ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Forget me not... ( No.1 )
日時: 2011/09/10 16:23
名前: 虚空 ◆g3Ntw.kZAQ (ID: AiiL/B92)

第00杯 [噂と喫茶店と煙草]


「ねぇねぇ!! もう聞いた?」
「あの噂でしょ? 聞いたに決まってんじゃん。皆、その話しかしてないもーん」

着崩した制服、茶色く染められた髪、耳元や胸元を飾る幾つものアクセサリー。
いかにもな女子高生達が少々迷惑に感じるレベルの大声で話しながら街中を歩いている。
帰宅途中と思われるサラリーマンらしき男性は少女達に気付かれないよう眉を顰(ひそ)めた。
「何だっけぇ……。確か“消したい記憶を消してくれて、思い出したい過去を見つけてくれて、
取り戻したいモノを取り戻してくれる”お店があるんだっけ?」
「そうそう!! 昼間は普通のカフェらしいんだけどぉ……。閉店時間を過ぎた夜になると本当に必要としている人にだけ
扉を開ける不思議な所」
興奮と同時に声のボリュームも自然と上がっていく。
少女達は周囲を気にすることなく話し続ける。
「いいよねぇ。あたし今日さぁ、あの井沼とかいう教師に携帯没収されたの!! まじ最悪じゃない!?
そのカフェ行って、取り戻してもらいたーい」
「それ、あんたが授業中に使ってんのが悪いじゃん。あいつ厳しいって有名なのに馬鹿だねぇ」
「馬鹿とか言わないでよぉ。もう自覚してんだからさ」
「え、あんた自覚あったんだ!?」
「ちょ、酷くなぁい?」
笑いながら歩き去っていく少女達を横目で見送る者が一人、いた。
喫茶店の従業員なのか、店名の書かれたエプロンを身に付け、店前で煙草を銜(くわ)える若い赤毛の青年。

「千鶴さん千鶴さん。僕等の噂、もう大分広がってるみたいですねー」

その青年は煙草の煙を目で追いながら、傍らで掃除をする女性にそう話しかける。
「無駄話はいいから、貴方も早く掃除手伝いなさいよ。ていうか、貴方未成年よね? 煙草、没収ー」
綺麗な長い黒髪を持った、まさに大和撫子といった雰囲気の女性は青年の銜えている煙草を手に取り
携帯灰皿に押し付けた。
「えぇー。酷いですよー。僕、煙草ないと苛々するんですからー」
「駄目なものは駄目よ。法ぐらい守りなさい」

文句を呟く青年を宥め、一通り掃除を終えて店内へと戻っていく青年達。
ガラス張りの扉が閉まり、準備中と書かれたプレートが音を立てて揺れる。

喫茶店「勿忘草」
開店時間:AM9:00
閉店時間:PM5:00

最近開かれた、美味しく手頃な値段のケーキと本格的なコーヒーや紅茶が楽しめる喫茶店。

連日店内は、若い客中心に賑わいを見せている。



「いらっしゃいませ。本日のお勧めはこちらでございます」