ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 神は世界を愛さない ( No.1 )
- 日時: 2011/08/22 18:35
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)
この世に、得体の知れない能力を使う者がいたとして、どうしてその者が善のために力を活用すると言えよう。
もし、それが世界の為だとするなら、その力を使って世界を破滅させたい、だなんてキチガイな発言をしないだろう。
少なからず、俺は神様という存在自体が嫌いだった。
「ハァ……ハァ……ハァ……!」
暗闇の森の中を必死で汗水流して駆けている黒いパーカーを着た男。男の表情は、恐怖で歪んでおり、今にも死にそうなほど怯えながら逃げ回っていた。
「た、助けてくれぇ……!」
男はぶつぶつと声を漏らしながら、なおも森の中を走る。その森がどれだけ深く、暗く、恐ろしいところだとしても、男は関係無しに逃げ回る。
深い闇の中は、淀んでおり、勿論地面に何があるかも分からない。そのせいか、男は激しく何かに躓いて転んでしまった。
「ぐぁっ!!」
前方へ転がって行くと、木のようなものにぶち当たる。激しい痛みが全身を覆う中、その男はゆっくりと目を開けた。
「何で、逃げたの?」
「う、うわぁぁっ!!」
男の目の前には——暗闇でよくは分からないが、小さな背をした女の子の声がした。
男は、その目の前にいる小さな背をした女の子に対する恐怖心が強かったのか、腕を必死に伸ばし、己の中に眠る"能力"を発揮させた。
「喰らえぇっ!」
男の腕から、炎の弾が浮かびあがり、それは小さな背をした女の子に向けて放たれた。ボゥッ、と周りの木々が燃え、女の子を包み込んだ。
そう、この男は超能力者という世間では言われる特殊な力を持った人間だった。だが、その特殊な人間であるはずの男は、目の前の自分よりも遥かに小さい女の子を前に、怯えていたのである。それは勿論、自分に対して身の危険が迫っていることを意味する個人的な情報ゆえの症状であった。
木々が燃え、辺りが明るくなった瞬間、女の子の姿が見えたのだが——更にその男の絶望を誘った。
「貴方は、神隠しにあうべきよ」
「ぁ……ァ……!」
男はそれ以上、言葉が出なかった。その女の子は、ゆっくりと男の元へと近づいて、手を差し出した。
「貴方は、神に嫌われたんだわ」
そう呟いた瞬間、甲高い笑い声が樹海の中に響き、男の姿はそこには——既になかった。甲高い笑い声に共和するように、周りの火が一気に激しくなり、周りの木々はほとんど全てが焼き焦げた。
だが、不思議と火は伝染病のように次々と木々を犯しはせず、次第に火は無くなった。
「……ぁーあ。つまんない」
女の子は、口元を歪ませたまま、そう呟いた。
妖艶な感じさえも、ほのかに漂わせたが、それよりも先に怖気のようなものが感じられる表情であった。
「どんな能力を持ってても、所詮人間でしょ。神に逆らうなんて——ずっとずっと、早いの」
ゴキ、ゴキ、とその小柄な外見からは想像も出来ないようなおぞましい音が鳴り響き、少女は樹海の中へと消えて行く。
「ニャァー」
何も無い樹海の中、闇に紛れた猫の鳴き声が一声、響き渡った。
神は、そこにいる。
けれど、神は全てを決して愛さない。
それは、必然な世界の順序なのだ。