ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 混沌な主人公は今日も不機嫌なようです。 ( No.89 )
日時: 2011/10/16 09:06
名前: Spade ◆1R8FyXsIeY (ID: OXTNPTt9)




城内が騒がしい。

私は、誰よりも早くその事を察知しました。実は私、すごく耳がいいんです。
けど私はその異変よりも、目の前に佇む一人の青年に目を奪われたままでした。

『かっこいい…』

彼が、私が憧れを抱いていた勇者様…レオ・レオナルドさん———
その彼が目の前にいるんです!

私はあわわわと戸惑いながらも、目を輝かせて彼に見とれていました。

「…よろしくお願いします、勇者様。」
するとライラさんは、すかさずそう言い彼と握手をしました。
きっと礼儀作法の一つなのでしょう、勇者様はそのまま私の前にやってきます。
そして微笑みかけながら、中腰になり私の前に手を差し出しました。

「——君も私の仲間なのですね、よろしくお願いします」
「あ…!よ、よろしくお願いします!」

私は両手で握り返し、ブンブン振り回す様に握手をしてしまいます。
しかし勇者様は笑みを崩さず、むしろ「元気があっていいですね」っていってくださいました。

本当に紳士的で、優しい人。
どこかの誰かさんが言ったのとは、全く正反対で——あの時不安を感じていたのが馬鹿馬鹿しくなります。
…そう言えばあの人、一体何者だったんでしょうね。今になってはもう、どうでもいい事かも知れませんが。


「では国王様」

と、そんな事を考えているうちに、
レオさんはメイレンさんと握手と挨拶を交わし終えた後、反転して国王様の方へと向き直りました。
レオさんは国王様の方へと一歩前に出て、そして膝をつき言います。



「——“我々4人は魔王討伐への旅へと向かい、その首を討って世界を平和にする事を誓いましょう”」




誓いの言葉—

…後に、ライラさんから聞きました。対面の儀に欠かせないのが、この誓いの言葉である事を。
この言葉は、勇者様がお決めになったその一言がその人の「忠義」を表すものだとされているそうです。
私はレオさんの威風堂々としたその発言に、思わず固唾を飲みました。
これがレオさんの意思、そして決意なのです。

そして、それに対し国王様は、もちろんの事納得の表情を浮かべます。
国王様は椅子から立ち上がると、一つ咳払いをして言います。


「うむ。勇者レオ、そしてライラ、ヴィヴィス、メイレニアス。これにて対面の儀を終え、早速旅の支度を————」


と、言いかけた瞬間でした。

「失礼します、国王様」

あの執事様です。
少し扉が開いたかと思うと、さっと忍び寄るようにして国王様の側へと近づきます。
レオ様も、ライラさんも、メイレンさんも何事かと顔を見合わせていましたが、私はすぐに分ってしまいました。

「さっきとが騒がしかったからかな…」

「…外?そんなに騒がしかったのですか?」

私の呟きを聞き、ライラさんは少し驚いた表情で私を見て言います。
私はコクリと頷き、そしてまた国王様の方へと視線を移しました。
ライラさんはメイレンさんに目線で合図し、二人も前を向きました。
「———…、…、」


「…、あ"?」


が、その瞬間。
執事様からの話を聞き、国王様とは思えぬような眉をひそめた怪訝な表情になりました。
今までの温厚そうな国王様のイメージとはかけ離れた、低く冷たい声に、私は思わず凍りつきました。

「っ、どうにかならないのか?奴に逃げられれば………」
「何人かに追わせてはいますが、奴が想像以上に強力な魔法を使うようで…」
「…なら予定変更だ。まずそっちの捕獲を優先し、“アレ”の時間は————」


「…何か深刻な事態の様ですね、とりあえず我々は部屋に戻りましょう」

と、国王様と執事様が何やら話をされている様子を見て、レオ様は私達に提案します。
私とメイレンさんはライラさんにその答えを委ね、二人の方を見ました。
ライラさんは国王様の方をチラリと見て、そして少し沈黙。
そのすぐ後に、ライラさんは力強く頷きました。

「———レオさんの言う通りですね、ここは失礼しましょう」
「では、話は私がつけておきます、三人は部屋に戻ってください」
「は、はいっ!」


私達は、レオ様に促され部屋を一旦後にする事にしました。
私達はそっと扉の方により、あの待機していた部屋に向かいます。



しかし、私達はすぐには気付く事ができませんでした。

今、城で何が起ころうとしているのか。そして———






私達を見送る後方で、レオ様が怪しげに笑っていたのを。







「…これで計画通りデスね」