ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 8 ( No.8 )
- 日時: 2011/09/16 23:01
- 名前: すずか (ID: aCC7gJBH)
「えっ?」
イルは、シンが口にした事実が信じられなかった。
「エレム国に……あの龍殺しの弓が?」
「国家機密だ。知っているのは、俺とベルと、後は弓を管理している奴だけだな。今、お前が知ったが」
「そんな大事なことを簡単に口にしてしまって良いんですか?」
「俺は、お前を信頼している」
その言葉に、イルは体が震えた。憧れの人に、信頼されている。これ以上の喜びはそうそう見つからない。しかし、その高揚も事の重大さに打ちのめされ、一瞬で消えてしまった。
龍殺しの弓とは通称であり、実際の名称はルーク・マリア。龍殺しの弓と言われる所以は、その強大すぎる力からである。
世界規模の戦争には、必ずそれが絡むと言ってもよいほど歴史に登場するこの弓は、持ち主の力を神をかくやと言うほどに増幅させる。これを使い射る矢は、海を割り、山を砕き、そして龍をも殺す。いくばくか誇大表現はあろうとも、この弓を手にした国が天下を取るといった史実は、数多くある。しかし、その栄光は長く続かない。何故なら、弓が使う者を選ぶのだ。弓が選んだ者以外には、鉛のような重さとなり、とても持ちあげられる代物ではないらしい。
その、神器と言ってもいいルーク・マリアが、何故この小さな国にあるのか。
「それは……一体いつからです?」
「15年ぐらい前だったか。そう前隊長殿に聞いた」
前隊長は、シンの育て親でもある。今はシンに隊長の称号を譲り、副隊長として軍を支えている。イルとしても、彼は尊敬する人物の1人である。
その時、見送りが終わったのだろう、ベルが闘技場に戻ってきた。イルが呆然としているのを不審げに見つめ、シンに尋ねる。
「イル君はどうしたのです?ぽかんとして。シン隊長の早技にびっくりしたんですかね」
「龍殺しの弓のことを話した」
「ええええっ!?何勝手に話してるんですか!?」
「イルなら問題なかろう」
「そ、そうですけど……そうなんですけど……超重要機密なのに……」
しばらくぶつぶつと文句を言っていたベルだが、気を取り直してシンと向き合う。
「ヤカ殿は上手くごまかせましたけど、噂とはいえどこから流れてきたんです?」
「さあな。ただ、最近ラウド国でそういう噂が広まっていることは耳に挟んだ。国軍隊長が突然手合わせ、と来たものだから軍を引き連れてきているのかと城門を見張っていたが、そこまで真剣に事を見ておられなかったようだ。特に誰も忍ばせている気配はなかった」
「それで城門でさぼってたんですか?」
「ああ」
「それさぼった理由の一部だけですよね?」
「……ああ」
やはりさぼっていたことは間違いないらしい。