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Re: シンクロニシティ  ( No.8 )
日時: 2011/09/19 18:37
名前: 遊太 (ID: HhjtY6GF)

【6.高速移動】

生徒会室襲撃の後、全校生徒は理由も告げられずに強制下校となった。

ガランとした学校の各フロアには、スーツ姿の警察が2人1組で常にパトロールしている。
恵太は負傷した風雅を手当てするため、保健室に訪れていた。
「大丈夫、波岡君?」
「はははっ……大丈夫っすよ…これくらい……」
養護の宮本小百合は、風雅の頭に包帯を巻きながら心配そうに尋ねる。風雅は笑って答えているが、実際は不安の筈だ。
恵太は手当てされている風雅を見ながら、何者かに連れ去られた恋奈のことを考えていた。
「しかしよ、絶対に誰かいたぜ。あの煙に紛れて生徒会室に入ってきたんだって。そして、花城先輩を拉致したんだよ。」
風雅は手当てされながら、恵太に懸命に言う。恵太は「あぁ。」や「そうだね。」と軽く受け答えするだけだった。
「よし、もういいよ。後は頭に強い衝撃や激しい運動は避けてね。」
「はい!!ありがとうございます!!」
宮本は大学卒業したばかりの新人養護教諭。それなりに可愛いし、男子生徒や教師陣からも人気はある。
2人はお礼を言って保健室を出て行く。すると、保健室の前には3−2で会った眼鏡の刑事が立っていた。

「やぁ。僕のことは覚えているだろう?3−2で会ったよね。僕は警視庁捜査一課の三浦だ。少し時間をいいかな。」

三浦はペラペラと喋り、目が笑っていない笑顔で2人に尋ねる。
恵太は一瞬迷ったが、風雅が勝手に「いいですよ、」と言ってしまった。
「ありがとう。じゃあ、職員室に来てくれ。」
三浦に付いて行き、保健室のすぐ隣にある職員室に入った。
職員室の中には教頭の山本、2−9の担任である長谷川正義、そして車椅子に乗って制服を着た男子生徒。
恵太と風雅は車椅子に乗った男子生徒を見て、表情を唖然とさせる。

「あ、亜堂会長!!」

2人はそう言いながら、生徒会会長である亜堂新之介に駆け寄った。
「や!元気だったか。てか、波岡頭どうしたんだ?」
「怪我しちゃいまして。」
「……相当、状況は芳しくないんだな。」


「その通りです。」


三浦が新之介の言葉に乗せて言った。
「病院からわざわざ駆けつけてありがとうございます、亜堂さん。」
「いえいえ。僕の幼馴染まで被害にあっては、いてもたってもいられません。是非、参加させてください。」
新之介は心臓に重い病気を抱えており、1年前から病院で生活していた。
恋奈とは幼馴染で、毎日お見舞いに来ていてくれた人物でもある。そのため、新之介にとって恋奈はかけがいのない存在。
新之介は真剣な眼差しと懸命に説得して、病気を抱えながらも事件解決に協力したのであった。
「亜堂さん、協力感謝いたします。そして山本さんに長谷川さん、生徒会の2人もありがとうございます。」
三浦は深々とお辞儀をして、胸ポケットから警察手帳を取り出した。
「今回の生徒会室襲撃、この事件で花城恋奈さんが現在行方不明です。そして、我々は職員と生徒からの情報を得て、ある一つのことに結び付けました。皆様は知っているでしょう、神隠しを。」





      ━神隠し━





その言葉が出た瞬間、職員室にいた三浦以外の人間は目を合わせた。
山本、長谷川、亜堂、恵太、風雅の5人は神隠しのことを知っていた。
「皆さん、知っているようですね。確か半年前に、こちらから警察に極秘で調査依頼が来ていました。これが仮に神隠しだとすると、現在の被害者は4名。ここで止めなければ、被害は更に拡大するでしょう。事件を解決し、被害者4名を救い出す。」
三浦は拳を握りしめながら言う。
「それで、我々には何をすればいいのかな?」
山本が三浦に尋ねる。
「はい、あなた方5人には今回の…………」
三浦が手帳を開きながら説明を始めようとした、その瞬間だった。



     「─────参る」


        「あらよっと!!」



どこから湧き出てきたのか、突如黒いコートに身を包んで刀を持った男性と、白髪の若い男性が現れた。
刀を持った男性は鞘で山本と長谷川の首をつき、一瞬で気絶させた。
白髪の若い男性は新之介と風雅の頭を鷲掴みする。すると、2人は急にパタリと崩れ落ちた。
「な、何者だ!?」
三浦は恵太を自身の後ろに避難させ、スーツの裏ポケットから拳銃を取り出して2人に向ける。

「氷川、捕らえるのは後ろの餓鬼だろ?」

「ミラージー。その男は俺に任せて、お前は餓鬼を捕獲しろ。」

刀を持った氷川は、ジャンプして刀を振りかぶる。三浦は恵太を後ろに突き飛ばし、ギリギリのところで避けた。
氷川は校長のデスクに着地すると、すぐさま職員室の出入り口に向かう三浦に向かってジャンプした。
「さらば、男よ……うがっ!?」
氷川が刀を振りかざした瞬間、背中に炎の弾が当たり、派手に職員デスクの上に叩きつけられた。
恵太がデスクの陰から、発火能力を使って氷川を攻撃した。
ミラージーは一瞬驚いた顔を見せ、苦笑いと冷や汗を流しながら後ずさる。
「おいおい……俺は戦闘向きじゃねえぞ……。氷川、俺はどうすりゃいい!?」
「ぐっ……お前は逃げた男を追って‘記憶を消せ’!!!」
氷川がミラージーにそう言うと、ミラージーは慌てて職員室から出て行った。
「待て……なっ!?」
恵太も立ち上がって追おうとしたが、目の前に刀を持った氷川が立ちふさがる。
「司馬の言った通り、どうやら小僧が能力者らしいな。」
氷川は不気味に笑いながら言い、なぜか刀を腰にしまう。

「それなら、超能力者同士、能力で戦おうではないか。」

氷川はそう言いながら、前屈みになる。その瞬間だった。



   パッ



氷川の姿が、一瞬にして恵太の目の前から消えた。
「え?」
恵太は辺りを見渡すが、氷川の姿どこにも見えない。しかし、すぐにその理由が分かった。
窓から差し込む日。職員室の壁に物凄いスピードで動く人影が映っていた。
「……能力者、高速移動?」
恵太は両手を炎で包み込み、目を細めた。



      

           「花城先輩を返してもらう。」