ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 神は世界を愛さない ( No.2 )
- 日時: 2011/08/22 18:32
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)
「どうか、神様。私の息子を助けてください……!」
そんな台詞がドラマなどの世界にはよく溢れる。
人間というものは、常に誰かを慕わなくては現実を見れない。いつまでも逃避を続ける、臆病な生き物。それは人間だ。
だからいつまでも神というものを受け入れているのだろう。
「——おい。神嶋。聞いてるのか、神嶋」
俺のいつもの眠気を邪魔をする生き物、それも人間。というより、教師という役割を持つ人間。
机に突っ伏している俺は、ゆっくりと顔を上げて周りを見渡す。
今は学校に居て、なおかつ教室の中で授業をしている。高校生という身分を持った俺は、今周りの生徒と一人の教師からどこか呆れた風にも捉えられる表情で見られていた。
「……授業中だぞ?」
「あぁ、すみません。いつものことです」
俺がそう返すと、教師はどこか諦めたようにため息を吐き、国語の授業を再び再開し始めた。
皆の俺に向けた視線は、またか。という諦めの声と同様に、大体はまた同じく教師と共に授業を再開する為、教科書へと目を向き直した。
俺がこの学校というより、世間から言う呼ばれ方。それは——ダメ人間。
何故このようなあだ名がついたのか。理由は何事も無関心で、能天気で、なおかつ相手にすると疲れるだからだそうだ。
俺自身、そんなことには全く関心など持ってはいない。俺はただ、音楽と楽に生きることが出来たらそれでいいのだ。のんびりと過ごせれば、それだけで俺は幸せだ。
そうして、また机に突っ伏そうとしていると、紙屑を丸めたものがどこからか飛んで来た。その紙屑を広げると、女の子の書いた字で、
『ちゃんと授業受けろッ!』
という文章が綴られていた。
投げてきた犯人など、すぐに分かる。その予想に従ってその方へ向いてみると、髪は肩に少しかかるぐらいのショートで、前髪にヘアピンをつけ、黒い眼鏡をかけているこれも世間で言う、美少女だとか、可愛い女の子と呼ばれるだろう外見を持つ奴が俺へ投げてきた犯人だ。
そいつはどこか怒った様子で俺へと頬を膨らましている。そんな様子をされるのはこれで何回目だろうか。別に俺の暮らし生活に何ら関係はないことで、俺はそのまま居眠りを続行させようとした。
「——あっ!」
「ん? どうした、神海。いきなり声を出して」
「え!? あ、い、いえっ! あの、何でもないです」
「うん? そうか?」
神海、と呼ばれたのが俺に紙屑を投げてきた女子で、俺が再び居眠りを再開しようとしたことに対して、あの野郎と思ったのかは知らないが、それによって声を出してしまったのだろう。案の定、シンとしている授業中にはよく聞こえ、教師に声をかけられたというわけだった。
とは言っても、まるで俺と神海に対する教師の態度が違う。俺には皆諦めの声と同時になんだコイツは、という視線が送られていたのだが、神海に対しては気遣いと、大丈夫かという心配の声だった。
そんな一声だけで気遣いなどをかけてくるのも、神海の外見やら性格やらがあるせいとは思うが、別に俺的には何ら関係ないことだ。
さぁ、居眠りを再開するか。
この国語の授業が最後だったようで、終わりのチャイムが鳴ると、一斉にクラスメイト達は終わったという喜びの声を出していた。終わった、といっても俺からしたら睡眠時間と同等の価値なので、終わる終わらないなど、どっちでもよかったのだが。
それでも、俺はこのチャイムが目覚まし代わりとし、腰を上げて、よく寝たと言わんばかりに欠伸をした。
「じゃあここ、次の課題にするからなー。……それと、神嶋。ちょっと来い」
何だか今日はいつもと違って教師に呼ばれたので、少しの違和感があったが、席を立ち上がって着いて行った。
すると、教師は仁王立ちで俺を待っており、俺が来るとなると、「神嶋」と声をあげた。
「お前な。俺の授業の時は毎回毎回居眠りこきやがって。そんなに面白くないか? 俺の授業は」
「いや、そんなことないと思いますよ。寝ながらでも、生徒達の楽しそうな声が聞こえますから。夢の中からかもしれませんけどね」
正直のところ、この教師のやっている国語は、生徒達の中からすると不評だった。面白くさせようという気持ちは伝わるが、どうにも面白くないという残念な意見が多いようだった。
「はぁ……まぁ、いい。俺もまだまだ勉学不足だな」
「いえいえ、勉学はもう十分だと思いますよ。俺も先生には敵いませんから」
「……この学年、毎回トップ10には名を連ねているお前がか? 一時期、カンニングの疑いも出たが……」
「やだなぁ。俺がカンニングだなんて。まあ、居眠りばかりしてるからそう思われても仕方ないですかね。あれ、先生。顔色悪いんじゃないですか? 保健室とか、行って来たらどうです?」
「……もういい。行っていいぞ」
「失礼します」
ペコリと頭を下げて、教室の中へと戻って行く。
教師は、随分と顔を真っ赤にさせていた。顔色が悪いというか、カルシウムが足りないんじゃないかと言う方が良かったか。
「憂!? また居眠りッ!」
教室に入るや否や、神海が、いや……神海 雪(こうみ ゆき)が俺に詰め寄ってきた。そうそう、雪の言葉を無視すると、その授業の後はみっちり怒られる。これは日常の出来事の一環だった。
「まだ眠かったから」
「理由になってないでしょっ!」
別にいいだろう、と思いながら自分の席へと向かう。憂とは、俺のことだ。俺の名前は神嶋 憂(かみしま ゆう)だからな。いや、もっと詳しく言えば——"今は、神海 憂か"。
ちなみに、雪が俺に話しかけてくると、周りの奴等が珍妙なものを見るかのような目で見てくる。なおかつ、コソコソと話し始める。
「雪も、よくあんな奴の面倒見るよね」
「顔はこの学校でも有数のイケメンだけど、あの性格はちょっとねぇ……」
「本当。女子の中であいつの面倒見れるの、雪ぐらいなんじゃない?」
という内容のものが多い。
確かに、俺が世間で見られる、言われる内容と、雪が世間で見られる、言われる内容は真逆に近い。
俺はクズ人間。雪は明るく、人気も高い、可愛い女の子。
まあ、そんなことは俺にとって何の関係もない。
「さぁ、HR始めるぞー」
担任が教室の中へ突然入ってきて、HRの合図を送った。
委員長……ていうか、雪が号令をする。ふぅ……まだ眠たいな。
そうして机に突っ伏そうとしたその瞬間、廊下の方に黒猫の姿を見た。
黒猫は、俺の目をずっと見ていた。黄色の瞳で俺を見て、その時、この黒猫は——。俺が瞬きをして、再び黒猫の方へと目を開けると——既に黒猫は姿を消していた。
「おい、神嶋! 聞いているのか、神嶋!」
そんな担任の声など、俺の耳には届きはしなかった。