ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 神は世界を愛さない  ( No.22 )
日時: 2011/08/27 15:27
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)

授業をしている途中、何度か雪に土屋はノートを見せて欲しいと頼み、話しをしている様子を見かけた。
休み時間では、毎度の如く土屋の席の周りには人だかりが出来、いつもの騒々しさが倍になって返って来たような気がする。俺は、まだ少し痛む腹元を擦りながら怠惰に授業を過ごしていたのだが、そういう授業風景が少し物珍しく、俺は土屋と雪の様子を少し見ていた。

「お……。神嶋。お前、珍しく起きてるじゃないか。ここの問題、解いてくれ」

と、そこで俺が突然指された。その瞬間、少々のクラスメイト達が俺を見た。鬱陶しい、そう思いながらも席を立つ。そこでパッと顔が雪の方へと向いたその時、雪は意外そうな顔をし、土屋は俺の顔を不思議そうな顔で見ていた。まあ、どうでもいいことだ。
教科書しか机に出しておらず、問題そのものが黒板を見てからでないと分からなかった。というより、そもそもどの教科を現在しているのかさえも曖昧なところだった。
顔を上げて見てみると、個人的には簡単な数式の問題だった。わざわざ前に書かせて来させるということを行うこの教師の考えがダルい。そんなことを考えつつ、俺はチョークを持ってダラダラと数式の答えを書き上げていく。
クラスメイト達は久々に俺が指されたのを見て、どうせ寝てなかったなんて珍しい、とでも思っているのだろう。少しばかりひそひそと話しをする声が聞こえて来る。

数式の答えを書き上げると、教師はそれを見て「ベリーグットだ」と下手な発音で言うのを見届ける前に、俺は既に席へと戻ろうとしていた。その最中、土屋がぼーっとした顔で俺を見ていたが、気にしないように振る舞いながら席へと座り、あいつを見ていたせいで指されてしまった、と自分の行動を反省し、再び机に突っ伏すことにした。




授業は大体が終わり、昼飯の時となった。今日は6時間なので、後2時間のみで済み、まだいいが、7時間ある時間割の時は、7時間目がとてもダルく感じるのだが、俺はどちらにしろ寝ているのでほとんど関係無い。教師も、大体の生徒が7時間目にまで来るとだらけることが分かっているのか、気を抜けた感じの授業が毎回行われるのが7時間目だった。
昼飯を食べに、食堂へと向かうことにした俺は、早速教室から出ようとした。だが、その時、

「神嶋君っ」

朝に聞いた声が、俺の耳に届いた。
丁度俺は既に人数がまばらとなった教室内を出ようと、ドアの取っ手に手をかけていたところだった。

「何だ、藤瀬」

藤瀬は、少し紅潮した顔つきと、笑顔で俺を見て、「あのっ」と声を再びかけてきた。

「今から、お、お昼ですよね?」
「あぁ。丁度今行こうとしているな」
「で、でしたら……僕と、一緒に食べませんかっ?」

そんなことを紅潮した顔で言うもんじゃないだろう、とは思ったが、それほど緊張した言葉なのだろう。藤瀬にとっては。
特に用事も何も無いし、食堂で普通に食べようと思っていたので、俺は藤瀬に了解の返事を届けた。すると、藤瀬は満面の笑顔になり、ペコリと頭を下げると、俺の傍へと走って来た。
走り方も、何だかなよなよとしていて、実に女の子らしい。こうして近くで見れば見るほど女の子っぽい奴は果たしてこの地球上でどれほどいるのだろう。

「行きましょう、神嶋君っ」

そうして俺は、藤瀬と共に食堂へと向かった。
道中、俺は藤瀬に尋ねてみることにした。

「なぁ、どうして俺と食事をしようと思った? 藤瀬はいつも女子や他のクラスの男子と食べてたりするんじゃないのか?」

何度か、藤瀬のそういったところを見たことがある。食堂で、遠慮がちに頷いていたり、楽しそうな時もあることはあるが、どこかぎこちない感じのする笑顔を浮かべていたんだった。
俺の言葉を聞いて、藤瀬は「あぁ」と声をあげると、少し苦笑してから答えた。

「なんていうか、誘われたから一緒に行ったってぐらいで……僕自身は、楽しいこともあるんですけど、やっぱり話題とか、僕、疎いから……」

藤瀬が話題に疎い、なんてことは初めて聞いた。見たところ、そういうトークは得意そうな感じさえもするのに、不得意だというのは何だか変な感じがした。
渡り廊下を渡り、そのまま下へ向かったところに食堂はある。そのまま上に上がると、あの屋上へと繋がるというわけだ。
寮生もいるので、食堂はかなり広い。テレビも何台が設置されていたりして、生徒達の娯楽のような場所にもなっている。とは言っても、テレビを見る専用の部屋があるのだが、食事をしながらというのが良いらしいのだが、俺には全く分からない。

「そういえば、神嶋君はいいんですか?」
「何が?」
「い、いえ、竹上君と毎回食べていたりするようなので……」
「毎回じゃないな。たまにだ。食事に向かう途中で、ばったり会ったりしたら、だな」

