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Re: 神的少女は殺戮がお好き【神殺通信更新!!】 ( No.164 )
日時: 2011/12/27 09:59
名前: 奈美 ◆a00JQBXv3o (ID: m3TMUfpp)

第十三章 殺しの依頼

 下校途中。朱里はショートカットの髪をふんわりと揺らしながら、静かな住宅街を歩き自分の家を目指していた。

 下校途中。美百合は高く結ったポニーテールを左右に元気よく揺らしながら、朱里の歩く町並みとは一変、同じ町にそんな場所があるのかというほど田畑が広がり、自然豊かなあぜ道を歩いていた。

 それと同じ頃。女神——柊木華香は、再び人間界へと降り立っていた。今度は広い田畑の真ん中に立つ、新しそうだけれど誰も住んでいないような静けさに包まれた家の、クローゼットから。
 なんでまたこんなところから? 死神少女は静かな住宅街に住んでいるはずなのに。こんなボロ家、住宅街にあるはずないわ。私が確認したのは、桐ヶ谷の静かな住宅街に住む、花園朱里と田中奏。この二人だけよ。
 華香は心の中でそうつぶやいた。とにかく行くしかない。華香はボロ家を出て、その風景に唖然した。
 目の前には、広大な田畑が広がっている。家といえば、このボロ家のほかに新しそうな家が一二軒、建っているだけだ。どうやらここは、森に囲まれているらしい。ここから抜ける手立てといえば、あそこにある森の切れ目だろう。
 見晴らしはいいが、隠れていたい華香にとっては不都合だ。華香は森の切れ目へ向かった。
 土が固められただけのあぜ道を歩いていると、制服を着た少女がこちらに向かってきた。
 中学生か。
 華香は足を速め、顔を見られないように左を向いた。
 少女はこちらを見向きもせずに、前を向いて歩いていった。華香は少女の顔を盗み見る。と、どこかで見たことのあるような顔だ。あれは……そうだ、死神少女候補の一人だったはずだ。

Re: 神的少女は殺戮がお好き【第十三章更新!!】 ( No.165 )
日時: 2011/12/29 17:19
名前: 奈美 ◆a00JQBXv3o (ID: m3TMUfpp)

名前は……武藤美百合と言っただろうか。華香は少女を呼び止めた。
「武藤美百合! 桐ヶ谷第二の死神少女!」
「なんでそれを知ってるの!?」
「それは……」
 ハッと息を飲んだ。何も考えずに呼び止めたのが失敗だった。思わず言ってはいけない事を、人間には聞かれてはいけない事を、大声で叫んでしまったのだから。ここが、森に囲まれている人気のない場所で助かった。華香は手をかたく握り込む。
「私が……女神だからだ」
 美百合は、まじまじと華香を見つめた。女神だと言う、彼女を。一瞬の驚きをしまいこみ、冷静に聞いた。
「女神? 本当でしょうね。信じてもいいの?」
「ええ。それでなければ、私があなたのことを知っているわけがないでしょう」
「……そうね。そうよ、私は武藤美百合。桐ヶ谷第二の——いえ、第三の死神少女と言った方が正確ね。それより、何の用でここへ? ただでさえ人間界へ来るのは特例だと聞いたわ」
「あなたにある人を殺してほしいの。それに、私は数多くの危険を犯してここに来たわ。私は特例中の特例。もう許されないかもしれないの。だから、お願い。私の娘のために、貴方たち神的能力者のために」
「あなたの娘?」
「樹奈よ。今、二年生なの。お願い、死神を殺して、世界に平穏をもたらして!」
 華香は、今にも泣き出しそうな勢いだった。美百合は困りはてる。
「望みはかなえるわ! お願い! 樹奈を助けて! 世界を助けて!」
「分かった。でも——先に望みをかなえてほしいの。優美を……朱里の唯一無二の親友を……桐ヶ谷第一の死神少女を……生き返らせて」
 華香は顔をあげた。
「無理。死んだ人を生き返らせるなんて危険すぎるわ」
「なんで!? あなたは危険なことをたくさんやってきたんでしょ! なら出来るじゃない!」
「そうしたら私は代わりに殺されるわ! 人の命があって、人の命は救われるの。それに、私は樹奈を助けてあげなくちゃならない。抱きしめてあげなくちゃならない!」
 セーラー服を着た美百合は震えだした。そして、今までため込んでいた怒りを押し出すように、大きな声で叫んだ。
「そんなきれいごとを言うためにここに来たの!? あなたは、樹奈先輩を助けるために、世界を救うためにここまでやって来たんじゃない。危険だって何度も犯してきたんでしょ! だったらそれくらい出来るでしょ!」
「出来るわ、出来るけど……そうしたら私は——」
「出来るならやればいいじゃない。そしたら私は何?樹奈先輩は一人でここまでやってきたのよ、あなたがいないくらいでくじけるような人じゃないわ、私は分かる。ねえ、お願いよ。何か隠してるんでしょう? 全て話して。朱里たちに」
「死神少女たちに?」
「そうよ。そうしたら、朱里はやってくれるわ。朱里の誰かに対する優しさは、きっとあなたを助けてくれる。ねえ、全部話して! 私たちは全てを知る権利がある。神的能力者として」
 華香は考え込んだ。体に突き刺さるような秋の冷たい風が、二人の周りをかけぬけていく。華香は虚ろな目を輝かせ、美百合に向き合った。
「分かったわ。全て、貴方たちに話す。でもその代わり、死神を殺して。死神少女を生き返らせてあげるわ」
 美百合はニッコリと微笑んだ。
「ありがとう。ちょっと待って、みんなに電話してくるから。ああ、よかったら、家にきてよ。今日は誰もいないから」
 二人は、森の中に広がる、田畑の中にぽつんと建っている家を目指した。

第十三章 結