、ノロノロと机に手をかけて、ゆっくりと立ち上がる。そのさまはまるで老人のような動きで———

「夜峰・・・俺、いいとこの老人ホーム知ってるんだけど———はいるか?」

「・・・?なにをいってるんだお前は」

突然まじめな顔でそういってきた力也に対して、黎迩はちょっと心配そうな目で力也のことをみつめる。その目はまるでこいつ精神やばいんじゃないのか?俺がなんとかしてやらないと・・・とか思っているようにも見えた。

「いや・・・自覚がないんならいいんだけどさ、じゃ、行こうか」

それに気がつくことなく、力也が鞄のなかから財布を取り出して、黎迩を促す。黎迩もノロノロと自分の鞄から財布を取り出して、行こうか、と力也の肩を借りながらいう。やはりそこで力也は黎迩にたいして、老人を見るかのような優しい目つきになるが、黎迩は気にしない。

「あら、黎迩く〜ん、それとついでに舟木く〜ん、今日も購買いくの〜?」

するとそこで、教室の端のほうに集まっていた女子グループのうちの一人・・・まぁ遥なのだが、その遥が、黎迩たちにむかって手をふりつつそういってくる。それに黎迩はめんどくさそうな目で振り返るが、舟木は・・・女子に声をかけられたからだろうか、なぜかちょっとウキウキしたかのような目で振り返って

「ハッハッハ、やだなぁ幸凪さん、俺がついで?冗談じゃない、夜峰こそが俺のついで———」

「ハッハッハ、なにをいってるのかな舟木君。黎迩君がついでだったらこの世界の人間すべてついでだよ」

「くっ・・・おい夜峰!!てめぇその汚らわしい手を俺の神聖なる肩からどかしやがれ!!」

「態度一気に豹変したなお前・・・」

「うるせぇ!!くぅっ・・・幸凪さんみたいな女子に好かれているお前がうらやま・・・じゃなくてお前を殺したいぜ・・・」

「まぁ・・・そんなことより、幸凪、なんか用か?」

若干めんどくさげにため息をした黎迩の隣では、やはり憎憎しげに黎迩をにらみつけている力也とその他男子生徒たちの姿がある。それを確認した黎迩は再び深いため息をつくが、そんなことおかまいなしに遥がこういう。

「黎迩君たち購買いくんだよねー?」

「ん、まぁそうしないと昼飯がないからな」

「昼飯を買いに行くのー?」

「だからそういって———」

「じゃぁ黎迩君はその昼飯を買いに行く必要がありませーん」

「・・・は?」

意味がわからない、といったふうにため息をついた黎迩は、こっちこい、と手招きしている遥のほうに歩いていく。その間にも力也たちは憎憎しげな視線を黎迩に送っている。だが遥はそんなことに気がつくことなく、そのまま黎迩にこいこい、と手招きをし続ける。
黎迩は、女子のグループに近づくにつれ、若干気後れしたかのような態度になるが、そんなことお構いなしに遥が黎迩の腕をとり———言うのだ。

「これをみなされ!!」

そう、そう遥が意気込んでいったさきには———ひとつの、ちょっと女子が食べるにしては多すぎないかと思われるほどの大きさの弁当がおかれていた。
それを見て黎迩は———自分の命が危険だ、と直感で感じとった。
バッと後ろを振り返り、その振り返り際に拳を振るう。するとその先には血走った目をした力也の姿があって———その拳は力也の鼻に強烈にヒットした。

「くっ・・・」

だが敵はまだいる。なにをするまでもなく弁当を食べていた男子たちが突然立ち上がって、みんなして血走った目を黎迩にむけているのだ。
普段はおとなしいやつから超筋肉もりもりなやつまでもが黎迩に殺気とも似通ったその気を漂わせて———一歩一歩、ゆらゆらと、生気をなくした幽霊のような足取りで———近づいてくる。

「そう・・・このお弁当は・・・わ、私がれ、黎迩君のためにつくったものなのです」

黎迩が冷や汗をかいて、まるで世紀末の魔物と相対しているかのような気迫でおもむろに立ち上がった男子たちをにらみつけている間にも、遥が、遥らしくない、ちょっと小さく、弱気な声でそんなことをつぶやく。だが黎迩はそれに反応することができない。まるでゾンビのように立ち上がった力也が黎迩の前に立ちふさがり、黎迩がその脳天に肘轍を叩き込んで、再びノックダウンさせたはいいが、その力也の動きに反応したかのように動き始めた・・・統率のとれすぎている男子たちに引っ張られ、そのまま女子グループの反対側の教室の端っこにつれていかれ———どこから取り出したかもわからない縄で体をギュゥギュウに縛られる。

「えー、これより、被告人———夜峰黎迩の公開処刑を始める。異議があるものはそれを唱えてもいいがそれが通ることはけしてないだろう」

「異議なーし!!」

「ちょっ・・・まてお前ら、俺が異議ある、異議あり異議あり!!」

「なお被告人の言葉には誰も耳を貸してはいけないことにする」

「て・・・ちょ・・・お前ら本当にふざけ———」

「ふざけているのはお前だ!!忘れたのかあの規約を!!」

「っ!!」

「我々は誓いあったではないか———世紀末のあの日に、我々一年四組男子生徒一同は———女子生徒とは適度な付き合いしかしない・・・と」

「・・・っ」

「なのに貴様は・・・私たちを裏切った・・・よりにもよって私たちのアイドル・・・女神・・・まじ天使である幸凪遥さまに弁当をもらおうなどといううらやま・・・じゃなかった、もらおうなどという規定違反の行為を犯した———」

「そ・・・そうだった・・・俺は・・・お前らを———」

「わかってくれたか———同志よ・・・」

「ああ———もう二度とこんなことはしないよ・・・」

縄を解かれながら、感動したかのように目をうるうるとさせた黎迩と、さっきからなんか裁判官っぽいしゃべり方をしていた、どうしてかぜんぜんピンピンしている力也と見詰め合う。そう・・・この二人はついにわかりあったのだ。もう・・・これをきっかけに、この二人の絆は———不滅になるのだ———

「黎迩く〜ん・・・も・・・もしかして、私の弁当とか、いらなかった?迷惑だった・・・?な・・・なら・・・ごめんね?」

「ま、まつんだ幸凪!!別に迷惑なんかじゃないぞていうかむしろうれしいっていうかありがたいって言うか———」

「そ・・・そう?なら———「えー、ただいまより、被告人を公開処刑にいたす」いいんだけど」

「ってもうやだこのクラス・・・」

再び縄に縛られながら黎迩は———あきれたかのようなため息をはくのだった。