ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 混沌な主人公は今日も不機嫌なようです。 ( No.81 )
- 日時: 2011/10/08 20:42
- 名前: Spade ◆1R8FyXsIeY (ID: OXTNPTt9)
- 参照: 2話連続さ!作業は相変わらず終わらない‥
————カツン、カツン…
扉の奥から、堂々と、確かに一歩一歩とこちらへ近づいてくるのが分ります。
彼のシルエットが段々明白になってゆく…
彼は金髪に————翡翠色の瞳。
優しげに微笑む顔は、彼が噂に聞く剛腕だという事を忘れそうになります。
整った顔立ちで、鼻のラインも高くハッキリとしていました。
真っ白な肌で背丈の高い…
『嗚呼、彼が…』
一件軽装に見えるその服も、頑丈な銀の鎧が見え隠れする。
そして何より、彼はあの大きな大剣を背に背負っていました。
所々傷づいたその剣——しかし、刃こぼれの無い綺麗な刀身は日の光に美しく光っています。
嗚呼、彼が、彼こそが、私が何度も夢見てきた人。
「…お初お目にかかります、私こそこの国の誇る勇者————
『レオ・レオナルド』です。
以後、お見知りおきを」
勇者レオ・レオナルド———その人だった。
*
「ったく…お前がヘマしたせいで仕事増えただろ?どうしてくれるんだ」
「ン、ンー!ンン〜!!」
時は同じくして、ヴェロンデ王国地下水路。
上では式典が行われているというのに、地下では「ある事件」が起ころうとしている。
ある男は、涼しい顔をして一人老人を抱えてそんな地下水路を走っていた。
男の口元には紅いネックチーフ、髪は地下の闇と同じく真黒であった。
そしてそんな男が抱えている老人は、体にはロープ、口には喋れないようにテープを貼られているせいで上手く喋れていない様子。しかし、その男はそんなのにもお構いなしに話を続けていた。
「ちなみにこの借りは大きいからな。
…お前を探すのにどれくらい手間取ったと思ってるんだ、普段の俺ならお前を見捨ててる所だ」
「……ン(肯定)」
「しかしだな、今日は事情が違う…それはお前も分ってる筈だ。そのせいで俺も追手に命を狙われてる」
そう、彼は今追手に追われていた。
それも、命を狙われているのである。
それは、この老人を助けたせい…いや、この老人が知っている「ある事」のせいである。
「…ン(肯定)」
「お?今肯定したな。じゃあ言ってみろ、今日は普段と何が違うか」
「ンーン、ンンンン!(今日は、式典!)」
「ハイ残念でしたー、違いまーす」
ドガアアッ!
そう擬音が聞こえそうなほど強い勢いで彼はその老人を蹴る。
その老人は勢いよく蹴り飛ばされ、あっけなく水の上に落ちた。
そしてそのまま動かなくなったが…
「はいはい、寝てる暇はありませーん。お前にゃ“アレの場所”を吐いてもらわねーと困るんだよ」
彼はそう言って、ヒョイと片手でその老人の首根っこを持って引き上げた。
そして口のテープをビリッと外してやると、そのまま頬を往復ビンタし始めたのである。
「……」
その様子を見て、先回りしていた彼の追手は思うのだ。
—————『鬼だ』、と。
しかしその瞬間、そう思った彼等の足元は光り出す。
そう、それは炎の様に紅く———
その瞬間、暗かったはずの地下水路が一瞬———紅く光った!
それは紅い閃光。
轟音と共に、炎が怒り狂うように燃え上がった。
悲鳴を上げる暇も無く、その追手達は炎に呑まれた。
普通ならまる焦げになっていた所だが、地下の水によってある程度は助かったようだが…
その場にあったはずの酸素は炎に奪われ、彼等は酸欠となり次々に倒れていった。
「…!お、お前…魔法を使ったのか」
すると、さっきまで意識が天に召されかけていたしかけていた老人が、
その魔法が発動された瞬間あまりもの轟音と炎の熱さに意識を取り戻した。
その老人の頬は赤く腫れあがっているが、その男は詫び入れず言う。
「あぁ、おかげで息苦しくなったよ。つーことでジジィ、さっさと“アレの場所”教えろ」
「な、ア、アレの場所を知りたいのか!?な、なぜお前がそんな事を知りたがる…?」
この老人は、どうやら彼を昔から知っているようだ。
そしてこの老人が言った発言は、彼の過去を知るが故のものだった。
「お、お前は昔から…自分に利益のある事以外には見向きはしなかった…。な、なのに何故?
何故そんなお前が、こんな面倒事にを手を貸して…」
「面倒事?阿呆かお前」
男は、上を見上げて言う。
無論そこには地下水路の天井な訳だが、彼はそのさらに上…式典が行われている地上を見ているようだった。
そして彼は、その老人に叱るように言う。
「——お前も…それでもこの街の住民だろ?
お前の街が“例の大賊の大きなテロ”に巻き込まれようとしてるのに、それを“面倒事”って言うなよ。
もしかしたら、死人が出るかもしれねーんだぞ?」
「…それでも、普段のお前はどうでもいいって片付ける奴だ…ワシが保障する」
「そんな事保障されたかねーけど、まぁ普段なら命かけるくらいなら余裕で国一つ見捨ててるな」
「…本当お前性格悪いよな」
「どうせなら最悪って言ってくれ」
「この性格最悪男が!」
ドゴォッ!
そう言われた男は次の瞬間、容赦なくその老人をラリアットした。
「はいはい口には気を付けようね、このクソジジィ。いい加減にしないと俺でも怒るぞ?」
「もうすでに怒ってるだろ!老人にはもっと優しく接せ、この性格最悪最低男め!
って言ったら怒りますよねグフッ、すいませんでしたワシが悪かった殴らんといて」
男は地面に倒れている老人を足蹴にしながら、溜息。
そして男は真剣な眼つきに戻って呟いた。
「…まさかこのおめでたい日に、平和の象徴である城が爆破されるなんて誰も思っちゃいねーだろうしな…」
その男の踏まれていた老人も、その男の呟きを聞いて…申し訳なさそうに、悔しそうに目を伏せていた。
