ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 神は世界を愛さない 3話終了 ( No.32 )
- 日時: 2011/08/28 15:44
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: PUkG9IWJ)
叔父さんの家に早々と帰った俺は、とりあえずシャワーを浴びることにした。まだ叔父さんがいないようだったので、神社にでもいるのかと思いつつ、風呂場に入る。
雪がいる為か、風呂場は清潔感で溢れており、汚れているところは全く無い。アパートの風呂場より全然良かった。さすがに一軒家だと思う。
シャワーを浴び、綺麗に風呂場を流した後、頭をガシガシと自前のバスタオルで拭き、体を全部拭いてから着替えた。
梅雨時期なので、少しジメジメした感じがいつもならまだあるのだが、今日はまだ涼しい方みたいで、ただ何となく風呂に入りたくなっただけのことだった。
それから居間へと戻ると、冷蔵庫を開いてお茶を出す。叔父さんが鳥龍茶が好きなようで、毎日冷蔵庫には鳥龍茶が常備準備されてある。その鳥龍茶のペットボトルを取り、ガラスのコップを取って鳥龍茶を入れる。それを一気に飲み干し、一息吐いた。
それから周りを見渡してみると、相変わらず誰もいない。一人という空間が、何だか凄くこの数日は無かったので、どこか不思議な感覚がした。元々、俺はこんな空間が好きだったのかと。
「……くだらない」
コップに再び鳥龍茶を入れ、また一気に飲み切ると、そのコップを洗面台の流しに置いて、鳥龍茶は元にあった冷蔵庫の中に入れておいた。
居間で寝られても困るだろうし、自分の部屋へと向かって階段を上って行く。自室を開け、布団が畳まれているのを広げて、それからその上へと寝転がった。
疲れていたのだろうか。蛙やコオロギの鳴き声など、こんなまだ夕暮れではない時には聞こえるはずもなく、すぐに眠りの世界へと落ちていった。
暗い闇の中。一体自分はどこにいるのだろう。
手を伸ばしても、光など、存在しない。ただ、無空間の闇しかないこの空間には、自分自身以外の存在がまるで無かった。
そして、今度は自分も消えてしまうかのように。この闇に、捕われて、寂しく、誰にも気付かれることも無く、ただ神に願うことしか出来ない人間の非力さ。
無情にも、闇という恐怖は人間の心に住み着いているようだった。
「——きろ」
何かが聞こえた。そんな闇の中で、何かが聞こえた気がした。
一体何だろう。そう思って耳を澄ましてみる。
「——きろっ!」
叫んでいるのだろうか。よく分からないが、少女の声だということは分かった。それも、聞き覚えのある声だ。
何だっただろうか。よく思い出せない。この闇の空間は、そんなことさえも拒絶して——
「起きろっ! この異常人間!」
その瞬間、何か痛みが脇腹に突然走っていく。何だろう、この痛みは。視界が突然真っ白になり、その瞬間、黒と白の混じったテレビの砂嵐のようなものが脳裏に走り、次に気がつくと、目の前に電灯の光と、どこぞの少女の姿があった。
仁王立ちをして、悠然と立つその姿はとても印象がある。神殺し、だったか? そんな感じの人だったように覚えている。
脇腹がズキズキ痛むのは、多分この少女が蹴ったからだろう。俺を相変わらずの冷徹な目で睨んでいるその表情からしても、笑えない冗談だった。
「一体何の用——」
「何の用じゃないだろッ! お前が起きていないと、というか、お前から私のブレスレットやらに触れてこないと、私は力を発揮することが出来ないんだよッ!」
「そんなこと知るか。今言われても。俺は人間だから、勿論寝るぐらい自由にしてもいいだろ」
「寝るな。ずっと起きていろ。そして、お前が私の所に来い。人間風情が、それぐらいしろ。お前如きの小さな人間が私の力を奪ったなんて……恥さらしもいいとこだ」
ぶつぶつと少女は変わらない冷徹な目で俺を睨みつつ、言葉にして呟いていた。
とりあえず、この少女は力が奪われたことを俺の責任としている所からしてとんでもない八つ当たりのように俺は思えてくる。何せ、俺は被害者同然のはずだった。いきなり神隠しだとかで殺されそうなハメになり、挙句の果てにはその俺を殺そうとした奴を倒してくれたヒーロー的なこの少女が、俺を殺そうと襲いかかってきた。どう見ても、俺が独自でこういう結果にしようとしてこうなったわけではない。勿論、この少女にも非はないことは無いとは思うのだが、俺に全責任を傾けるのはとんだお門違いだとは思っている。
