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- Re: Ebony girls dual Fencer ( No.5 )
- 日時: 2011/09/03 12:40
- 名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)
Chapter II 【Dual Fencer】
「いったい・・・なにがどうなってんだよ」
圧倒的な存在感、今までその圧倒的なまでの存在感をふるっていた、一言で証してしまうことのできるその存在・・・【異形】。それは、今まで運動で若干いいせんいっていて、それなりに喧嘩なれしていたはずの黎迩でさえも萎縮させてしまうほどの強大さで、この【異常】の街を、徘徊していた。そして黎迩を見つけるやいなや、この【異常】、誰も動かなくなってしまった街で、夕闇ではない別のなにかの色で染め上げられたこの街で、あざ笑うかのようにして、追い続けてきた。
そのたびに黎迩は絶望した。どうして俺が———どうして俺ばっかり———と、そんなふうに、絶望し、それでも絶対に追いつかれてたまるかという勢いで、逃げ続けた。
手も足もでるはずがなかった。その【異形】の大きさは黎迩の倍以上もあって、左右に三本ずつ生えるその手のさきからは、ひとつの手に五本ずつのナイフがにぎられていたから———そしてそのナイフの一本一本は・・・黎迩のその身長とおんなじぐらいだったから。
だがしかし・・・その圧倒的なまでの存在はもう、この【異常】の街にはなくなってしまったいた。
そして———もうひとつの【異形】が、そこにはいた。
それは、黎迩の肩あたりまでしか身長のない、小柄な少女の姿をしていた。
流れる金髪は片方で結ばれていて、俗に言うサイドポニーという形に結ばれている。黎迩のほうに歩いてくるその姿は美しくもあり、いますぐにここで枯れてしまうのではないかと思われるほどの儚さがあった。年齢はおよそ十三から十四歳で幼いが、あきらかに日本人ではない紫色の瞳、小さく形のよい鼻梁、そして桜色の小さな唇・・・整いすぎた顔立ちはそれだけでも人の目を奪うのには十分なほどだった。
だけども———黎迩の目をうばったところは、それだけではなかったのだ。
それは少女の服装と持っているものだった。シンプルな形の漆黒のワンピースに、肩にかかり、首もとで結ばれている漆黒のマント、首にかけられている、これっぽっちも加護とかなさそうな禍々しい十字架。小さな手には、手袋のような防具、膝から先まで少女の足を覆う漆黒のレギンス———そして、少女の右手にぶらさげられるようにして持たれる・・・漆黒の剣。
完全な黒で染め上げられたその少女こそが———【異形】なのだ。
そう・・・今まで圧倒的なまでの力を振るっていた【異形】をいとも簡単に引き裂いた———少女の形をした【異形】。それを睨み付けながら、それでも体の振るえがとまらないのか、若干引け越しな姿勢のまま、黎迩が少女のことを睨み付ける。
少女はその黎迩の視線を感じたのか、その美しい顔をゆがめてニヤリと笑う。そして黎迩のほうに歩きながら、こういう。
「へぇ・・・なかなかかっこいいのですね・・・て違う!!ねぇ、あんたはどうしてこんなところで動けるのですか?」
その少女の問いかけに、黎迩は少し戸惑う。どうしてか、といわれてもよくわからなかったのだ。でも、こんなところ、というのはわかる。
それはおそらく、この【異常】とかしてしまったこの街のことを指しているのだろう。だから黎迩は、話が一応通じるであろう少女から目をはなして、この【異常】とかしてしまった街を見回す。そこには何もかもが止まってしまっているかのように、何も動かない、誰もしゃべらない、ただただ固まってしまった、止まってしまった街が・・・黎迩の見慣れている商店街が・・・異様なものになってしまっていた。
それを見て黎迩は、少女のほうにむきなおり、質問に質問を重ねるようにして聞き返す。
「いったい・・・なにがどうなってんだ?これは。どうして俺だけが動ける?そしてさっきの化け物はなんだ?お前は・・・なんなんだ?」
そこには別に、怯えという感情があるわけではなかった。ただ、どうしてこんなことになってしまったんだという、どこまでも続く疑問と後悔が入り混じっているような声だった。それを聞いた少女は、少しだけムッとした表情になると。
「質問しているのは私なのです」
そういわれて少年は、少しだけ眉をひそめる。そういわれても、黎迩はその質問の意味があんまり理解できていなかったからだ。
少女はそんな黎迩のことをみて、一度だけため息をつくと、黎迩のほうに歩きながら
「だから、、この因果の法則を捻じ曲げた空間———【異空間時計】の中でただの背景でしか存在できない人間のはずなのに、どうしてあんたは動けるのかと聞いているのです」
