ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 1 ( No.1 )
- 日時: 2011/09/06 23:09
- 名前: すずか (ID: nkrYcvPM)
避ける。避ける避ける避ける当たらない避ける当たらない避ける避ける当たらない避ける避ける当たらない当たらない当たらない避ける避ける避ける当たらない。
誰に向けるでもなく舌打ちをした。目の前でシャーシャーとやかましいトカゲ男の巨大な爪に寸断されるほどの軟弱者ではないが、かといって逆に余裕綽々でばっさりと奴を薙ぎ倒せるほどの剣の腕もない。結局のところ、逃げ回っては攻撃をしかけ、それを避けられまた逃げ回ると、どうしようもなく膠着状態なのである。非常に面倒くさい。
更に腹立たしいのは、この状況を適度な距離を保ちながら観戦をしている輩がいることである。そいつが割り込めばものの5秒でカタが着くことも苛立ち具合を増幅させる。
腹立たしい原因は、その輩が手伝いもせず傍観を決め込んでいるからではない。自分の力量が、傍観者と比べ圧倒的に低い事がイルを苛立たせる。自分は、まだ強くないのか。
その自分自身に対しての強迫を若干含んだ思考に気を取られ、体が一瞬止まる。その隙を派虫類男は見逃さなかった。鈍く光る鉤爪がイルを捉えた。剣を構え直すにも間に合わない。思わず目を閉じたが、衝撃は襲ってこなかった。
恐る恐る瞼を持ち上げると、頭を切断され血をどくどくと吹き出しながら痙攣するトカゲ男の体が目の前に倒れていた。頭は少し後方で草に埋もれている。その傍に、血で刃が濡れている小ぶりのナイフが落ちていた。
後ろを振り返ると、ナイフを投げる前と変わらず無表情のショータが、イルに向け淡々と言葉を投げる。
「目の前の敵に集中しろ」
頭が考えごとに重きを置いていたことはお見通しだったようだ。それがまた気に入らなくて、イルは苦虫を噛み潰したような顔を作る。
詰まるところ、いくら悔しがっても、勝手にライバル視をしようとも、イルはショータに戦闘面では全く敵わないのである。