ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 神は世界を愛さない  ( No.40 )
日時: 2011/09/23 17:38
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: PUkG9IWJ)

「何か憂、嬉しそうじゃねぇか?」
「そうか?」

靴箱で会った竹上と会話する。
それも日常の一環なのだが、どうしてかいつもと違うような気がしたのは気のせいだろうか。とは言っても、特に気に留めるようなことでもないし、別にどっちでもいいだろう。
靴を履き替えて、そのまま教室へと向かう。

「やっぱお前、様子がおかしいって」
「意味が分からないこと朝から連発するな」
「意味分かるだろっ、お前、何か嬉しそうだぞ?」
「どこが」

ふっ、と鼻で少しの微笑を浮かべながら階段を上った。その後を竹上は着いて来ずに、何故かふるふると小刻みに震えていた。

「何してるんだ」

つい、そう声をかけてしまった。それほど、奇妙というか、気持ち悪かった。
竹上は「憂、お前……」と声を出すと、そのままゆっくりと俺に近づいて来て、

「笑ったじゃん! 初めて見たよ、俺!」

どうにも興奮した様子で俺の背中を叩いてくる。
いや、鬱陶しいな。というか、俺はそれほどまでに笑わなかったか?
何だか不気味な感じがして、俺は「そうか?」とだけ呟くと、そのまま教室へと向かって行った。
その後を竹上は嬉しそうに付いて来る。別に、来なくてもいいんだけど。

教室の手前で笑顔の竹上と別れた後、俺は自身の席へとゆっくり向かう。いつも通りの騒がしさの中、何故か安堵しているような自分が居て、意味が分からないと平静を装って座る。

「神嶋君」

丁度その時、藤瀬の声が聞こえてきた。案の定、目の前には藤瀬の顔があった。どこかぎこちなく、緊張しているような……うん? いつも藤瀬はこんなだったか?

「これ……」

すると、一枚の紙を俺に差し出して来た。見ると、その内容は今日の放課後に行われる文化祭の為の練習や、色々と物作りをするそうだ。それについての詳細がその紙には記されてあった。

「来て、くれますか?」

藤瀬なりに思い切った告白なのかは分からないが、お願いしますと後から付け加えて、藤瀬は俺に向けて頭を下げた。
頭を下げないと出ないような人間だったのだろう、俺は。

「頭、下げなくていいだろ」
「え?」

俺が言うと、藤瀬はゆっくりと頭を上げて、驚いたような表情をした。そこまで酷い奴だったのか、俺は。

「出るよ、これ」
「ほ、本当ですか!?」

藤瀬の声に、その場にいたクラスメイトもゴソゴソと俺の方を見ては驚いた顔をしたり、嬉しそうな顔をしたり、意味の分からない空気に、俺は圧倒されていた。
こんな空気すらも、知らなかったのか、俺は。

「そ、それじゃあ、来て下さいねっ!」
「あぁ。分かった」

俺がそう答えると、藤瀬は嬉しそうな笑顔のまま、自分の席へと向かっていった。
その背中は、以前見たような感じではなく、また別の、新しい雰囲気が漂っているように見えた。
何だろう。此処は、こんな場所だったのだろうか。知らなかった。

「ねぇ、雪! 神嶋君が、放課後の練習出るって!」

その時、クラスの中に入ってきた雪に向けて、いつも通りのメンバーが声をかけた。
雪は、素っ頓狂な表情を見せ、ちらりと俺の方へと向くと、すぐに顔を背けて、

「そ、そうなんだ!」

と、ぎこちない返事を返した。
様子がいまいち変に思えたのか分からないが、その友達一同は「どうしたの?」と、気に掛ける声を出していたが、雪は首を振って、何でもないと答えるばかりだった。

「あ、土屋さん! おはよー!」

そのまた他のクラスメイトが、扉の方を向いて声を出した。
その先には、土屋が笑顔で手を左右に小さく振って、「おはよ〜」と呑気な声で返事をした所だった。
パタパタと少し忙しなくスリッパ特有の音を出しながら、土屋は雪に近づき、

「昨日はありがと〜。手伝ってもらっちゃって〜」
「あ、ううん。気にしないで、希咲ちゃん」
「ふふ、分かったよ〜雪ちゃんー」
「え、何何!? もう二人共、そんなに仲良くなっちゃったのっ!?」

その二人の会話を聞いて、周りの女子が集まっていく。それを遠目に見つめる男子とか、その他の話を、雑談を楽しむクラスメイト達。
俺は、孤独なんて自分を締め付けて、こんな空気に馴染まなかっただけなのかもしれない。
けれど、俺は——どこか、壊れてる。

「おーし、SHR始めるぞー」

担任がいつも通り忙しなく入って来て、それから生徒達はそれぞれの席に座っていく。
俺が見ていた風景は、モノクロだったけれど、今は少し、色が見えてきている気がした。




私は一体何をしているのだろう。
どうして此処にいるのか、その存在理由を無視してまで、どうして。

「それより、何であの異常人間、少年Aがいないと私の力が元に戻らないんだッ!」

その場に落ちていた石コロを思い切り蹴る。蹴る直前に、しまったと後悔の念が込み上げたが、既に時は遅く、その石コロを真っ直ぐに蹴り上げてしまった。
だが、その石コロはただ普通に、真っ直ぐに跳ねて行っただけで、他には何もなかった。

「あれ……?」

想像していたのとは違う。いや、それよりも、これだけの力しかなかったのだろうか?
本当なら、もっと真っ直ぐに、いや、家を軽く貫通するぐらいの威力、弾丸並みに石は飛んで行ってくれるはずなのだが、全くその雰囲気ではなかった。渾身の力を込めて蹴ったはずなのに、何故威力が無いのだろう。

「力が、弱まってる……?」

自分の手の平を見つめて、そう呟いた。
自分の小さな手。それは、神殺しの手。人殺しの手。
これだけ小さな手に失った命はどれほどあるのだろうか。けれど、私は神殺し。神を殺す者。いや、断罪する者。

「あの男は……神を操る者。いや、それよりも……」

私は考えた。あの男は、本当のことを知らせるべきか、否か。
もし、その本当のことを知ってしまったならば、あの男はどうするのだろうか。
神殺しとの契約は、悪魔の契約とも言われる。神殺しは、そもそも神様を殺す悪魔のようなものだからだ。
私はもう人間には戻れない。そうは分かっていても、私はあの男の事が気になった。
あの男なら——この世界を、殺してくれるかもしれない。

そしてその時、真実を知ることになる。




神嶋 憂は、既に死んでいるということを。