ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

12 ( No.12 )
日時: 2011/09/22 21:50
名前: すずか (ID: B9tAUYch)

「せっかく来たのに申し訳ないね。せめてお茶ぐらいは飲んで行ってよ」
「あ、気にするなよ。立たなくて良いぞ」
「大丈夫大丈夫、こっちは13年間これなんだからもう慣れっこだよ」

 立つのを止めようとするのを振り切り、やかんを取り出し机に置く。灰皿に火種を入れ、マッチで火を付けるのと同時にやかんが宙に浮いた。思わずイルは苦笑する。

「……何かさ、それはそれで良いと思うんだがな、」
「ん?」
「もっと他に使うべき場所があるんじゃね?」
「いーのいーの」

 相も変わらずニコニコ笑いながら、ウィルはひらひらと手を振る。

「わざわざ出向いて使う必要はないって。面倒くさいもん」
「魔術協会が泣くぞ?」
「泣かしておけばいーの。どうしてもって時は行ってあげてるんだから」

 少しおどけながらそう言うウィルに、イルはそれもそうかと納得した。
 そこでやかんから湯気が噴出したので、ウィルが2人分の茶を注ぐ。イルが礼を言いながら受け取ると、あまり嗅いだ事のない匂いが漂った。

「不思議な匂いだな、これ。他国の茶か?」
「うん、サカエ兄が好きなんだ」
「へえ。そういえば、サカエさんは今日はいないのか?」
「いるよ?奥で昼寝してる」

 ウィルは兄と呼んでいるが、サカエがこの双子と血が繋がっていない事は、一目見ればすぐに分かる。双子は黒髪に薄い茶色の瞳だが、サカエは髪の色は金に近い茶色、そして紅い瞳。エレム国では見ない瞳の色なので、綺麗な顔立ちをしているのも相まって、人目を引く。
 興味があったのでイルは若干失礼か、と思いながらも質問をしてしまった。

「今更聞いていいのか分からないんだけどさ」
「サカエ兄との関係?」
「あ、ああ」
「だろうと思ったよ。何か気まずそうだったもん」

 へらっと笑って質問を受け入れ、答えを口にした。

「まあ普通に俺らを拾って育ててくれたんだけどね」
「ちょっと待て、お前らって18だよな?サカエさんってまだ20ちょいじゃないのか?」
「ん?サカエ兄は38だよ」
「はあ!?」

 思わず大声を出してしまい、ウィルが咄嗟に耳を塞いだ。その大勢のまま話を続ける。

「言ってなかったっけ。サカエ兄は物凄い若く見えるんだよね」
「いや、それでも38って……本当かよ。絶対見えねー」
「だろうねー。一発でそれっぽい年齢推測したのシンさんぐらいだよ。あの人本当に人間なの?」
「……多分人間だろ」

 サカエとシンは友好がある。時折シンもここに訪れ、サカエと軽く会話をすることがあるらしい。