ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 6 ( No.6 )
- 日時: 2011/09/16 21:50
- 名前: すずか (ID: aCC7gJBH)
ほどなくしてシンを発見した。シンを、というよりは緑のバンダナを、という状態ではあったが。
「隊長、バンダナが見えています」
「……」
軍専用の団欒室に置かれるソファーの陰から、相も変わらぬ仏頂面のまま、シンがのそのそと這い出てきた。あまりの子供っぽさに、心酔しているはずのイルまでもが呆れを口に出してしまう。
「……隊長ってもしかしてアホですか」
「黙れ」
そのままドスリとカーペットに腰を下ろして、腕を組みながらツンと顔を背ける。それがまた年不相応に見え、イルは対応に困ってしまう。まるで、5歳の従兄弟を相手にしているようだった。
しかし、そんなことも言っていられない。気を引き締めて、精一杯真剣な声音でシンを叱ろうとする。
「ベル長官から聞きました。ラウド国の国軍隊長との手合わせがあったそうですね?」
「ああ」
「さっさと行ってください。まだお待ちになられているそうですので。隊長はトップとしての自覚があるのですか?」
言ってるうちに本気で少し苛立ってきたイルに気付いたのか、シンは屁理屈をこねずに素直に立ち上がって闘技場へと向かった。ついでなのでイルも観戦をしようと付いていく。多少苛立ったところで、シンに憧憬する気持ちは変わらなかった。
闘技場の前にベルが立っていた。仁王立ちで腕組みをしている。再びイルは冷や汗が吹き出てくるのを感じた。
「シン隊長」
「もう来たから文句を言うな」
さっきまでの駄々っ子状態とは打って変わり、極めて冷静な口調と表情で、さらりとベルを流して闘技場へと入場する。ほんの少し前までとは別人のような対応をされ、ベルはぽかんと口を開けて入場を許してしまう。
「……シン隊長は相変わらずわけが分からないです」
「俺もそう思います」
「さっきまでぶーたれてたのは双子の弟だったという説はないです?」
「シン隊長が2人もいたらそれこそエレム国の天下ですよ」
「それはまあ、イル君の言う通りです」
シンに振り回された2人も、シンに続いて闘技場へと入った。ただし、イルは観戦席、ベルは舞台と別々の方向へと向かう。イルが観戦席から見下ろすと、明らかに不機嫌そうな甲冑を着た髭面の男がいた。彼がラウド国の国軍隊長なのだろう。その鋼の鎧とは対照的に民族風の薄い服を纏ったシンが、その正面で対峙している。
ベルが慌てて駆け寄り、わたわたと謝罪をしている。可愛らしい美人に涙目で謝られては、男としては許さざるをえなかったのか、待たされたことに対して、怒りをぶつけることはなかったようだ。待ちに待っていた相手であるシンに向き直り、容姿をまじまじと観察する。
「エレム国きっての名隊長と名声を轟かせているのを聞いたのだが、随分と若いな。しかも華奢な体だ」
「よく言われます」
しれっと嫌味を受け流す。今まで会った初対面の軍人には必ずといって良いほど言われているので、とっくに慣れているようだ。
「鎧は付けないのか?」
「結構です。動きが鈍くなりますので」
軽く剣を振り、手に馴染ませてからシンは両手をさげ、その場に佇む。傍から見ればただ立っているだけだが、それはシンが一騎打ちの際に見せる構えであった。
ベルが開始の音頭を取る。
「相手に降参と言わせた者、または身動きを取れなくさせた者の勝利とします。それでは」
シンは動かない。鎧の男は、シンへと長い槍を突き出した。