ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: シンクロニシティ ( No.10 )
- 日時: 2011/09/20 21:10
- 名前: 遊太 (ID: HhjtY6GF)
【7.スクール・ファイト】
恵太はデスクの下に隠れ、ある物を探していた。それは学校に必ずある物だった。
「小僧、どこに隠れても無駄だ。大人しく捕まれ!!」
高速移動で動いている氷川は言う。氷川の姿は見えず、窓から差し込む日の光で影が動いていることしか分からない。
「…………この作戦で行くか。」
恵太は一人で呟き、両手を包み込んでいた炎をデスクの陰から見えない氷川に向かって発射した。
恵太の両手から離れた炎は、真っ赤な炎の球に形状が変化して飛んでいく。
「馬鹿な真似を。自分の居場所を教えただけだ!!」
高速移動で職員室を移動していた氷川が、刀を振りかざしながら恵太の隠れているデスクに飛ぶ。
そして、躊躇なくデスクごと恵太を一刀両断する。
が、そこに恵太の姿はなかった。
デスクだけが真っ二つに斬れた。氷川が辺りを見渡すが、どこにも恵太の姿はない。
「隠れてばかりだな。そんなことでは俺に勝てないぞ。」
氷川は職員室に響き渡るぐらいの声で言う。
恵太はすでに氷川からかなり離れたデスクの陰に隠れ、目の前の壁に設置されてあるお目当ての物を見る。
「くそっ……距離があるな……」
恵太のお目当ての物を手に入れるには、一度デスクの陰から出なければならない。
氷川の能力は‘高速移動’、やるかやられるかの崖っぷちの状況である。恵太は一度目を閉じ、拳に力を込める。
右手だけを炎に包み、左手にデスクの上に置かれてある教科書の束をバレないように取る。
「……行くぞ。」
恵太は何冊もの教科書を職員室の中心に向かって投げ、右手の炎を空に舞う教科書向かって発射する。
それに気づいた氷川は、一瞬キョトンとした表情でその光景を見つめる。
と同時に、氷川はデスクの陰から現れた恵太を見つけた。
「ここで仕留める!!」
氷川が能力を使って向かおうとした瞬間、炎が教科書に当たり、燃えた教科書がパラパラと落ちてくる。
氷川は一旦足を止め、舌打ちをして恵太を探す。
「幼稚な真似事を……終わりだ!!」
氷川はその場から恵太の隠れていると思われるデスクに向かってジャンプをした。
足首まである黒いコートを靡かせながら、刀を大きく振りかぶる。
未だに空を舞う燃えた教科書の残骸、しかし、氷川は怯むことなく目をカッと大きく開いて恵太を見つけた。
恵太は氷川に背を向けており、氷川は勝利の笑みを浮かべた。
「これで終わりだ!!」
氷川が叫んだ瞬間、恵太も同時に振り向いた。
「お前がな!!!」
振り向いた恵太は、安全装置が解除された消火器を持っていた。
恵太が消火器で氷川の攻撃を防ぐ。鉄と鉄の擦れ合う音がしたかと思うと、刀は簡単に消火器を斬った。
「ぐっ!?」
消火器は斬られた瞬間に白い泡を噴出し、職員室は一瞬にして白い煙と泡に包み込まれた。
しかし、氷川は冷静に刀を直して後ろに下がる。
「賢い小僧だ。あの若さでこの状況でこの計画性…………」
氷川は嬉しそうな笑みを浮かべる。すると、立ち上がって視界の悪い職員室に向かって叫んだ。
「小僧、戦いは引き分けにしといてやる。楽しませたお礼に良いことを教えてやろう!!屋上へ行け、全てが分かる!!」
氷川は恵太に伝えると、足早に職員室から出て行った。
「……罠か?」
恵太はそう思い、しばらくデスクの陰に隠れ続ける。数分後には白い煙も泡も消え、視界が元に戻った。
辺りを見渡しても、氷川の姿はどこにもなかった。
「屋上に行けば、花城先輩が……」
この時、恵太の頭の中には恋奈を救うことだけしかなかった。
恵太は職員詩で倒れている風雅たちに見向きもせず、大急ぎで職員室を出て体育館へ向かった。
* * * * * * * *
一方、氷漬けの3−2の教室にはミラージーに追われていた三浦が倒れていた。
ミラージーは笑みを浮かべ、気絶している三浦を見下ろす。
「へへへっ、一生病院生活だな。ドンマイ!!」
ミラージーは三浦の頭を靴の先で軽く小突き、3−2の中央にある氷の柱を見る。
氷の柱の後ろには、司馬冷斗と左肩を負傷して手当てを受けて帰ってきた釜彦がいた。
「お二人さん。こいつも体育館に運べ、後々厄介になる奴だ。」
「そいつもリストに載ってたのか?能力者でもない、ただの警察官だぞ?」
冷斗がミラージーに言う。ミラージーは鼻で笑うと、壁に寄りかかりながら説明する。
「能力が覚醒するタイミングは人それぞれ。生まれた頃から、子供の時、大人になった瞬間、怒り、悲しみ。」
ミラージーは三浦に近づき、彼の横に座りこんだ。
「こいつも未来では能力者となっていたらしい。それも、俺らの敵だ。今のうちに種から潰しとくんだよ。」
ミラージーが命令すると、釜彦が三浦を担ぐ。冷斗も反対側から三浦を担ぎあげた。
「そいつはミラージーが連れて行け。永尾、司馬は屋上に行け。」
ドアの付近には、いつの間にか氷川が立っていた。
ミラージーは首を傾げながら氷川を見る。三浦を担いでいる冷斗と釜彦も氷川を見た。
「俺は別件で行かなければならない。代わりは呼んである。お前たち2人で生徒会の小僧を捕まえろ。」
氷川の言葉で、釜彦の表情が変わった。
「生徒会の小僧って……前田ですか!?」
「あぁ。ミラージー、なるべく早く済ませろ。今、学校には警察数人と教職員しかいないからな。」
「了解。」
ミラージーは2人から三浦を受け取り、体育館へと向かう。
「奇襲を仕掛けるぜ、釜彦。」
「怪我した左肩のお返しをしてやる。」
2人は不気味な笑みを浮かべ、屋上へと向かった。