美しい声音、綺麗な声音、かわいらしい声音、そのすべてが交じり合った少女の言葉はどこまでも尊大で、外見てきに年上である黎迩にむかってそんな聞き方をする。だけど黎迩のほうはまったく理解できず、というよりもさらにこんがらがったかのように視線をさまよわせる。
「い・・・【異空間時計】?背景?う・・・うん?どういうことだ?」
「ああもう!!つまり簡単にいうと・・・、人間が絶対に動けるはずのない、記憶するはずのないこの【世界】で、ただの人間であるあんたが動けるのかって私は聞いているのです!!」
黎迩の間じかまでせまった少女は、刀はだした時と同じように十字架に手をあてて消してしまい、何事もなかったかのように腰に手を当てて上半身を若干腰が引けていて、少女とおんなじぐらいの背丈になっている黎迩のことを上目づかいでにらみつける。それに黎迩は———
「やっぱり・・・可愛いな」
「んな!?」
と、つい思ったことを口にしてしまったのである。
その言葉を聞いた少女は突然顔を真っ赤にして、黎迩からす腰だけ距離をとる。そしてあわてているもののやはりどこか尊大な口調だけはくずさずに———
「な・・・ななななにをいっているのですか!?わ・・・わた、わたしがそんな・・・か・・・かわいいわけないのです!!あんたの目は節穴ですか!?」
「いや・・・別に節穴でもなんでもないけど・・・ただ素直に可愛いなって」
「うくっ・・・そ・・・そうやって話をそらそうとしても無駄なのです!!さ、さぁ、私がか・・・可愛いか可愛くないかなんてどうでもいいことですから、さっさといいなさい!!」
「あ・・・ああ、わかったわかった、だからこの手を離してくれないかな?」
今度は突然つかみかかってきた少女をなだめながら、ふと黎迩は思う、さっきのはきっと、幻だったんじゃないかって。
だけど・・・そんなことはない、とすぐに直感する。
さっきまでの悪寒はまだ残っている。この少女に対する恐怖もあるかもしれない。そして、この【異常】とかした街を見れば、けっしてさっきのは幻ではないということが証明される。だから黎迩は、若干怒っているのか恥ずかしがっているのかわからない少女を見て・・・
「まぁ・・・どうしてこの【世界】だっけ?で動けるのかは自分でもわかんないんだけど———」
「じゃぁ、この【世界】に移り変わる瞬間に、なにか覚えた違和感とかってあるのですか?」
「いや・・・とくにはないな。ただちょっとCDショップにいって・・・一枚購入して・・・そのまま店を出たらもうこんな世界になってた」
少女がそこで、少しだけ黎迩を疑うかのような視線になる。そこで黎迩は、この少女にとって、自分という存在はかなりのイレギュラーだったんじゃないか?とか思っちゃったりもして、若干あせりを覚えるが、別段ウソをついているわけでもなくて、少女は黎迩の瞳をゾクリとするような視線で見つめて・・・安心したかのように、ため息をつく。
「【異空間時計】の定義については私もよくわかんないから、こういったイレギュラーもたまには存在するってことですか・・・これは逆に勉強になったと思ったほうがいいのかな?」
そう少女は一人でつぶやくと、再びジッと黎迩のことを見る。黎迩のほうにはもう緊迫とした雰囲気はなくて、というよりも、この少女がさきほどみせた、すごくかわいらしい女の子の態度をみて、別にこの少女にたいして警戒するところなんてない、ただの可愛い女の子じゃないか・・・若干強すぎるところもあるけど、といったふうに再認識したので、むしろ和やかな空気をだしながら
「じゃ、俺から質問なんだけど・・・まず、君はなに?」
自分のほかの疑問なんか差し置いて。まずは少女のことを聞くことにした。
そこには、この商事よがどういった存在なのか、あの化け物を普通に倒すこの商事よは何者なのか、そしてどんな名前なのか、とか、そういった意味が込められていて、少女もそれを悟ったのか・・・黎迩のことを見つめながら
「私の名前は・・・シャルル、シャルル・S・リーネ。とある【異空間時計】を調べている研究組織の一員なのです」
「おーけー・・・シャルル・S・リーネか。じゃぁシャルルって呼ばせてもらうよ」
というよりも、ドレが生うなのかよくわからなかったからいいやすいそれを選択しただけなのである。だけどシャルルのほうは・・・若干顔を伏せて・・・それでも片方の隠れていないほうの耳が真っ赤に染まっていることがわかった。
「い・・・いきなり名前なんて・・・し、失礼なやつなのです」
「ん?なにかいったか?」
「な・・・なんでもないのです!!は、話を戻します。まず何が聞きたいですか?私のことについて」
