ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 9 ( No.9 )
- 日時: 2011/09/17 22:56
- 名前: すずか (ID: b/D5tvZu)
イルは、一番重要な質問をしていないことに気が付いた。
「そもそも、何で龍殺しの弓がこの国に?」
「あー……」
珍しくシンが言葉を濁したが、結局は答えを述べた。
「俺が持ってたらしい」
「は?」
「物心が付いていない時だったから、全く記憶にないが。前隊長殿が俺を拾った時、抱えていたとか」
「何で隊長が?」
「覚えていない」
嘘は言っていないように見えた。つまり、龍殺しの弓がここにあるのは、シンがいるからということのようだ。イルが予想している以上の謎を、シンは抱えているらしい。
「よく無事でしたね、あの弓持ってて」
「見た目が細やかに伝承されていないのと、子どもが持っているわけがないという先入観があったからではないか、と前隊長殿は仰っていた」
他人事のように言っているが、所持していたのはシンである。本人も理由は理解していないようだが。
あまりの衝撃の事実に少しクラクラしてきたイルだが、更に気になる問題に直面した。
「じゃあ、シン隊長って……龍殺しの弓を使えたりします?」
「使える」
「本当ですか!?」
今日一番の衝撃だった。弓を扱えるとなると、天下を取ったも同然である。
「持ち上げられた、ということはそうなんだろうな」
「使うご予定はないのですか?」
「あってたまるか」
少し期待して尋ねてみたが、一刀両断された。そういえば、国王直属隊長の名はあるが、シン自身はあまり戦いは好きではなかった。わざわざ自分から火種を作りたくないのだろう。シンが軽く溜息をつく。
「少なくとも俺が死ぬまでは使いたくないと思ってたんだがな」
ベルもイルも、その発言で不測の事態が起こっている、ということに気付かないほど鈍くはなかった。
「何が起こっているのです?」
「あくまで予測だが、恐らく間違っていない」
ベルが聞くと、シンは淡々とした声音で予測を口にした。
「龍人が近くにいる」
「な……」
「……そう思われた理由は?」
イルはその言葉に絶句したが、ベルは状況を冷静に飲み込み、シンに続きを促す。
「龍人は、龍殺しの弓を感知する能力がある、と伝承にある。噂が漏れ出るなら、弓に気付いた龍人が触れ回る他あり得ない」
「いや、でも……弓を管理している方がおられるって言ってましたよね?その方が漏らすとかは」
「あいつは俺が一番信頼している奴だ。絶対に無い」
シンにそう強く言われると、イルもベルも納得するしかなかった。
「龍人が……」
「うーん、まずい事態です。いや、まずいどころじゃないです」
破滅を導くとされる存在が、近くにいる。2人を重い空気にさせるには、充分な現実であった。