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Re: 愛しているの ( No.3 )
日時: 2011/09/14 20:53
名前: 葵沙 ◆7ZaptAU4u2 (ID: /iUvxDbR)

  ■第一章 [愛と言う謎に溺れる愚者]



——— 九月の上旬。

まだまだ猛暑が過ぎたと言えども暑い気候。近年の地球温暖化の所為で秋らしい涼しさが、夕方と夜ぐらいだ。
余りの暑さに今日の朝の朝礼、アナウンスで体操服で授業を受けても良いという〝放送〟が出たのだ。
あちこちの教室から漏れ出す喜びの声。それらを聞き流し、一人の少女が席から立ち上がる。
制服を脱いで下にあった体操服を現した。制服を鞄に仕舞い込み、また席へ座り直した。
刹那、担任教師が教室を出ていき、暫しの休憩時間が出来る。クラスメイト達はそれぞれの〝群れ〟を成し、人と交流する。
それを見たことかと少女は鼻で笑った。ふと、背後から近づく足音が聞こえ、彼女の席で止まった。彼女は嫌な表情を一瞬浮かべる。
振り返ると明るい笑顔で接する人間—— 整った顔立ちの少年が、無邪気に、彼女に話しかけた。隣に偉そうな顔の少女も。

「天城、次の時間の教科、何だったけ?」

苦笑いして彼女に言った。しかし、答えようとしない彼女に隣の少女が、ふんと偉そうに腕を組み直す。そして言葉を投げた。

「ちゃーんと、答えなさいよね!アタシ、聞くまでアンタの傍、離れるけど聞きまくるから!というか、答えなさいよね。アタシの為に!さあ、早く教えてくれないかしら?休み時間が無くなっちゃうじゃない」

他の人に聞くという選択はないのか。
やや呆れた心情ながら、やっと彼女が口を開いた。


「技術、PC室に行くらしい」


少年はありがとう、と言ったけど隣の少女の顔が眉間に皺を寄った。

「何よ、らしいって。ちょっとアナタ、ふざけてるのかしら?何でこんなに困っているのに、ちゃんと分からない訳?………まあ、良いわよ。間違ってたら、許さないから、覚えておきなさいよね?」

聞いてきた癖に何たる無礼な行為だろう。少年が苦笑いして彼女をなだめている。席に座った少女は、微塵も動かない。
怒った少女と少年が彼女の席を離れる。しばらく体を動かさないで座った後、チャイムが鳴った。
教室に彼女、一人だけだった。










技術の先生に注意される。適当に言い訳し、自分の席へ座った。ちなみに両脇の隣同士が先程の二人組だ。
偉そうな態度の少女が、彼女の右脇にいる少年を高圧的に呼ぶ。
少年が明るい笑顔で少女の脇へ来た。二人でパソコンの画面を覗き込んでいる。何やら調べる課題が見つからないらしい。
この二人組と同じ班で同じクラスメイトの彼女も、勿論、含まれてる。しかし、二人みたいに人と関わろうとしないが。

「天城ルナ!アンタも手伝いなさいよ、………もう、調べがついたの?ねぇ、何でアンタはいつもテキパキと指示をこなせる訳?一種の謎ね、うん、謎。ねー、れんも見習いなさいよ!幼馴染の分際で許してやるけど今度また間違えたら、今度は完全犯罪であの世に送り返してやるわ」

物騒な事を言いだす少女に廉と呼ばれた少年が笑った。
二人は幼馴染の間柄だ。少女の性格を知ってる彼にしたら、ただの〝冗談〟だろう。
しかし、他人から見れば——— いかに性悪な性格かを思い知る。
ルナと呼ばれた彼女、ルナはそんな二人を冷ややかな視線で見つめ返し、また画面へ視線を映す。
そこへ、背後の脇で担当教科の先生の注意が入る。


「天城、奥村、結城。お前らは本当に仲が良いな、だけど静かにやれ」


先生とは不可解で意味不明な生き物だな、と遠い視界で思った。
自分達の〝何処〟が、仲が良いと見える。寧ろ二人とルナは普通の間柄。というか、ただのクラスメイト。
自分の右脇にいた結城が一言、呟いた。

「アタシの〝結城莉絵〟という名を気安く呼ぶな、変態教師」

莉絵の悪意ある言葉を聞き流す。彼女の性悪はこれに始まった事ではないからだ。
今日も蒸し暑い。けれどPC室は冷房が利いている。過ごしやすい空間だった。






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