ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 神は世界を愛さない ( No.21 )
- 日時: 2011/08/25 23:13
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)
突然俺に斬りかかって来た後、少女はそのまま俺の部屋にある窓から飛び降り、いなくなった。
一体どこに行ったのか、なんてことは知ったことじゃない。それよりも、もう二度と現れて欲しくないもんんだ。
これが、朝の出来事。おかげで、学校に着く時間が昨日より遅れている。有り得ない出来事がこうして重なってくると、なかなかして眠気も漂うわけだ。学校へ着き、靴を履き替えながらそう思った。
「ん、憂ちゃんじゃないのぉー」
声のした方へ振り返ると、そこには竹上の姿があった。
片手をあげて、いかにも楽しそうな笑顔を浮かべては俺に近づいてきた。
「朝から騒がしい、暑苦しい」
「そう冷たいこと言うなよ〜。俺とお前の仲だろ?」
「ホモ友達しかいないお前がよく言いますね。俺はホモじゃないので、他を当たってください」
「ホモじゃねぇよっ! ったく、朝っぱらから無愛想だねぇ」
竹上は言いながら、俺の背後の靴箱に手をかけて、上履き用のスリッパを手に持った。
靴箱は寮生活をしている者がいる分、数は少ないので、あまり靴箱のところで人だかりは出来ない。それに、スペースも広いので、こうして背中合わせとなっても全然背中が当たらない。
スリッパと靴を履き替えると、そそくさとその場を立ち去ろうとした。その後を追うようにして竹上が俺の隣に来る。
「何か今日、いつになく不機嫌じゃねぇか?」
「いつも不機嫌だと言いたいのか?」
「そうじゃねぇよ。何かあったろ?」
「別に」
俺は竹上を突き放すようにして言うと、そのまま教室へと向かって行った。それ以上、竹上も俺を追ってくることはなかった。それは俺の教室と竹上の教室が反対方向だからなのか、それとも俺の態度に腹が立ったのかは分からない。けれど、これでいい。
面倒なことは、省くほうが断然いいだろう。
教室へ入ると、いつも通り席へと向かう。鞄を置いて、席に座る。昨日とは違って、少し人は多くなっていたが、特に気にもせず、机に突っ伏すことにした。そうして、眠りの世界へと誘われるように、目がウトウトしてきた時、
「神嶋君っ」
聞いたことのある声が耳に入ってきた。知らないフリをするのが一番だろう。第一、今はとても眠たい。睡眠という貴重な時間を省いてまで話をすることはないだろう。
「神嶋君、起きてますか?」
この声の正体は、高校二年生にして、更に男子だというのに、どこか舌足らずな口調をし、あどけない童顔を持つ、藤瀬だった。
多分、藤瀬は昨日の文化祭をやるお化け屋敷の云々の報告などを律儀に言おうと思って来たのだろう。その好意は微笑ましいものだが、残念ながら俺のこの時間はお眠りタイムだ。これを妨げるものは、容赦なく無視をする。お眠りタイムに来たコイツが——
「神嶋、君……」
何故だか、泣きそうな声を出し、鼻を啜るような音も聞こえて来る。他クラスメイトから、少しの注目と鬱陶しい騒がれ方をされたので、俺は結果的に寝にくくなり、お眠りタイムをクラス全体で邪魔された気分になった。その為、顔を上げて、仕方なく藤瀬の話を聞くことにした。
「……何だ?」
俺が顔を上げて、藤瀬を見ると、本当に泣いていたような泣き顔で、鼻水を出ていそうなほど顔は崩れていた。俺は呆れて言葉を失い、ただ呆然と藤瀬を見ていると、藤瀬は急いで涙などを拭いて、普通の顔に戻った。泣き顔とかも、まるで可愛い女の子だ。それに、すぐ泣くところとか……最近の女の子でも、こんなすぐに泣かないのではないだろうか。
「あ、あのっ、す、すみません……」
しょんぼりした顔で、藤瀬は言った。俺は「別に」と返し、そのまま藤瀬を見つめつつ、周りの雰囲気を感じ取る。
周りは、特に見てもいなかった風を装い、また再び雑談に戻っていた。
「す、すぐに泣いちゃうんです……ぐすっ。本当、ごめんなさい」
「……あぁ、大丈夫だ。それより、何か話があって来たんじゃないのか?」
「あ、そ、そうでした」
