ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

3 ( No.3 )
日時: 2011/09/08 21:31
名前: すずか (ID: 7hsLkTT7)

 何も言い返せず、結局そのまま城門まで辿り着いてしまった。ふと耳をすませてみると、入口辺りが騒がしい。子どもが遊んでいるようだ。いつ敵軍や怪物が襲ってくるとも分からないのに、親はそれも考えていないのか。一瞬その親の思慮のなさに眉をひそめたが、そばに見える人物を見て納得した。彼がいるならば、危険はなかろう。

「さっきの話の続きだがな」

 今まで何の反応も示さなかったショータが突然口を開いた。何事かと続きを促す。

「シン殿は歪んでいない。あの人はどこまでも真っ直ぐで、そして強い。俺なんか到底敵わない」

 その発言に、少々驚かされた。てっきり周りにいる規格外の強さの人間は全てそのよく分からない歪な種類なのだ、とイルは思っていたのだ。イルの視線は、子どもを膝に乗せて無表情にその子の頭をなでるシンに向く。特に笑顔を見せているわけでもないのに、子どもたちはシンに懐いていた。
 ふと、シンが顔をあげた。こちらに気づいたらしく、軽く右手を挙げる。イルは慌てて会釈し、小走りでシンの元へと向かう。そのついでに走ろうとしないショータの頭をはたき、走らせる。

「戻ったな」

 抑揚のない声でイルを迎える。

「隊長、わざわざどうして」
「城内にいても退屈だからな。お前を迎えに行くという名目で抜け出してきた」
「……仕事は?」
「知るかそんなもの。何故わざわざ俺がしなければならん」

 表情は変わらず、子どもを抱いたままふいと横を向く仕草が妙に子どもっぽく見え、イルは苦笑した。時折シンはこのような、いつもの冷静沈着な立ち振る舞いとは違う、ギャップのある行動をする。 
 
 どこまでも黒く、向ける相手によっては刃とも見間違うような鋭い切れ長の瞳。瞳と同じ色をした、軍人にしては少し長めの髪。高い身長、頭には緑のバンダナ。知らない人から見れば、かなり見目の良い、だが愛想の悪そうな青年、という感想を抱かせるのだろう。しかし、国内でシンを見て見惚れない者はいない。その見目もさながら、国王直属軍隊長という国軍トップである地位に、若干20歳で就いていること、軍神とも称される戦闘能力の高さ、指揮の巧妙さは、もはや生ける伝説とも言われている。
 イルは、どうしようもなくこの男に心酔していた。シンと共に闘いたい、役に立ちたいと思うが故に、イルは自分の弱さを悔しく思う。勿論イルが役に立たないわけではないが、それでもシンの傍にいるには到底役者不足なのだ。