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Re: 神は世界を愛さない  ( No.20 )
日時: 2011/08/25 15:25
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)

左右に広がるは田んぼの海。その真中に位置するどうにも無理矢理作ったような少し狭い一車線ある道路の片隅を歩く。この道を真っ直ぐ行き、段々と見えてくる住宅街を入って進んでいくと、少し都会の方へと出て行く。そこを少し行ったところぐらいに、学校がある。
つまり、この道はこれでも通学路という名目が付いているというわけだ。
その通学路を、律儀に歩く俺だが、今日は清清しいほどの天気が昨日と連続して続いたのもまたいいことなのだが、もう一つわけが分からないことがある。
それは勿論、あの少女との朝の出来事であった。




「——お前、私と契約を結べ」
「……あ?」

意味が分からず、俺は呟いたようにして言葉を口にした。
そんな冷徹な目で言うようなことではないし、何しろ意味が分からないのが最重要ポイントだった。

「契約? 何だそれ」

まず初めに思ったことから述べるとしよう。そうして、俺は尻餅をついたような状態から、少女に聞いた。
相変わらず仁王立ちのまま、俺を見下すようにして見ている冷徹な少女は、そのまましょうがない、という風にため息を吐いて、真っ直ぐに結ばれた口元を緩やかに解いて言葉を吐き出した。

「結論から言うと、お前がいないと私は力が発揮出来ないからだ」

いきなり結論から言われても、とは思ったが、単刀直入に契約を結ぶ目的を答えろというのならば、結論からこうして述べた方が早いと思ったのだろう。

「何で、俺がいないと力が発揮出来ない?」
「お前、見ただろう。昨日、私がお前を殺そうとした時、お前は私の力を止めて見せた。何故だか分かるか?」
「分かるわけないだろ」

正直のところ、それだった。
実際、話しが噛み合っているように見えるが、力だとか何だとか、俺的にはどうでもいい。というより、俺に関係ない。昨日見たことは夢として忘れたいぐらいだった。
すると、少女は冷徹な表情から、少し眉の角度を上げ、再度口を開いた。

「お前は、得体が知れないからだ」
「……どういうことだ?」

それだけで説明終わり、というのはあまりにも納得がいかない。
得体が知れないから、俺はこの少女の化け物染みた力をあの一瞬で止めたというのか? ——何の解釈にもなっていないじゃないか。

「つまり、お前は得体の知れない、そもそも人間に備わる神懸かり的力、通称神懸かりの力がどんな能力なのか、どんな特性を持ち、どんな強さなのかがまるで得体が知れないってことだ」
「……すまん、全く分からん。神懸かり的力と神懸かりの力って、通称にするほどのものじゃないほど似ている単語というところから突っ込めばいいのか?」
「ハッ、さすがただの人間だな。知能が低い。これぐらいのこと、考えたらいとも簡単に分かるだろう」
「分からん。お前みたいに化け物みたいな力は無い。それに、そもそも人間に備わる神懸かり的力って何だ。人間にそんな力があるなんて——」

呆れたようにして言いながら、ふと気がついた。
神懸かりの力。奇跡的な力。人間。そのキーワードから考えられるものと言えば、世間などでも超能力者とか、シャーマンだとか、他にも様々な人がいる。そんな常識外れな存在、俺は信じていなかった。だが、自分の身の回りに起こることや、この目の前にいる有り得ない力を持っていた少女からして、そういう力を持った者がいてもおかしくはないんじゃないか、と。
つまり、人間に対する神懸かり的力というのは——

「超能力者とか、それこそ漫画やアニメで出てきそうな人が、その神懸かり的力を持つということか?」
「ま、そういうことだろ。ただ、表現の仕方がそれぞれ人には違う。だから、人間が誰でも自身の神懸かりの力を発動できるわけじゃない。発生のトリガーが必要だ。例えば、死にそうになるほどの危険が襲ってきた、とかだな」

あっさり、そして淡々と少女は答えた。
死にそうになるほどの危険が襲ってきた。そんな時、人は自分の力以上の力を発揮出来るという。これを世間じゃ、火事場のバカ力、なんて言っていただろう。
つまり、神懸かり的力というのは、まさにそういった分類に入るというわけなのだろうか。
だとしても、俺にそんな力は無い。それは、今までも、これからもそんな力を発揮出来るはずがないからだ。発揮しようとまず思わないし、死にそうな時はその時で、運命に任せる。実際に、この少女に殺されそうになった時も、そうしていたのだから。

「お前は、確かに能力があるけど、全く分からん。だから、得体が知れない。お前だけ、人間のクセして中身が鍵だらけで何も分からない。気持ち悪い。人間のクセに」

どれだけ人間を罵倒すれば気が済むのだろう、と思いつつ、少女の顔を見上げると、少女は鬼のような顔をして俺を睨んでいた。
余程、俺の中身が分からなかったことが腹立たしいのだろうと思う。

「お前の中身も調べないといけない。その中に、私の力が隠されてるのかも……。もしかすると、お前は何か別のものがあるのかもしれない。鍵のかかっている中身を見るのは多いが、お前ほど頑丈で鍵の多い中身はなかなか無い。黒猫に喰われていなくて良かった……といっても、私の力を奪ったのだから、今すぐにでも殺してやりたいところだが」

何とも物騒なことを言いながら、少女は苛立っているようで、足を貧乏揺すりのようにしてトントン、と一定のリズムで床を叩いていた。

「問題はあることはある。お前が本当に力を取ったのか、その事実は分からん。お前の中に、私の力の反応は見れなかった。どういうわけか、お前は何か秘密でもあるんじゃないかと思ったわけだ」
「秘密……? そんなものはない。それより、そろそろ学校に行く準備をしなきゃならない。だから、そこをどけ」

俺は立ち上がり、少女を払い除けて、一階へ続く階段へと向かおうとする為に、少女の肩の方を触ろうとした。だが、その瞬間、「やめろっ!」という声と共に、少女が俺の右手にパァンッ! と軽い音を出して弾き飛ばそうとした。——その時だった。

「え?」「あ?」

俺と少女の声が重なり、何か電撃の走るような感覚が襲い、目の前がグラッと揺れたような気がした。その時、何かが心の奥底でふつふつと煮え滾って来る予感がした。
何かが……生まれてくる? 
そんな表現しか仕様の無い感覚だった。
そして、次に見た瞬間、少女は初めて会った時のように、あの機械仕掛けの剣を持ち、悠然とその場で立っていた。しかし、表情はどこか困惑したような感じがしている。
少女は、自分の両手を見つめてどういうことだという顔をした後に、俺の方へと向いた。ようやく、視界の上下運動が収まった頃、よろけながらも少女を見た。

「力が、戻った? いや、これ……どういうことだ?」

少女は呟き、そして有り得ないことに俺の頭上に剣を振り上げ、そして——勢いよく振り下ろした。
本来なら、俺は頭から一気に引き裂かれて、真っ二つになっていたことだろう。だが、違った。少女は再び、人間の姿に戻っていた。

「もしかして……お前が、私の力の発生キー、ということか……?」

神妙な顔付きで、少女はそう呟いた。