ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 11 ( No.11 )
- 日時: 2011/09/21 23:07
- 名前: すずか (ID: B9tAUYch)
シンの言う通り、それ以降龍殺しの弓絡みのいざこざは全く起こらず、平穏な毎日が続いていた。
そんな中、イルは再びショータの元へと訪れようとしている。龍人の件もあり、イルはますます鍛錬を行うようになっていた。
ショータの家は情報屋を営んでいる。情報屋では、他国の動きや城下町での大きな事件といった情報の仕入れ、個人の依頼の受け付けと解決いった、言わば何でも屋である。依頼も情報販売も安価であり、城下町では割と名が知れている。
情報屋の扉を叩く。パタパタと中から音がして、扉が開けられた。
「はいはい……あれ、イル君。久しぶりー」
「おう、久しぶり。ショータはいるか?」
扉を開けた人物は、ショータと全く同じ顔をしていた。しかし、ショータとは違う点が2つ。1つ、ショータならば見ることができないような柔和な笑顔をうかべている点。2つ、右目の瞳孔が真っ白である点。彼が、ショータの双子の弟のウィルである。
「ごめんねー、今ショータいないんだよ。依頼で他国へ行く貿易商人さんの護衛を仕っちゃってさ」
「あ、そうか……。そりゃ、いっつも暇ってわけじゃないよな」
「変なとこ抜けてるよね、イル君は。まあ入ってよ、僕は暇だよ」
来る前に予定を擦り合わせておけばよかったと、後悔する。ウィルはクスクスと笑いながら、イルを招き入れた。ウィルの歩き方は特徴的だ。ひょこひょこと、左足を軸にして右足を引きずるように歩く。ウィルは右足が不自由なのである。
どさりとソファーに座りこんでから、ウィルは右手を前にかざす。ウィルの周囲の空気がざわりと湧き立ち、遠くにある木製の古びた椅子が浮き上がって飛んだ。そのままふわふわと移動し、イルの手前へと着地した。
「かけてかけて」
「サンキュ。相変わらず便利な魔法だよ、それ」
「ほんとにねー。魔術師でよかったよ」
へらへらと笑いながら、右手の人差指をクルクル回す。ウィルは、風属性を操る魔術師として、エレム国で屈指の実力を誇る。ショータの弟の名に恥じない戦闘力を持っているが、いかんせん不自由な身体のパーツが多いため、あまり表には出てこない。
「で、ショータに何の様なの?」
「いや、鍛錬の相手を頼もうと思ったんだ。忙しいならしょうがない」
シンには到底敵わないが、イルの実力は小隊長の中でもトップとされている。稽古をつけようにも、自分よりも力のある相手は地位が高すぎて稽古をしてもらう時間が合わず、結局イルは本気を出せずじまいであった。
「うーん、僕が相手に……なれないなあ」
「俺は隊長じゃないからな……」
「あの人が人間じゃないだけじゃない?」
剣術と魔術は相性が悪く、あまり稽古としては意味がない。遠距離である魔術が圧倒的に有利なのだ。シンが稽古の際、魔法を剣で捌いている光景を見たが、あれは力量として反則ではないかとイルは思っている。