ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 混沌な主人公は今日も不機嫌なようです。 ( No.26 )
- 日時: 2011/09/18 15:42
- 名前: Spade ◆1R8FyXsIeY (ID: OXTNPTt9)
私は一瞬——目の前が暗転してしまった気分に陥りました。
勇者様が来ない?そんなはずがありません。
「何を…何を根拠にそんな事言えるんですか?勇者様が来ないって…どう言う事ですか!?」
「ん?あぁ…お前、言葉の意味取り違えてる。来るっちゃあ来ると思うけど」
———では、尚更どう言う意味か。
私は訳が分らなくなり、何を言えばいいか分らなくなりました。
すると彼は私の反応を楽しんでいるのか、楽しそうに再び口元を緩める。
「…お前、旅するって言ってたけど————お前みたいな奴には無理だよ」
「…!?
そ、そんな事…ないです!確かに…私は回復系魔法しか使えません。
でも、わ、私だって、私だって—————」
「…、何もお前が弱いなんて言ってねーよ。魔法はそこそこできるとは思ってる。
けどさ、お前には向いてないんだよ。魔王討伐の旅とかそういうの」
彼がそう言ったその瞬間————私の足元に、大きな魔法陣が展開されました。
ゴォッと風が吹き、紅色に魔法陣が光り、浮かび上がる。
「お前って、世界の誰もが善人だとか思ってそうだよな。もちろん、勇者なんて尚更」
「…え?」
「勇者でも、仲間だの疎ましく思ってる奴もいれば、中には金のために勇者になった奴だっている。
後なぁ、いいこと教えてやる。
今回の勇者は、そんな奴だ。
お前等が思ってる様ないい奴じゃないぞ」
なぜか、そう言う彼の声色は怒気が混じっているように感じました。
いや、それ以前にこの魔法陣—————火炎系の魔法陣!?
「…あの、コレ…どう言う意味ですか?」
「例えば。
その旅の道中で、仮にお前がピンチになったとしても、その勇者は助けてくれるか…
と、言えばアイツの場合は絶対にYESだとは言えない」
「質問に答えてください!コレ、どういうつもりですか!?」
「それに、道中その勇者の仲間だって理由で命を狙われることだってあると思うけど。
———こう言う風にな」
!!
その時、紅色の光が強まりました!
『なっ…!まさかこの人———』
こんな街中で…魔法を発動する気…!?
私は瞬間的に、それを相殺する魔法…水系の魔法を地面に向かって素早くぶつける!
そしてそれと同時に横へと飛び、魔法相殺で起こる爆発を避けました。
私が飛びのいて間もなく、私の立っていた場所で爆発が起こりました!
予想以上に魔法の威力が強く、一瞬火柱が上がり、弾けるようにかき消えていきます。
…この人は本気でこの辺りを焼き払うつもりだった…!
周りからは、慌てふためく様な叫び声が聞こえました。
私は彼の意図が分らず、叫びます。
「何するんですか!?止めてください!それに、怪我人が出たらどうする気ですか!!」
「はっ、何って…お前仮にも魔王を倒すメンバーに入るんだろ?
だったらこんな魔法くらい止めて見せろよ。ま…少なくとも、
お前みたいな餓鬼には無理と思うけど」
その瞬間、あの紅い魔法陣が素早く展開されました!
数は一つではありません。さっきの比ではありません。
おびただしい数を、それも一気に———展開したんです!!
———この人、何なの!?何でこんな…!
彼は、こんなにたくさん魔法を展開したというのに…顔色一つ変えません。
いや、こんな街中で———こんなにたくさん、さっきみたいな威力の高い火炎系魔法を使ったらどうなるか…
この人でも分ってる筈です。なのに、故意にこんな事するなんて…
「——貴方なんかに…関わるんじゃなかった!!貴方に…人を思いやる心は無いんですか!?」
「…別に、周りの奴の事なんてどうでもいいけど…嫌ならお前が止めてみせろよ」
「…!?
…絶ッ対に!許しません!!こんな事するなんて…
貴方なんて最低だッ!!!」
私は、怒りの形相で彼を睨みました。
でも、私に彼を止めるほどの力なんてありませんでした。
さっき使った水系魔法も、元々攻撃系の魔法ではない、むしろ防御系の魔法でした。
でも…こんなにたくさんの、それも、あんなに威力の高い魔法を…食い止める自信はありませんでした。
「…」
彼は何も言いません。そして、なぜか私の方を真っすぐと見ます。
まるで、“私が何かを言う”のを待っている様にも見えました。
ですが、私はどうすればいいか分らず、悔しくて、悔しくて、仕方ありませんでした。
すると彼は嘲笑…に似た、自嘲を交えた笑みを浮かべ、目を細めました。
その瞬間、辺りが真赤になる程————その紅い魔法陣は強く光りました。
「く…!」
私は、魔法相殺を行うために水系魔法陣を展開しますが、間に合いません。
『もう…駄、目…間に合わない——』
——————パァン!
しかし、その瞬間乾いた音が…一発の銃声が、街の中に響き渡りました。