ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 【参照100突破】 非行少年隊COLORS ( No.18 )
- 日時: 2011/09/23 10:57
- 名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: AidydSdZ)
「1」
私は今、混乱して、自分の存在を確かめているという状況にある。
私は数時間前には、隣町の会社に居た。ちゃんと存在していて、残った仕事を片付けていた。電車に揺られ、我が家に帰ろうとして駅を出たら。
今、黒いハイヒールを履いた足が二本、しっかりとアスファルトについている。手も動くし考えることも、あたりを見回して今の状況を把握することもできる。
だが、私が存在しているという根拠はこの中にはない。
自分が今生きていようと、生きている証拠が何処にもない。
今、此処に確かに存在しているのは、死の群れだ。
私は死んだのか?
いや、生きている。大丈夫だ、心臓は異常なほどの速度で脈打っている。大丈夫、大丈夫だ。
私は苦くなった唾を路上に吐き捨てた。唾がべちゃ、と、音を立ててアスファルトに染込んだ紅い、紅い血の上に落ちる。改めて、あたりを見回す。
酷い有様だ。皆、腹や背中から血がどくどくと流れた後があって、地面に這い蹲ったり寝転がったり、ブロック塀に寄りかかったりして、誰一人として起き上がろうとはしない。
はは、と、私は小さく笑った。表情を変えず、笑ってみた。いや、笑うしかないだろう。涙も出ないほどの紅にこの街全部が染まっている。取り残された私はどうすればいい?
此処に居たら殺人犯と勘違いされかねない。とりあえず警察、警察に届けよう。
自分の冷静さに多少感心しながら、ゆっくりと踏みしめるように近所の交番に向かって歩き始める。ハイヒールはいつものカツカツとした忙しい声ではなく、小さく弱々しい声を出した。
交番に向かう途中の道の街灯の青白い明かりが、アスファルトに横たわった女性を照らしている。その顔を目を細くして見つめると、よく知っている顔だった。ああ、殺されたか。この街で一番親しい友人だったのだが、少し残念な気がする。やはり、涙は出ない。私は彼女に「冷血!」とよく言われていたことを思い出した。
死に様は無様な物で、目を開けたまま死んでいる。腹を刺された後で腕や足も何度か刺されたようだ。腹からの出血が酷かったのだろう。赤黒い大量の血が街灯に照らされてギラギラと存在感を周囲に放っている。さっきからずっとだが、此処は特に生臭い。
私はしゃがみこみ、彼女の開いた瞼を閉じてやった。ついでに、血の気の無い頬も触ってみた。冷たく、硬い。死んでから大分時間が経っているようだ。
立ち上がり、声には出さない警察ドラマの真似事をしてみる。腕を持ち上げて腕時計で時間確認。死体発見時刻、午前3時26分。自分の存在を確認するのにかなりの時間がかかったようで、既にこの街に居る時間が一時間を超えていた。
早く交番に行こう。そして、早くこの街を出よう。
交番に向かい、またハイヒールがいつもの忙しそうな声で喋り出した。ハイヒールの大きな話し声は誰も居ない街に反響する。
早く、警察に。