いそいそと、手に持っていた用紙を渡してきた。涙が落ちて濡れてたりしないかとかも見たが、特にそのようなものはなかった。綺麗に、まるで印刷してから間もないぐらいの綺麗さで渡してきた。
紙の内容は、やはり予想通りだった。文化祭の、吸血男爵についてのことだった。
どうやら、決められたパターンがあったりもするようで、予行演習などをやる日にちが決められており、それに従って練習に参加する旨などが書かれている。他には、衣装作りなどについてのことは、詳しく聞くためには雪に聞け、ということぐらいが書かれていた。
「予行演習ねぇ……」
「は、はいっ。予定、大丈夫でしょうか……?」
「……あぁ、大丈夫だと思う」
「本当ですかっ!?」
頭を下げっぱなしだった藤瀬は、満面の笑顔で顔を上げて言った。余程嬉しいのだろう。
そもそも、俺がこういうことに参加するということ自体が珍しいのだろうか。クラスメイトも、俺の言った言葉を聞いたのか、意外そうな顔をして俺の顔を何度か見たりしてきた。
鬱陶しいし、面倒臭いし、くだらない奴等だと思いつつ、紙を机の中に仕舞った。
「で、ではっ、宜しくお願いしますっ!」
嬉しそうに言って、藤瀬はいつもの調子でまた自分の机へと座って行ったのだった。
その後ろ姿を少し眺めた後、再びお眠りを開始しようと突っ伏した時、教室に雪が入ってきた。
友達と一緒におり、確か……いつも帰りの時に話したりしている女の子の一人だったと思う。あの子の家に泊まっていたのか、と思いながら、俺は雪を何故か見ていた。
すると、雪もその視線に気付いたのか、何? という顔をして俺を見てきた。特に用も無かったので、俺はその視線を無視した後、机に突っ伏して居眠りを再開した。
「SHR、始めるぞー」
いつものように、担任が忙しそうに入ってきて、いつもの言葉を告げる。そうしてまたSHRが始まって、授業があり、それから放課後へと繋がっていく。
言葉にしてみれば、何て怠惰な一日なんだろう。面白くも何もない、俺はそんなことを思いながら未だに突っ伏していた。
「えー、急なんだが、転校生がやってくることになった」
だが、その担任の言葉とクラスのざわめきで一気に俺の眠気が遠ざかって行った。転校生? そんな話は聞いていなかったぞ。
しかし、一部のクラスメイトは「例の転校生」という風に既に名目が付いているようだ。一体どんな奴なのだろう、という風に声が上がっているが、俺は何故か、嫌な予感がした。
「では、入ってもらう」
担任はクラス内の生徒に告げたのを確認すると、そのままドアの方へと向いた。それが合図なのだろうか。
クラスメイトのざわめきも、その時ばかりはシンとしていた。いや、違う。その転校生が見えた瞬間、シンと静まり返ったのだ。
肩にかかるかどうかという長さの薄い茶色の髪に、少し幼い印象のする顔立ち。結構、藤瀬といい勝負をするかもしれない。髪の両側をリボンで二つにまとめており、何とも穏やかな雰囲気と共に、笑顔で入ってきた。
ほんわりとした雰囲気に、可愛さのある表情が男共の心を揺さぶった。この学校の指定ブレザーなど、見飽きたようなものだが、どこかこの少女が着ると、新鮮な気がしないでもなかった。
少女の目の色は、薄い茶色で、日本人離れな感じが瞳と髪色からは少しだけ日本人離れしているような感じが漂っているが、それを除いてはまるまる日本人の顔付きだった。
「自己紹介を、してもらおうか」
担任の言葉に合わせて、その転校生の少女は口を開いた。
「土屋 希咲(つちや きさき)って言います〜。今回で、6回目……かな? ぐらいの、転校になってしまいますがっ、よろしく、お願いします〜」
何とも眠そうな、柔らかい声だった。見た目と同様に、柔らかい物腰なため、男子勢からは絶大な拍手、そして女子からもほわーんとした態度に可愛いと感じたのかは知れないが、拍手が巻き起こっていた。
こんな高校二年生の6月中旬辺りに転校生、ね。
土屋は、雪の席の前に座ることとなった。俺は真中の一番後ろの席に対して、雪は一番左側、窓側の後ろの方だ。その前となると、丁度真中より一個下ぐらいの感じか。
そこに座ると、小声で宜しくお願いしますと自己紹介を早くも土屋は始めていた。
「はい、じゃあ仲良くしろよ。号令ッ」
早急にSHRを終わらせたいのか、担任は急いだ風に言い、その言葉と共に、今日のSHRは終わりを告げた。