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Re: Ebony girls dual Fencer 参照400 ( No.31 )
日時: 2011/09/04 00:05
名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)

「こいつで最後っと」

と、間の抜けた声が聞こえ・・・最後にのこった、一番小さくて今までぜんぜんめだたなかった少し形状の異なった【犬】を両断する。その【犬】はいままでの【犬】とはちょっとばかし異なって甲高い断末魔をあげて血飛沫をあげることもなくその存在を消してしまう。
まるで何事も無かったかのように、【犬】たちの存在はこの場からなくなる。【犬】の体内からでてきた血以外がなくなってしまったこの場所・・・【犬】の返り血を浴びて真っ赤に染まっている少女たち・・・だがしかし、その血もなぜか薄れ始める。本当に何事も無かったかのように、その残虐のあとさえもなくなってしまう。
【犬】は一言でいってしまえばただの残像といっても過言ではなかった。そう、魔法でできた【生物】だ。そのことから、そのぞんざいは形作る中心部を破壊してしまえば消えてなくなってしまう。たとえそれが血であっても、体から切り離された頭であっても骨であってもかわらない。その【魔法】の中心部を破壊してしまうことによってその存在のすべてが跡形も無く、そう、まるでそこになにもいなかったかのように霧散してしまうのだ。
だからこそシャルルたちは殺せる。無視を殺すのもできなさそうな儚い美貌をもつシャルル、生真面目そうで、なにかを殺すという概念を拒んでいるかのような雰囲気をだしている由詩・・・その二人が非情にも【犬】を殺せる理由は・・・それは【犬】が生物ではないからなのだ。
実際、殺している現場を見れば誰もが嫌悪感を表すだろうけれども・・・ここは【異空間時計】の中、気にする要素のかけらも存在しなかった。

「・・・やっと終わったのですか?」

「にしてもシャルル〜・・・なんでこんないっぱいの【犬】に囲まれてたわけ?」

「そんなのは私に聞かないでほしいのです・・・」

脱力した雰囲気でシャルルがそういう。由詩がそれに苦笑いをしてあたりを見回す。そこにはどこまでも広がる【異空間時計】があるだけで、【異形】本体がいるわけではない。
シャルルとしては、すぐにでもぶちのめして黎迩を安心させたいところなのだが、こうも【犬】ばかりしかでてこないと、【異形】本体がいないんじゃないか?と疑いをもってしまうのも不自然ではなかった。
いくら【デュアルフェンサー】のエリートたちであれ、ここまで大量の【犬】を使役する【異形】とは戦ったことが無いだろう、【デュアルフェンサー】の過去の記録をあさっても、それらしき情報はなかったと、シャルルは思い出す。
それならば、ここまで高い【使役能力】をもっている【異形】は・・・やはり、ここ一帯を占める【異形たちの主】、【もっとも力の強い異形】の一体である可能性は高かった。
シャルルも由詩も、それをちゃんと理解していた。黎迩という異端者が・・・なにかをもっているということに。【異空間時計】で動ける人間・・・【能力】を宿していて、おいしくない【デュアルフェンサー】の構成員ではない、ただの人間である夜峰黎迩・・・それを喰らいに、【異形】が集まる。それをあらわすのならば・・・黎迩を守り続けることによって———【デュアルフェンサー】が最初にして最後に求める知識・・・存在、【異形】の根源が———最強の【異形】が・・・現れるのではないか、と。
だがシャルルは、由詩にはわからない自身だけの秘密を抱えている。黎迩本人にさえいえない、でもその本人の運命を大きく狂わせてしまう最悪の秘密をにぎっている———。

