ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 死への誘い ( No.9 )
- 日時: 2011/08/28 16:54
- 名前: 夕海 ◆7ZaptAU4u2 (ID: MDTVtle4)
外は月光で薄く照らされた民家や商店が戸を重苦しい雰囲気で閉じて立ち並ぶ大通り。ある娘が片隅を逃げ隠れるように走っている。
右手に持つ提灯の炎が揺れて、今にも消えてしまいそうな、頼りない光で道を灯してる。鋭く細い三日月の晩だ。
大して光らない月光を頼るのは忍びない。娘は走っていた足取りを止め、ゆっくりと歩き始めた。
「うふふ……」
娘は微笑を浮かべてた。軽やかな足取りで大通りの外れにある神社の方角へ向かう。
神社に着いた。遠い先に鳥居が見える。娘は階段を上り始めた。鳥居の前に来たころ、息が荒れ、疲れた様子であった。
しかし、鳥居の前に進み、手を合わせて目を閉じる。そこから一歩も動かない。
しばらく一心に祈っていた。すると、気配を感じた。恐る恐る目を開けたら、……少女がいた。
「あたしと契約をしたいのね。この風車を吹くと契約成立するわ。すると復讐相手は死ぬ。けど、相手の生命を奪ったからには汝もその代償を払って貰う。それでも……したいのね」
花と蝶柄の振袖を着て黒の袴を着た少女が差し出す、黒い風車をお春は受け取る。
最後に少女の無表情な眼差しを向けたまま、辺りに霧が立ち込めて少女の姿が消えた。
後に神社の境内から、冷たい夜風が頬を掠めたという。
■
明け方近く目が覚めた。昨日のは夢だったか、と落胆した時、目に映ったのは……黒い風車。驚きの余り目を見張る。
震えだす手で風車を握った。左右の横で両親はまだ寝ている。起こさないよう、静かに外へ出た。
暑い夏がもうすぐ秋めいてくる微妙な季節。葉も花も次第に朽ちてゆく中、長屋の井戸に腰かけた。
——— 昨夜の出来事はしっかりと記憶に刻まれている。
ああ、と呟いた。手に握る風車を見つめながら、考えに耽る。少女は復讐を果たす代わり、代償を払うと言った。
それは何の代償なのか、良く分からない。もしも、代償が命に関わる事だったら、と思えば気分が悪くなった。
復讐したい、という気持ちと代償を払いたくないの気持ちが複雑に絡み合って胸が痛む。
しかし、頭の片隅に浮かんだ二人の姿。
—— 私達の子供、ちゃんと育てようね。
—— ああ、そうだね。僕の可愛いややこを、さ。
お腹をさすって見遣りながら、笑う二人。
成長するまでずっと思い続けていた人が違う女と結ばれてしまった。
思いを言えず、更に彼は自分を置き去りにした。
馬鹿みたいだ。
本当に馬鹿で仕方ない。だから、もうこの方法しか残ってなかった。
思いを告げる為、もう………自分は最低で地の底まで落ちる行為をするしかない。
一粒の涙を流す。風車に当たった。風車を顔に近づけて一吹きした。
—— からら、と音を立てて風車の羽根が回る。
風車を握る手が震えていたが、しっかりと握り締めて引きつった笑みを浮かべて笑う。
「あ、はははは…………死んじゃえ、死んじゃえ、お桜なんか、死んじゃえば良いんだ」
それ以降ずっとお春は笑い続けていた。
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