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Re: シンクロニシティ─パンドラの箱─ ( No.5 )
日時: 2011/09/18 22:57
名前: 遊太 (ID: HhjtY6GF)

【4.氷漬けの教室】

翌日、恵太と真敬は学校に遅刻しかけた。それもその筈、真敬と共に明け方までゲームをしていたからだ。
「それじゃ、放課後にオカルト研究部の部室な。」
「おう。」
恵太は自身のクラスである2−9の教室の前で真敬と別れた。教室にはすでに生徒のほとんどが揃っている。

「恵太君、おはようございます。」

恵太が席に着くと、隣の席で小説を読んでいた守が笑顔で挨拶をしてきた。
「おはよう。」
「恵太君、知ってますか?今朝早く、警察が学校に来てたんですよ。」
「は?」
恵太は守の言葉を聞いて唖然とする。
守は立ち上がり、「あれです。」と言って窓の外に指をさした。
恵太は窓から校舎の裏の道路を見た。普段、使用されていない東門の前に一台のパトカーが停車していた。
パトカーの中にはスーツ姿の男性が座っており、パトカーの外にもスーツ姿の男性が立っていた。
「どうして警察が?」
「詳しくは分かりませんが、5階の3年生のフロアで何かあったらしいですよ。3年生は来てないし、5階は行けないです。」
「何かって…………何だよ?」
「分からないです。」
恵太は再び、パトカーの方へ視線を移す。すると、先ほどまでいた2人のスーツ姿の男性が消えていた。
恵太はこの時、今までに感じたことのない緊張感を感じていた。その時だった。


『生徒会執行部の者は、今すぐに職員室前に集合してください。繰り返します……』


突然の放送にビクリと驚く恵太。
恵太は守の顔を見る。
「………気を付けてください。何か嫌な予感が…します……。」
「俺もだよ。」
恵太は守の肩をポンポンと叩くと、教室を後にした。


 * * * * * * * *


1階の職員室前には、生徒会の腕章をつけた男女3名が立っていた。
「よぉ次期大将。これつけとけ。」
ウエーブヘアーの黒髪で左目の下に切り傷がある3年生の黒丸竜神は、恵太にそう言いながら腕章を投げ渡した。
「あ、あの、一体どうしたんですか?」

「3年生の1人が消えたの。しかも、教室が‘おかしい’。」

凛とした表情で、ポニテールがよく似合う3年生であり生徒会副会長の花城恋奈。
恵太は腕章を左腕に付け、唯一同期の役員である波岡風雅の隣に駆け寄った。
「消えたって……何?」
「さぁね。先生たちは家出で片付けようとしたんだけど、教室がな……」
「教室?」
恵太は風雅に聞こうとしたその時、職員室の扉が開いて教頭の山本明日夫が出てきた。
山本は白髪交じりの髪をオールバックで整え、その姿は大企業の社長そのものだった。
「生徒会執行部諸君、おはよう。」

「おはようございます。」

4人は揃って山本に挨拶をした。山本は「感心感心。」と呟きながら何度か頷く。
「朝早くからすまないな。君たちを信頼して、あることを頼みたい。とりあえず、まずは5階に行こう。」
山本はそう言うと、生徒会役員4名を引き連れて5階の3年生フロアへと向かう。
向かう途中に4階の2年生フロアで、5階の階段前に集まっていた生徒を警察と思われる男性2人が止めていた。
「下がりなさい。……関係者の方は、こちらからどうぞ。」
生徒を止めていたのは、先ほどパトカーの付近にいた男性たちだった。
男性は2人は「KEEP OUT」と書かれた黄色のテープを貼り、立ち入ることができないようにする。
山本と恵太たちはテープを潜り、問題の3年生フロアへと足を踏み入れた。



「……寒い。な…なんだよ……これ…………」



恵太は5階に足を踏み入れた瞬間、言葉を失った。
8月という季節だが、このフロアは夏を忘れさせるほどの寒さを感じさせた。
それもその筈、廊下、天井、壁、とにかく5階の物は全て薄い氷の膜が張っている。
「私も最初に見たときは言葉を失ったよ。今初めて見るのは、前田君だけかな。」
「は……はい………。」
恵太は山本の言葉に頷く。歩く度にシャリシャリと場所に似合わない音が鳴り響く。
「何がどうなってこんなことになったのか……ハッキリ言って、私たち警察ではお手上げです。」
スーツ姿で眼鏡をかけた頭の良さそうな刑事が言った。
「それじゃあ、問題の教室です。」
眼鏡の刑事はそう言いながら、3−2組の教室の前で止まった。
「この教室で恐らく何かがあった。それだけは言えます。」




教室の中央に聳え立つ、天井まで伸びた氷の柱──────




机や椅子は全て、氷で壁に張り付き異様な風景が広がっていた。
3−2の教室だけは廊下側の窓ガラスが大破し、氷の柱の付近には何者かの足跡が複数ある。
「明らかに事故ではありません。断言しましょう。詳しい捜査は1時間後には始まります。」
眼鏡の刑事は山本と恵太たちにそう言うと、もう一人の男性刑事の方を見る。
眼鏡の刑事より若そうな男性はお辞儀をする。
「警視庁捜査一課の杉村と申します。今回、坂咲高校の生徒会の皆様には、……生徒の監視をしてもらいたいのです。」
「……監…視?」
恵太、風雅は首を傾げながら復唱した。竜神と恋奈は表情を険しくさせただけである。


「今回の事件は明らかに普通ではありません。私達もこのようなことは推測したありませんが、犯人は恐らく学校関係者と思われます。教師の方々全員は可能ですが、生徒全員を事情聴取することは不可能です。そこで、あなた方信頼できる生徒会の皆様には、生徒の監視をしてほしいのです。嫌な気分になるとは思います。しかし、反対に何もなければ生徒何百人の無実が潔白されます。無理を承知で決めたことです。どうか、我々警察のために動くという誤解はしないでください。あくまで事件の解決と被害者の発見のためです。」


杉村は頭を深々と下げてお願いしてきた。
恵太と風雅は先輩である恋奈と竜神を見る。竜神は副会長である恋奈を見た。
「……分かりました。生徒のためなら、私達は動きます。その代わり、消えた私達の友人を必ず見つけてください。」
「ありがとうございます。必ず、事件を解決します。」
この時、恵太は恋奈の姿に見とれてしまった。
目の前でペコペコとお願いしている杉村は大人だが、恵太にとっては恋奈の方が大人に見えた。
恋奈は3人の方を振り向き、白い息を吐きながら言った。

「亜堂会長はいつも通りいない。私の指示で動いて、そして、このことは当たり前だけど誰にも言わないように。」

「分かりました。」

恵太はこの時、教室を見渡して何かを感じた。
まるで、懐かしいような初めてではないような感じ。とにかく、何かを感じ取っていた。
隣で立っていた風雅は恵太と肩を組み、「早く下りようぜ、寒い。」と言い強引に引っ張る。
「それじゃあ、頼むよ。」
山本は4人にそう言うと、眼鏡の刑事と杉村と話を続けた。
とりあえず、生徒会役員4人は1階の生徒会室へと向かったのだった。