「・・・とりあえず、まずは黎迩を探すのです」

「そうだね、その例の【異端者】と合流しない限りは寧々にも会えないし・・・【異形】にも会えない気がするよ」

そういいながら由詩が腕を上にもち上げて、グッと拳を握る。すると、さっきまで【犬】を残虐に切り裂いていた刃が元の血に熔けていく。
その血は由詩の腕を伝い地面に落ちるが、由詩は気にしない。シャルルもその例にならって剣をもっていない左手で首からさがる漆黒の十字架に手をあてて、剣をしまう。互いの能力の干渉は【デュアルフェンサー】内では禁じられていて、お互いがどうやって武器をだしていてどうやって武器をしまっているのかなんてわからないが、そもそもそんなことは【異形】と戦うことにおいて関係のないことなので二人はなにも言わないし聞かない。

「ま、あの堅物のシャルルが気になるぐらいの男に一回会ってみたいもんね〜」

「なっ———!?べ、べつに私はあんなやつ気にしてなんかいないのです!!」

「じゃぁなんで支部に帰ってきたとき守りたい人がいる〜なんていったの?」

ニヤニヤと笑いながら由詩がシャルルに問いかける。それにはあからさまな悪戯心がふくまれていて、シャルルはそれがわかっていても顔を赤くせずにはいられない。正直黎迩がなにかをにぎっているだとか、【デュアルフェンサー】・・・自身の剣が選んだとか、そんなことは関係なしに、シャルルは少しばかり黎迩のことを尊敬していたりもした。・・・自分でさえ、【異形】と初めて会ったとき、怯えて、怯えて震えて泣きじゃくった・・・そう、なにもできなかった。たとえそれが、力の弱い【異形】であったとしても・・・力のない、ただの人間には判断力を鈍らせてしまうほどの恐怖と絶望を味あわせる対象であるはずだった。なのに黎迩は動いた。自身の意思で動き、自分ひとりだけしかいないというのに、最後まて生きるために逃げた。シャルルの場合は同じ【デュアルフェンサー】の人に守られていたから動けなくても死ぬことはなかった。でも黎迩の場合は違う。一人しかいないという状況で、絶望しながらも逃げ続けたのだ。そして———挙句の果てには、自身の危険を顧みずにシャルルのことを助けた———。なにも力をもっていないはずの人間が、なにも後ろ盾をもたない人間が・・・そんな、クソ度胸を土壇場で見せたのだ。
それに対してシャルルは尊敬をしていた。べつに黎迩の顔がかっこいいからとか好みだからとか今はそんなこと関係なく・・・シャルル・S・リーネは夜峰黎迩という、昔の自分に似た雰囲気を宿している少年に興味をもっているのだ。
だからこそ、改めてからかわれると恥ずかしくなってしまうのだ。

「そ・・・それは」

「それは?」

「そ・・・それはッ!!【デュアルフェンサー】の人間として居合わせた【異端者】の人間を守るのは当然の義務———」

「でもさ、【異端者】がでてきたの・・・それも【異空間時計】の中で動けるほどのすっごい【異端者】がでてくるのは初めてのケースでしょ?」

「うっ・・・で、でもっ!!」

「まぁいいよ〜っと・・・たしかに一般人を守るのは・・・【デュアルフェンサー】の規約だからね〜・・・ま、それも昔の話なんだけどね」

由詩がシャルルの反応をおもしろがっているうちに、なにかを思い出したのか少しだけ微妙な表情を作る。シャルルにはその意味がわからずに首をかしげるが、解放されとしるとホッと安堵の息をつき、くるりと踵を返して歩き始める。

「と・・・とにかく、黎迩を探すのですッ。あとついでにどっかにいるはずの寧々のやつを探し出すのです」

「りょうか〜い、隊長殿〜っ」

間延びした、間抜けな声を聞きながらシャルルはこっそりとため息をつく。こんなんで大丈夫なのか?と思わせるような由詩の態度、だけども、実力を知っているだけになにもいえないというもどかしい思いを吐き出すかのようにもう一度ため息をついたあと、黎迩たちを探し出すために歩き出す。
その辺りにはもう・・・【犬】の存在も、【犬】の遠吠えさえも聞こえていなかった———。