「そうだな・・・じゃぁまずはその【異空間時計】?だったっけか?それの研究組織?それについて頼む。正直理解できるかなんてわかんないけどね」
「・・・理解できないのなら最初から聞かないでほしいのです。まぁ・・・助けてもらったって言う借りもあるわけですし、じゃぁまず、私の所属する組織・・・【異空間時計研究組織】・・・またの名を———【デュアルフェンサー】の詳細説明を———っとその前に」
「ん?」
「まずはあんたの名前を教えてほしいのです。というより、敵か味方かわからないやつにベラベラとこっちの情報を流すと思ったら大間違いなのです」
「・・・ってそれいまごろ気がつくのか?」
「う・・・うるさい!!早く名前を教えるのです!!」
「あーあー・・・わかったわかった。夜峰だ、夜峰黎迩。よろしくな」
「よ・・・よろしくなのです」
黎迩が差し出したほうの手をおずおずと握り返してくるシャルル。防具に覆われたその掌・・・ぬくもりは感じることはできなかったが、シャルルの手が小さいということが、その防具ごしでもわかった。・・・その小さな手で、さっきの化け物を倒したってどういうことだよ・・・と黎迩は頭の中で少しだけ笑う。
「ム・・・なにがおかしいのですか?」
「いや、なんでもねぇよ」
「むぅ・・・気に食わないやつなのです、だからもうなにも教えてやらないのです!!」
「ってそりゃないだろう!?」
「でも、本当にいま教えるわけにはいかないのです。そして———もしも知りたいのなら、私についてくるのです」
「んぁ?シャルルについていく?なんでだ?」
「仮にもここは【異形】の領域だし、この地区の【時計】を操っている【本体】に行動を監視されている可能性があるからなのです。ですから・・・お前のような【異端者】はほうってはおけないのです」
恥ずかしがっているような表情から、ふいにまじめな表情になるシャルル。なぜか黎迩にたいしての呼び方があんたからお前になっていたけれどそんなことは気にもとめず、当たりをみまわして、少しだけ深刻にムードになっているということに黎迩も気がつく。
「・・・まずいのです、そろそろここから離脱しなければこの【時計】が崩壊する・・・」
「って・・・え?それどういうこと———」
「だから、【世界】は主を失ったということなのです。主を失った館とか城とか家とかの末路はどうなると思いますか!?」
「と・・・取り壊されるか誰かに売られるか・・・だけど」
「つまりです!!この【世界】はこの地区の【時計】をすべる【本体】によって今こわされている最中なのです!!」
「つ・・・つまり、この世界がなくなるとどうなるんだ?この固まっている人たちは?街は?いったいどうなるっていうんだ!?」
「すべての説明はあとです!!ああもう・・・しょうがないのです、お前を【デュアルフェンサー】の支部に連れて行くのです。とりあえずはそこにいれば【異形】による脅威をうけなくてすみますから・・・」
「ってまてよおい!!勝手に決めんなよ!!つまりあれか?そこにいったら俺はもうそこからでられないってことなんじゃないのか!?」
「———その説明もしている暇はないのです!!さぁ、早く私の手をにぎ———」
「妹は!?家族はどうなる!?たのむからそれだけでも———」
黎迩が必死にシャルルにせがむ。それを見たシャルルは・・・黎迩が、すごく家族を大切にしているということがわかったのだ。わかったからこそ———シャルルの瞳には羨望と嫉妬の色が浮かび上がり———でもそれをシャルルは必死に抑えて・・・氷の表情で
「もう、タイムオーバーなのです」
その瞬間に、黎迩の足もとに大きな罅が入る。それはしだいに亀裂をましていき、固まっている人々などを粉々に砕いていき、建物などもすべて崩していく。そう、取り壊しが始まったのだ。それを見た黎迩は、それでも、とシャルルにせがむ。どうしても妹だけは守らなければならないのだ———もう二度と、自分のことで迷惑をかけないって誓ったのだ。剣道を失ったあの日から———ずっと、ずっと誓っていたのだ。だからこそ———黎迩は、シャルルにせがむ。
「たのむよ———シャルル」
それを聞いたシャルルは、無言で十字架を握る。すると、そこから黒い光が生まれ始めて、その光がやがて二人を包み込んでいく。それはどこまでも漆黒な闇で、それでいて、なにか優しいものに包まれているかのようなものを感じる不思議な光だった。
黎迩をそれにつつまれながら、それでも叫ぶ。声になっていないのに、声にならない絶叫をあげて、妹には・・・迷惑をかけたくないんだ、と叫びまくる。
そしてそんな中で・・・あるひとつの声が———黎迩の耳に、届いた。
それは美しくて、儚げで・・・そして、幼い———シャルルの声だった。その声にはどこか、自分を懐かしんでいるようなようにも思えるような、自嘲ぎみの色が、まじっていた。
「———しょうがないのです」