ということもあって、この少女が俺に全責任を負わせているような形にしていることが気に食わないわけだった。
「身勝手すぎるんだよ。俺は別に関係なんて——」
「関係あるだろ。現に、お前の腕に触れたら私は力が戻る。お前が鍵となっている以上、関係あるとしか思えないだろうが、この人間風情が」
こいつは人間風情が、というセリフが口癖なのだろうか。見下しながらそんなセリフばかり言っているような気がする。
それに、この少女が言うように、全くの関係がないということは証明できない。逆に、関係のあることが証明できてしまう。あぁ、面倒臭い。
「んで、一体何の用だ」
俺は観念し、少女に聞き出すことにした。
すると少女はゆっくりと口を開き、言葉を放った。
「神が現れた。討伐しに行くぞ」
少女は俺の腕を掴み、立たせると、窓の方から出て行くつもりか、俺の部屋の窓を開き、そこから飛び出そうとする。
「待てッ! お前、今は人間だろッ」
「ッ、そうか」
気付いていなかったのだろうか。少女は飛び出す寸前で足を止め、腕を差し出して来た。このまま能力が戻ったのなら、そのままこいつ一人で助けに行けばいいのに、と考えたが、言ったら言ったでどうなるのだろう。
少女のブレスレットに目掛けて、俺は手をかざした。電撃の走るような感覚、頭がいじられているような感じが襲いかかり、俺は思わずへたりこんでしまう。
「それが副作用のようだな。それにしても、不便な荷物だ、お前は」
少女はそう言うと、俺の腕を引いたまま豪快に外を飛び出していった。叫ぶ、なんてことはしなかったが、それでも空中を飛んでいる。そのままふわり、と宙に浮いたかと思うと、くるりと回転して猫のように華麗に着地した。俺はその勢いに任されるがまま、着地する。少し足が痺れたような感覚がしたが、そんなことに構っていられる暇もないのか、少女はそのまま飛び飛びでそこらの木や家の屋根を縦横無尽に飛んでいく。既に周りは暗く、どれほど寝たかも覚えていない俺にとっては混乱することばかりだった。
それに、このままだと俺の腕が引き千切れそうだ。
「おいっ! どこに向かってる!」
「神のいる場所に決まっているだろう」
その神のいる場所とやらを聞きたかったのだが、そんなことはお構いなしのようだった。
暫くそうして行くと、住宅街の中へと入って行った。そこで急に立ち止まる。丁度住宅街の人気のない場所として有名な所だった。
やっと静止した少女は、よく見るとあの機械仕掛けの剣を持っていない。どこかに隠し持つ、なんてスペースは少女には無いと思うが、どこにもそれは見つからない。
「よし、入るぞ」
「え?」
有無を言わずに、少女は地面へ自分の手を押さえつけるようにしてかざした。すると、その瞬間——世界が暗転した。
「ここは……どこ?」
気がつくと、私は何も無い世界にいるような感覚だった。
実際、目の前の風景は暗く、闇が広がっている。所々に電灯があるようで、バチバチと消えたり付いたりを繰り返している。
この場所は見覚えがあった。ここは、そう、住宅街だ。私はここで、どうしていたんだっけ?
考えてみても、よく分からなく、更には頭痛まで起こっている始末だった。
「痛い、頭……」
頭を押さえ、ため息を一つ吐くと、すぐにその場にあったベンチへともたれかかるようにして座り込んだ。
一体、今何が起こっているのか。分からないことだらけなのはいいとして、気だるい感じがどうしても拭いきれない。
ぼんやりと目の前を見つめていると、その電灯がたまにしか付いたりしないその奥の方から、何やら人影のようなものが見えた。
ゆっくり、私がいる方へと近づいていく。一体何だろう。もしかして、憂? そんなわけ、ないか。
色々考えてはいたけど、こんな暗い、人気のないような場所で人と出会うなんて、あまり良い予感がしない。
「一体、誰……?」
暗闇の中から、段々と姿を現していく。
そして、その人物は薄っすらと電灯を背景に、姿が見えた。
「——ようこそ、私の領域へ」
その姿は、紳士的に微笑む、人間であって人間でない、"何か"だった。