ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: シンクロニシティ ( No.2 )
- 日時: 2011/09/18 22:56
- 名前: 遊太 (ID: HhjtY6GF)
【2.相対の兄弟】
「じゃあな、守。また明日。」
「はい。また明日。」
恵太は守と別れると、世田谷区の高級住宅街へと歩いて行った。
規則正しく並んだ2階建ての家。レンガで作られた外国風の家々は、外から見るだけで高級感を漂わせていた。
恵太は‘前田’と表札の掛かった家の門を開け、鍵穴に鍵を入れた。その時だった。
「あれ?開いてる……」
ドアには鍵がかけられておらず、恵太はキョトンとした表情でドアを開けた。
玄関には、無造作に散らばる2足の靴。学校の鞄、野球道具が階段の前に積まれて階段が塞がっている。
「おい!!京志郎、お前部活はどうしたんだ!!!」
恵太は家に上がると、2階の部屋ではなくキッチンに向かった。
キッチンには、ジュース片手に携帯を操作する恵太の同い年の弟・京志郎が座っていた。
京志郎はジュースを飲み干すと、突然大きな溜息を吐いた。
「兄貴、俺たちは特別だぜ。超能力のせいで、スリル感を無くしちまったんだよ。それに、他の部員はショボイ。」
京志郎は指パッチンで人差し指から炎を出す。机の上で脚を組むと睡眠に入ろうとする。
「あのな、別に好き好んで超能力者になったんじゃないんだから、能力のせいにして部活を休むな。」
「うるせぇよ。兄貴は何とでも言えるよな。学年トップの成績、運動神経も良い、オマケに生徒会長立候補者。」
京志郎は皮肉たっぷりに言うと、恵太を見て不気味に微笑んだ。
恵太は何も言わずに椅子に座ると、天井を見上げて京志郎に言う。
「1年生で県大会出場。プロからも絶賛されている。それ以上に何が不満なんだ?」
「この能力だよ!!!!」
京志郎は机を思いっきり叩いて立ち上がり、恵太に向かって大声で叫んだ。
気のせいなのか、京志郎が立ち上がった瞬間に火の粉が舞ったような気がした。
京志郎は息を荒げ、自分の両手を睨みつける。
「この超能力のせいで、俺は人生が……。兄貴だってそうだろ?大人になるまで、この力を背負い続ける気かよ?」
「お前はこの力を邪魔に思っているけど、この力を人のために使おうとは思わないのか?」
「人のため?発火能力を世のため人のために使えって?使ったら使ったで、化け物を見るような眼で見るだろ。」
京志郎の言葉に、恵太は何も言えなかった。
「馬鹿な大人、ピーピーうるせぇ子供、俺らの能力は邪魔以外何でもないんだよ!!そうやって偽善者ぶるな!!!」
京志郎は怒鳴り散らすと、走って家から出て行った。
恵太は追いかけず、再び天井を見上げる。静まり返った家の中、外から聞こえる近所の住人の声が聞こえる。
チリリリン♪ チリリリン♪
静寂に包まれた家の中に、突然電話の音が鳴り響いた。
恵太は一瞬だけ肩をビクつかせると、大慌てで電話を取った。
『はいもしもし。』
『けっいったっく〜ん!!!今日さぁ、泊まり行っていい?』
電話の向こうから聞こえてくる高い声。恵太のクラスメイトであり親友の宮道真敬だった。
真敬はクラスでムードメーカー的な存在であり、家がサーカス団‘ミヤミチ・カーニバル’であり、ちょっと変わっている。
『いいけど、そっちはいいの?』
『親父たちがデコトラで近畿の方に日帰りで行ってんだ。俺は学校あるしよ、それでお前を頼ってるわけ〜。』
『分かった。じゃあいつでもいいよ。』
『オッケー!!準備したらそっち行くわ。んじゃ。』
真敬は嬉しそうな声で電話を切った。恵太にとって、真敬は大事な親友であり、超能力のことを知る人物である。
「それじゃあ………夕飯の準備でもするか。」
* * * * * * * *
同時刻 坂咲高等学校5階 3年生フロア
「コ」の字型で5階建ての坂咲高校は、今年で創立60周年である。
60周年記念で改装され、校舎は新築同様に綺麗である。
校舎5階の3年生フロア、3−2の教室には未だに1人の生徒がいた。
「何だか寂しいな………」
今年で卒業する原田亮平は、教室を見渡しながら呟いた。
掲示板には3年生初めの頃に撮った集合写真、最後の学級通信、受験までのカウントカレンダー等が掲示されてある。
彼や3年生にとって、この学校の物1つ1つが思い出の品だった。
「今までありがとう。」
亮平はそう言うと、机の横の鞄を手に取った。その時だった。
ガチャ
亮平の後ろで、教室の扉の鍵が閉まる音がした。
「ん?」
亮平が後ろを振り向くと、閉まったドアの前に学生服を着た2人の男子生徒が俯いて立っていた。
「……誰?」
亮平が首を傾げながら尋ねた。その瞬間だった。
ボフッ!!
1人の男子生徒の体が、一瞬にして煙となり、教室の中を白煙が包み込む。
「わ、わぁぁぁぁ!?」
亮平は驚いて後ろに逃げようとするが、机に躓いて派手に倒れる。
煙のせいで視界が悪くなり、亮平は手探りで辺りを探る。危険を感じて立ち上がらず、四つん這いで教室のドアを目指す。
ふと、亮平の手に冷たい‘何か’が触れた。
「な、何だ?」
「先輩、さようなら」