ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: モルタによろしく。 ( No.2 )
- 日時: 2011/09/11 14:23
- 名前: 深桜 ◆/9LVrFkcOw (ID: xJuDA4mk)
- 参照: http://pepeta.web.fc2.com/
◇
中学三年生。一学期は今までと同じように、昨日見たテレビのことや、隣のクラスのあの二人の仲が怪しいだとか、そんなありふれた話の内容だったのが、夏休みが開けた途端、志望校はどこだとか、夏休みは勉強どのくらいやっただとか、いつの間にか受験関係の話が大半を占めるようになっていた。授業の合間にできた先生による雑談タイムも少しずつ薄くなり、自習の時間に真面目に勉強する奴も増えた。
俺は友達とさんざふざける側から勉強をする側へと意識をシフトし、一学期にもらった、九教科で平均すると三になるというおそろしく平凡な通知表を覆すべく、時に神経をすり減らしながら勉強をしていた——そんな涼しくなりかけの日のことだった。
「だれですあなたは! 部外者が許可なしで校内に入るのは……っあああぁぁー!!」
教室にいた全員が廊下の方を向いた。廊下から聞こえた絶叫は、まるで扇風機を回しながら羽根に鉛筆をぶつけたときのような、短く連続する甲高い音に消えた。それから少しして、濡らした服を床にたたきつけたような、文字で表せば「べしゃぁ」という音が響いた。教室も廊下も静まり返る。
ここで俺は気付いた。いつもは他の教室からうるさい輩の声が聞こえるのに、何一つ聞こえない。俺の中で嫌な予感がスタートダッシュを切った。そしてなぜこんなに冷静なのか、そう考えると、あとは恐いとしか思えなくなる。何がなんだかわからないまま、息を止めていた。
カツン。軽やかな足音が廊下に響く。クラスの女子は肩を震わせ、男子は顔を見合わせた。状況が理解できず、ニヤつく奴もいる。
カツン、カツン。次第に足音は速く大きくなっていく。それにあわせるように、俺の鼓動も高鳴っていく。
突如足音は止み、ふたたび静寂が駆け抜けようとした、その刹那——
閃光が教室を包み、突然のフラッシュに目を瞑った俺の意識もフェードアウトしていった。
女子の甲高い悲鳴がやけに耳に残った。
◆
気がつくと俺は真っ暗な部屋に座り込んでいた。カビ臭く、足をこわごわ動かすと、ぬるりと滑った。
「ここは——」俺は深呼吸をし、立ち上がった。あやうく滑って転びそうになったので、身近なものに手をやると、角張ったものを掴んだ。
ようやく目がなれてきて、自分が何を掴んでいるのかも予想がついた。理科の授業で実験をするときに、教師が必ず羽織っていた物——つまり、白衣だ。
「おお!」俺が掴んでいたものはいきなり振り返った。げっそりとやせた頬に、浮き出た真っ白な目、顔全体が青白いのに反発するように、ニヤリと曲げられた口から覗く歯は金に光る。髪まで真っ白である。
「起きたかね? ○○くん」
俺は首を傾げた。この人は確かに俺に話しかけた。だけど俺の名前はそうじゃない。俺の名前は、——
「……あれ?」俺は頭を抱える。
名前が出てこない。教室のことや、クラスメートの名前は覚えている。だが俺の名前が出てこなかった。
「俺は、」青白い人物は俺の言葉をさえぎった。「君の名は、○○だ」
「君には今日から、我が研究室で助手をしてもらおう」
金歯が唾液を纏って、より一層輝いた。