ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Ebony girls dual Fencer 参照400 ( No.32 )
日時: 2011/09/09 01:09
名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)





自分がなにもできないことを、悔やんだりはしない。
自分がなにもできなかったせいでなにかが傷ついた、取り返しのつかないことになった。だけども、そのことに後悔はしない。
ただそれに絶望を覚えるだけだ。
それをただ、償うだけだ。
ただそれを後に後にと背負い続ける。人はそれを後悔と呼ぶのかもしれない、だけど黎迩は、それを自分では後悔とは認めていなかった。
重く圧し掛かるその絶望、誰かを自分のせいで傷つけたという思い・・・それがいくら心の中で渦巻いても、それを忘れたりはしない、それを後悔と感じたりはしない。
最終的にはそれが自身の身にふりかかったとしても、たとえそれが自身を傷つけたとしても・・・たとえそれが、自身の命を奪うものだったとしても・・・償うのだ。なにをしてでも。最終的に自己満足ではない・・・傷つけられた笑顔ではない・・・清算された、忘れてしまった笑顔を見るまでは———妹を、そしてあいつを———死なせはしない。それが、自身にかけた枷だから。
だからこんなところで、自分の人生を、絶望をなにもしらない【異形】なんかに・・・殺されてたまるか、という思いが強く渦巻く。

「さぁて・・・【犬】の気配はもうねぇなぁ?」

それをおもったところで、黎迩にはなにもすることはできない。だけども、自分を守ってくれる誰かがいる。ならば最後までそいつを利用するのだ。利用しなければ生きられないのなら、なんだってやってやろう。そう、黎迩は思っている。さきほどからずっと自分を、出会ったばかりのただの足手まといを守ってくれる・・・女性を目の前にしながら、申し訳ないという気持ちも感じることなく・・・ただただ後ろに隠れ続ける。

「そろそろあいつらとも合流してぇしな・・・歩けるか?」

「・・・」

「問題ないみたいだな。じゃ・・・あっちのほうにいってみるんだぜ」

そういいながら、短い髪を靡かせて寧々が歩き出す。その後ろを黎迩が、何食わぬ顔でついていく。
いまさらになってこの世界のことが怖くなったわけでもない。いつ【異形】がおそってくるかわからないというのもあるのだが・・・一番のことは、寧々がいつ・・・その力を、自分に対して向けるか、ということだった。
寧々は黎迩に完全に打ち解けて離しているようだが、黎迩は寧々とは違い、他人と壁をつくるほうの人間だ。それは昔のできごともあるし、自分より強いものとはあまり関わらないようにしているから、というのもある。その件にかんしてはシャルルも同じなのだが、いかんせんあの見た目ではどうにもシャルルが強い女の子だとは思えなくて、ただちょっぴり守ってやりたいとかも思うのだが・・・寧々はその比ではない・・・。その笑顔の下になにを隠しているのか、その手はいつ自分に牙をむくのか・・・その力はいつ、刃と変わるのか・・・それを、極自然に見極めようとしてしまう。でもそれを自覚しているからか、どこか変な表情になってしまうのだ。

「見渡しのいい場所にいるかもしれないな・・・ちょっとばかしまってもらっててもいいか?」

そういいながら、寧々が振り向く。すると黎迩の顔をみてか、どこか心配そうな表情になったが、なにを考えたのか

「そう硬くなんなよ・・・いずれ慣れるからさ」

そう優しく語り掛けてくる寧々。そこにはただ純粋に黎迩を心配しているような声色が宿っていて、人を安心させるような力が宿っていた。
だが黎迩は、自分が思っていることが見透かされたと思いきやぜんぜん的外れなことを言われて・・・頭を抱える。自分の考えの愚かさに、
だ。
この場で自分を守ってくれるのは寧々しかいない。ならば、その寧々を今この一瞬だけでは信じないでどうするのだ、と。信じないことで不信感というものが生まれ、それが自分の動きを遅くして寧々にも多大な迷惑をかけてしまうことはたしかで、それならいっそ信じてしまって、一度だけでいいから身を預けてしまったほうが楽だ。と自分に言い聞かせて

「ん、大丈夫だよ。んで?どんくらいまってりゃいいんだ?」

「ま、だいたい五分程度ってとこかなぁ・・・にしてもお前、ずいぶんと落ち着いているな」

「・・・この程度で動揺してどうするのさ」

「ハハッ!!いえてるんだぜ!!」

そういいつつ寧々が黎迩の肩をバンバンと叩く。