ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

10 ( No.10 )
日時: 2011/09/19 01:10
名前: すずか (ID: GSdZuDdd)

「龍人なんて、死ぬまで関わりなんてないと思ってたのです」

 ベルの言葉に、イルは深く同意した。
 
 龍人。龍と人の間に生まれた者の血を引く系列の中で、通例の儀式を行った者のみがそう称されると言われている。儀式の真相は、未だ定かではない。普段は人の目を誤魔化すため、人間の姿であるとされている。しかし、それはあくまで見た目だけなのだ。
 圧倒的な破壊力。龍人が持っている力は、それに尽きる。凄まじい身体能力に加え、全属性の高等魔術を自由に使いこなす彼らにとっては、一個小隊程度は小石ほどの存在である。
 そんな脅威の存在である彼等だが、血が薄まっていっているということもあり、現代で龍人が発見されたという情報は1つもない。イルも、龍人は昔話に登場するだけのものだと、てっきり思い込んでいた。しかし、龍人の血というのはそうそう簡単に薄まるものではなかったらしい。

「相手としても、龍殺しの弓があると分かってのこのことやって来るとは思えない。騒乱に紛れて奪い壊してしまおうとでも考えているのだろう」
「壊すって、龍殺しの弓は龍人にも効くんですか?それで弓を?」
「いや、効くとかそういう問題ではなく、長年の恨みつらみを晴らしたいという魂胆らしい。まあ、先祖である龍を狩ったそのものとも言えるからな。他にも理由はありそうだが、今までの文献ではそれぐらいしか情報がない」

 シンはかなり知識を蓄えているのだろう。龍殺しの弓を扱える者として、責任を感じているらしい。

「だがまあ、警戒は怠るべきではないが、こちらからは動きようがない。それに、いくら破壊の導き手とされていようが突然殺戮を始めることはないだろう。こちらが龍殺しの弓をちらつかせないぶんには、向こうも動きようがないだろうから、しばらくは様子見だな」
「了解しました」

 ベルが敬礼をするのを見て、慌ててそれに倣う。珍しく、シンが薄く微笑んだ。しかし、それは自嘲の笑みでもあった。

「おそらくこれは、俺がいたから引き起こしてしまった問題なんだろうな。この国を、お前達を巻き込んでしまって本当にすまない。何があっても、この国は必ず守る」

 その発言に、イルは少し距離を置かれていることを感じた。だが、ためらいがちに、イルは言葉を紡ぐ。

「隊長個人の問題では、ありません」
「ん?」
「この国が小さいながらも、近隣国から舐められず対等に見られているのは隊長がいるからです。この国には、隊長が不可欠なんです。ですから、隊長が抱えている問題は国の問題でもあり、俺の問題でもあります」

 シンは一瞬、目を見開いて黙りこくってしまった。それから、再び軽く微笑んだ。今度は、嘲笑ではなく、苦笑だった。

「お前は、俺を美化しすぎだ」
「憧れの人というものは、美化してしまうものなんです」

 ベルはそのやりとりに、クスクスと笑いを漏らした。