ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: シンクロニシティ ( No.3 )
日時: 2011/09/16 21:03
名前: 遊太 (ID: HhjtY6GF)

【3.噂の神隠し】

電話から約10分経って、真敬は恵太の家にやってきた。
「おーす!!」
真敬の足元には、1日しか泊まらないのにトランクスーツが置かれていた。
恵太は苦笑いしながら真敬を家に入れる。真敬は靴を脱ぎ棄てると、当たり前のようにリビングの方へ向かった。
「相変わらず誰もいねぇな……弟もいねぇのか?」
「喧嘩して出てったよ。朝には帰ってくるし、大丈夫だ。」
「まぁ、京志郎は喧嘩にも慣れてるし、襲われても能力を使えば一発だな、ハッハッハッ!!」
真敬は豪快に笑っているが、恵太には笑えなかった。
リビングには恵太手作りのハンバーグにスパゲッティ。テーブルの中央にはサラダ盛られたボウルが置かれている。
真敬は急いでテーブルの前に座ると、手を合わせた瞬間に食べ始めた。
「うまっ!!やっぱ恵太は最高だな、料理もできるし勉強もできるし。」
恵太は真敬に絶賛されながら座り、自身の手料理に手をつけた。
そのあとは他愛もない話で盛り上がり、食べ終わる頃に真敬が‘ある話’を始めた。

「そういや、恵太は‘神隠し’知ってるか?」

突然そう聞かれても、恵太は首を傾げるしかなかった。
真敬はハンバーグを食べ終えると、お茶を一杯飲んで話を始めた。
「ここ最近だと、1年生で1人、2年生で1人、教師で1人だな。俺のダチからの情報だから絶対だ。」
「それ本当なのか?」


「あぁ。ちなみにこの3人が被害にあって、もう半年は経つ。」


真敬のその一言で、恵太は身震いした。
「……それって、マジか?」
「だから本当だって。学校側は俺ら生徒や他の教師に黙っているが、親は未だにカンカンだ。」
真敬はリビングに置いてあった自身のトランクスーツを開け、一枚の紙を取り出す。
紙には3名の顔写真、名前や詳細が書かれている。
「1年生の境太一。部活動はサッカー部、成績は中の下、彼女アリ。神隠しにあったのは、恐らく下校の時。」
「おいおい、一体どうやって調べたんだよ。」

「オカルト研究部の暗門影也。」

恵太はその名前を聞いて、言葉を失った。
オカルト部は坂咲高校では有名な部活である。部活動の内容は知られていないが、部員はそこそこいる。
中でも2年で部長である暗門は、2年生で知らない人間はいないだろう。
見た目は暗くトロそうだが、運動神経は抜群で成績も必ず学年5位に入る。見た目とはかけ離れた中身を持っている。
「てか、お前みたいなハイテンションと暗門が友達って……」
「あいつは良いやつだよ。見た目で人を判断するな。」
真敬は再び紙に目を移す。
「2年生の井出久美。帰宅部だが、学校外で塾や塾や塾……いわゆるガリ勉だ。神隠しには、その塾の帰りにあったぽい。」
そして、最後の1人を真敬は読み上げた。

「田中栄次郎。2−3の担任で英語担当。パッと見はチョー普通の教師だが……よく分からん。恐らく神隠しの被害者。」

「恐らく?」
恵太は、真敬の最後の言葉に疑問を持った。
「こいつは本当分からない。暗門でも詳細に分からないからな。とりあえず、五分五分で神隠しの被害者だろ。」
真敬は全て読み上げると、キラキラとビー玉の様な目で恵太を見つめる。
恵太は一瞬、嫌な予感がした。
「な、なに?」
「俺らで解決しようぜ!!ここで活躍すれば、間違いなく生徒会長になれる!!!!」
真敬はガッツポーズをしながら勢いよく立ち上がり、恵太の隣に来て肩を組む。
恵太は鬱陶しい表情を見せたが、心のどこかでは‘解決したい’という気持ちもあった。


   京志郎の言っていた失った「スリル感」─────



 恵太も心のどこかでは「スリル感」を求めていたのだろうか─────



   これは、超能力者にしか分からない感情……なのか─────



恵太は悩む間もなく、しっかりと頷いた。
「っしゃ!!考えるよりも行動だ。明日の放課後にオカルト部行こうぜ。」
「暗門に頼ってばっかだな。」
「あいつ以外に頼れる奴はいねぇよ。それに、お前らの能力を知っているのは学校で俺と暗門、小坂と篠畑ぐらいだろ。」
恵太と京志郎が超能力者であるということを知っているのは、坂咲高校に4名。
守と篠畑武道は恵太たちと同様、能力者である。だが、真敬と暗門だけは違う。
この2人は能力者でも何もない。昔、彼らが中学時代の頃に2人は‘ある事件’がきっかけで知ってしまった。
知ってしまっても真敬と暗門は誰にも言わず、今まで黙っていてくれている。
恵太は暗門のことを嫌ってはいるが、心の底から嫌っているわけではない。

「それじゃあよ、テレビゲームでもして明日に備えようぜ♪」

真敬は笑顔でリビングから2階の恵太の部屋へ向かって行った。
「何の備えだよ……」
恵太は呆れながらも笑い、食器をキッチンに運ぶと2階へ上がった。



 * * * * * * * * 



家を出た京志郎は、家の近くの公園のベンチに座っていた。
日は完全に落ち、辺りは街灯と月の明かりだけで、不気味な暗さである。
「どうすっかな……今から家に戻っても、また兄貴の世話になるからな………」
京志郎は夜空を見上げる。星が散らばる暗い空、京志郎の視界に一番輝いている星が目に入る。
「あれが兄貴で……横で弱弱しく光っているのが俺かな。」
京志郎は1人で呟くと、次は笑い始めた。
「はははっ……」

「何してんの?」

突然聞こえた声に、京志郎は目の前を見た。
京志郎の目の前には、幼馴染であり恵太の友人でもある八野まきが立っていた。
「なんだ、お前かよ。」
「また喧嘩したんだ。相変わらず、恵と気が合わないんだね。」
「俺と兄貴は正反対だからな、何もかもが。」
京志郎がそういうと、まきは首を横に振って否定した。


「2人は見た目や中身が違っても、兄弟じゃん。」


京志郎はまきの言葉にイマイチ共感できないが、心のどこかで何かが動いた。
まきは京志郎の隣に座ると、満面の笑顔で背伸びをして夜空を見上げる。
「私が読んだ小説は双子が主人公。絶対に欠点があった。だけど、良いところも絶対にある。2人は仲は悪いけど、最後の最後には仲直りをしたよ。長い年月をかけてだけど。別にいますぐ仲良くなれって言ってるわけじゃない。京君のペースで恵と仲良くなればいいよ。」
まきはそう言って立ち上がると、少し歩いて京志郎の方へ振り向いた。
「じゃ、私は帰るね。ちゃんと仲直りしてよ。」

「……あぁ。」

まきは京志郎に手を振ると、そのまま走って暗闇の中へと消えた。
まきが行っても、京志郎はずっとベンチに座って夜空を見上げたままである。




「兄貴と仲良くなんて……無理…だよ………な。」