ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 7 ( No.7 )
- 日時: 2011/09/15 23:19
- 名前: すずか (ID: aCC7gJBH)
当然のように、シンは横っ跳びで槍を避ける。勿論相手も予測済みだったようで、突き出した勢いで槍を横に薙ぐ。足を払おうとする算段だったようだがシンはこれを、片手を支えに前方へと一回転して避ける。素早く立ち上がり、一旦槍が届かない距離まで下がった。
「なるほど、確かに鎧を着てはできない動きだな」
男は、感心したようにシンを見る。シンの動きは軽やかで、鹿や狼のようなしなやかさを感じられた。
「しかし、避けるだけでは勝てないのではないか?」
「勿論承知しております」
そう言ったやいなや、シンは男へと突っ込む。男は再び槍を構え、突き出した。
シンが垂直に跳んだ。突き出された槍はシンの足の下を通る。その槍の柄めがけ、勢いに任せて剣を振り降ろす。細い細い槍の柄に、その剣は命中した。柄が、粉々に砕ける。
「何を……」
呆然とする男の背後に迅速に回り込み、シンは黙って男の首に剣を当てた。男は身動きが取れない。
ベルが、判定を下す。
「ヤカ様の動きを封じたとみなし、シンの勝利とします」
この間、わずか1分弱。イルは、生唾を飲み込んだ。鎧でかためたヤカを、短剣一本で沈めた。やはり、まだイルはシンの能力の全てを知らない。
剣を鞘にしまい、シンは元の位置に戻って礼をする。ヤカも倣って礼をし、決闘が終了した。まだこの結果が信じられないように、ヤカが呟いた。
「まるで暗殺者のような動きだな……。槍を壊すとは思ってもみなかった」
「槍は攻撃範囲が広く、中々剣では近づきにくいので。壊すのが一番手っ取り早いと思いました」
「しかし、この細い柄を狙って寸分違わず命中とは……しかも動いていたのだぞ」
「突きの動きは真っ直ぐですので、捕らえやすいかと」
「ふむ……名声は伊達ではなかったか。儂では勝てる気がせん」
感嘆したように髭をなで、ヤカは負けを認めた。シンは軽く礼をする。
「ところでだな」
ヤカが話を変えようとする。その時、イルはシンがピクリと反応するのを遠くから見た。あのシンが動揺している。しかも、まだ話の内容は定かではないのに。しかし、それは一瞬の挙動で直ぐ様立ち直る。イル以外は気付いていないようだ。
「何でしょうか」
「龍殺しの弓がエレム国にある、という噂を聞いたのだが」
そんなあり得ない言葉に、イルは眉をひそめた。シンも同じだったようで、少し呆れた風に言葉を返す。
「……一体どこでその噂を?」
「兵士の耳からな。ラウド国の軍内で、ちらほら話題にあがっている。結局のところ、それは真実なのか?」
「まさか。こんな弱小国が保持していては、それこそ攻められ強奪されて終わりです。そんな根も葉もない噂を確かめにわざわざいらっしゃるとは、国軍隊長も楽ではないですね」
「全くだ。儂自身もあるわけがないと思っているが、国王が確かめろと煩かった。済まなかった、決闘の相手をしてくれたこと、礼を言う」
「道中お気をつけて」
ベルがヤカを連れて、闘技場を後にする。シンは、手慰みか短剣をひゅんひゅんと回し弄んでいる。イルは観客席から身を乗り出して訪ねた。
「隊長」
「何だ」
「一体どこから、あんな馬鹿げた噂が流れ出たのでしょうか」
「真実からだろう」
事もなげに、シンはそう言った。