俺の言葉に、少し驚きの声をあげていた藤瀬だが、俺が食堂があることを促すと、「ようやくですね」と言って顔を綻ばせた。
食堂へ入ると、人は既に多く、ガヤガヤとした雰囲気を保つ中、テレビの音や食器の音、人の声が混じって騒々しい感じがする。

「あそこにしましょうっ!」

藤瀬が指を差したが、俺はその指を差した所をさほど見ずに、食券を買おうとしていた。
今日のメニューはパスタ料理でいいか。食券を買うと、そのまま食券を捌いていく担当のおばちゃんへと渡した。
その横から、藤瀬も食券を手渡す。既に食券を買って食べている生徒が多く、食券を渡す場所はえらくこじんまりとしていた。

「空いていて、よかったですね」
「これで、空いているのか?」
「えぇ。本当なら、もっと食堂にいてもいいはずですよ」

あまり食堂で食べないせいか、食堂がこれほど込み具合の上を毎回いっていることなど、まるで知りもしない俺にとっては、この込み具合だけでも十分息苦しかった。
食堂のおばちゃんの仕事は早い。そのわけは、朝早くから既に作り上げており、それを冷凍するやら何やらして保存していたりするからだそうだ。それを温めて、すぐに出す。そんなファーストフードのような早業が出来るのはおばちゃん達のおかげらしい。また、味も美味いんだとか。
パスタ料理の代表的なペスカトーレを持って、俺は藤瀬に促されるままに歩いていく。
ちなみに、藤瀬の持っている料理は鯖定食だった。白ご飯、味噌汁、塩鯖に漬物、サラダなどが乗っている定食なのだが、価格が安くて学内では有名だ。
藤瀬が座りこんだ場所の隣に俺も座り込む。そうしてゆっくりと前を向いてみると、斜め左の方向に雪と土屋の姿があった。

「え、何で?」
「ふぇ?」

驚きの声を雪はあげ、柔らかく、気の抜けたような声を土屋があげた。土屋は不思議な表情をして俺を見る。雪は嫌そうな顔をしている。
もっと藤瀬の指を差した方向に気を配るんだった。まあ、それはいい。こいつがいくらいがもうが、俺には関係ない。
ペスカトーレをそのまま食べようとしたその時、

「あのぉ〜……?」

柔らかい声が聞こえてきた。パスタを口に運ぶ前に聞こえてきたので、フォークにパスタを包ませたまま、声のする方へと向いた。
すると、不思議な顔をしていた土屋が、笑顔で俺を見つめていた。

「えへへ、えっとー……神嶋君、だよねぇ〜?」

質問するようにして喋ってくるのだが、その土屋を止めるようにして雪は「土屋さんっ!?」と言っていた。

「何か用か?」
「用はないよ〜? えぇっと、私の名前、覚えてる、かなぁ……?」

笑顔のまま首を傾げて、何だか変な感じのする土屋を見つめ、俺は「あぁ」と無愛想に返してペスカトーレを口に運んだ。口の中で踊り続けるペスカトーレをよく噛んで、飲み込んだ後、俺はゆっくりと口を開いた。

「土屋 希咲」
「うんっ。そうだよ〜」

俺が名前を呼ぶと、笑顔で頷いて答える土屋。何だか、慣れないタイプの人間だった。
そうしていると、隣にいた藤瀬が「あのっ」と声をあげた。

「ぼ、僕の名前は、知ってるかな?」
「うんーっ。知ってるよ〜? 藤瀬 旋律君だよね。えーと、旋律って書いて、かなでって読むんだよね〜」
「あぁ、覚えててくれたんだ。ありがとうっ」
「どういたしまして〜」

何だかこの二人、妙にほんわりした同士なので、場が凄く安定するというか、和む感じがする。普通に見た感じ、女の子の会話としか思えない。

「っていうか、竹上君は? 憂は、毎回竹上君と食べてるんじゃ……」
「毎回じゃないみたいですよ? 何だか、たまたま会ったら一緒に食べる、だそうです」

俺ではなく、何故か土屋が答えた。よくは分からないが、まあいいだろう。丁度ペスカトーレを口に運んでいたところだったからな。
自分でも驚くほどお腹が空いていたのか、既に半分は食べきっていた。

「わー。神嶋君、食べるのはっやいねぇ〜?」

優しい笑顔でゆったりとした口調のまま、俺に言ってきた。何て返せばいいのかも分からないし、何より面倒臭かったのでそのままスルーすることにする。

「ガーンッ、無視されちゃったよぅ〜」

少し泣き顔で雪に言う。雪は「いつものことだから」と呆れ顔で土屋に言ったが、土屋は不思議な顔をして口を開いた。

「うーん? そんな人に見えないよ〜? 何だか、優しいよ〜」

そうして再び笑う。どうしようもない連鎖で、まるで意味が分からなかった。
ペスカトーレを食べ終わり、俺は食器を返すために立ち上がった。すると、それと同時に藤瀬も食べ終わったようで、立ち上がる。

「それじゃ、お先に」
「は〜い、またねぇ〜」

藤瀬の言った言葉に、おっとりした雰囲気で言い返す。
土屋はとても今日転校してきた生徒とは思えなかった。