ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 灰色の鬼 ( No.1 )
- 日時: 2011/09/11 13:18
- 名前: ユゥ ◆nab9zI1rjU (ID: lkF9UhzL)
真夜中の街灯が、風に吹かれてその頭の窪みに溜めた夕立の雨粒を、誰もいない道路に吐き出した。
その下で、黒いスーツ姿の年配の男が待ち人を待っているのだろうか? 腕時計を何度も確認し、その手に持った杖でレンガの敷き詰められた道路を突いている。
もう片方の手に握った新聞の見出しには、『ディーラー、カジノを一つ潰す』という見出しで、札束をその身に浴びる癖のある赤毛の男のモノクロ写真が大きく載っていた。
一年前のこの日は、騒がしかった。 核弾頭が大陸を半分消したなどという大事件が、世界を揺るがしたのだ。
その時、その消し飛んだという大陸に住んでいた組織の上司も、恐らく死んだのだろう。 あれから、音沙汰が無い。
中々、可愛らしい上司だったが、今日で丁度一周忌か。
大きなため息の後、新聞を読もうとそれを手に持った直後、彼は異変に気付く。
電球が古いのだろうか? 何度も細かく点滅し、その街灯は音も無く一瞬放った青白い光の後……消えた。
男は奇妙に思ったのか、上を向いた。 ……その直後。
「よう、ローウェイ。 懐かしい顔だな」
闇の中に、男の声が一つ。 響き渡る。
「ディーラー……か。 相変わらず、趣味の悪いコードネームだな」
年配の男、ローウェイの知り合いなのだろう。 若い男の声が、彼に向けられる。
「趣味が悪いのはお互い様だろう? 私もお前たちも“鬼”なんだ、趣味のいい“鬼”なんて居ない」
ローウェイとディーラー。 その二人の間に、女性の声が割ってはいる。
若干低めのソプラノ。 声を聞くだけでは幼いその声のプレッシャーは二人にとっては凄まじかった。
二人の間の空気が揺らぐのを感じ取れる。
実際、二人よりも彼女が格上。 当たり前といえば、当たり前の現象だ。
「アリス……ッ……生きていたのか!」
ローウェイが吼える。 だが、彼女が動じた空気は一切無い。
「生きていたとしたら? 大陸の半分が吹き飛んだ核弾頭……それでも死なない人間も世の中に居るものだよ。 覚えておくといい、灰色の毛並みの私は、“鬼”の最上位。 核弾頭程度では死にはしない」
彼女の気配が、その言葉の直後に消えた。
それと同時、彼らの頭の上にあった街灯の電気が回復した。
「ローウェイ、彼女を甘く見るなよ。 俺が戻ってきて、お前に電話をかけたのは気まぐれじゃねえ。 彼女……“鬼”の最上位が、この国を滅ぼすか、滅ぼさないか。 それの賭けを誘いに来たのさ。 どうする? ローウェイ、お前は……滅亡に賭けるか、存続に賭けるか……」
撥ねた癖のある赤毛を揺らし、銀色の瞳が闇の中へと静かに消え去った。