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Re: 神的少女は殺戮がお好き【あらすじ更新】 ( No.180 )
日時: 2012/02/25 11:32
名前: 奈美 ◆a00JQBXv3o (ID: 4pBYKdI8)

第二章 記憶

「優美! 優美ってば!」
 かろうじて聞き取れた声。『優美』というのは、私を指しているのだろうか。私は目を開けることにした。目に飛び込んできたのは、ショートカットの女の子。私はこの子の事を、知っているような気がする。
「あ——ッ起きた、起きたよ、奏! きゃぁあああ! 大丈夫だった!?」
「起きたのかッ!?」
「あなた……誰?」
 あの道で見た二人だ。でも、何も思い出せない。この二人は、私にどうかかわっているの——? そして、私は誰? あなたたちは? もう分からない。
「え……? 何言ってるの? 朱里よ。分からない?」
「俺たちの事、覚えてないのか?」
「覚えてない」
 二人は顔を見合わせた。この二人の事知っているはずなのに。何も、何も思い出せない。どこかに引っかかってる。
「おい、記憶喪失なんじゃないのか?」
「じゃあどうやってここまで来たの。土地勘のない人はそう来られない所だよ?」
「それは——偶然」
「きっと、記憶の一部が欠けてるだけなのかも。記憶絡みの事は、樹奈先輩に言いましょうよ」
「そうだな! でもどうやって連絡——」
「大丈夫! メアドもらったんだ〜」
 そう言えば、私は携帯を持っているはず。確かコートのポケットに——
「コート、取って」
「はい」
「ありがとう」
 朱里はワークデスク横のコート掛けから、紺のスクールコートを取る。私は朱里から受け取った私のコートのポケットの中に手を入れた。固い物が指の先に当たる。それをつかみ、取り出した。
「携帯! 優美携帯もってんぞ!」
「これ、私の?」
「そのはずだ。機種もデザインも一緒だからな」
 二つ折りの黒い携帯。恐る恐る開けると、液晶ディスプレイが白く光り、可愛らしい女の子が手をつないでいる絵が現れた。
「あ、これね、おそろいなんだよ! ほら」
 と見せてくれた女の子の携帯の画面は、私の待ち受け画面と同じだった。携帯は白だ。私とは全く違う。
「メール打たなくちゃ。頭の切れる樹奈先輩の事よ、すぐ状況が分かるはず」
 樹奈先輩? 誰だったかしら、確か——女神の娘だったわよね。
「女神の事を知っているの?」
「ええ。生き返らせてくれたもの」
 あくまでも一時的だけどね——私はその言葉を反射的に飲みこんだ。なんだか、言ってはいけないような気がしたからだ。
「よかった! 約束は果たしてくれたのね! じゃあ次は私たちは果たす番——というのも、世界を救うためよ。そのために、私たちは死神を殺さなくてはいけない。能力を使って」
「能力?」
「私と優美、奏の持つ存在抹消能力よ。言うと、私が優美の存在を消したの」
「え……?」
 私の頭の中は、真っ白になった。この子が? 朱里という、この子が? 親友だという、この子が?

——ピィンポォーン……

 やけにのんびりとしたインターホンの音が部屋に微かに響いた。
「ちょっと待ってて」
 朱里が出て行った。私は携帯の画面に視線を戻す。電話帳には、たくさんのメールアドレスや電話番号が書かれていた。もちろん、朱里や奏のも。どうやら私たちは小さい頃からの友達らしく、連絡も頻繁にしていたらしい。メールボックスは、二人から来たメールで溢れかえっていた。
 やがて、朱里が大人びたポニーテールの制服を着た少女を連れてきた。樹奈先輩というのは、この人の事だったのね。
「優美——! 記憶が無いんですって? 生き返らせてもらったときに、何らかの異常が生じたのね。大丈夫、記憶は必ず取り戻せる。ただ、それがいつなのかが分からないの」
「分からないって? 優美はどうなるの?」
 私が言うより先に、朱里が聞いた。
「例えて言うと、今は色々な記憶の糸が絡まって、記憶の出口から出てこられないの。でも、何かキーワードのようなものがあれば、スルスルとほどけて記憶の出口から記憶が溢れだし、記憶が戻る。どんなキーワードなのかは分からないし、それで全ての記憶が戻るとは限らない」