ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 愛しているの ( No.6 )
日時: 2011/09/18 13:55
名前: 葵沙 ◆7ZaptAU4u2 (ID: /iUvxDbR)






視線を感じる。白い霧が立ち込める空気の向こう側に人影が映る。
そして視界が拓いていく。自分は、何かを忘れてる気がした。
向こう側の人影は誰だろう、と怪しむ訳でも、警戒する事もない、ただ一言、〝久しぶりね———!〟と言った。
久しぶりの後の言葉が思い出せない、誰だ。誰だろう。気付くと手を差し伸ばしていた。だけど向こうの人影が離れていく。
必死に追いかけた。理由は分からない。
けど追いかけなければいけない気がしたからだ。追いかけたけど決して人影に届く事はなかった。










「誰、………あ?」


——— 差し伸べた先は、空振りした。

机から伏せて寝ていた上半身を起こす。数学の勉強をしていて問題は全問正解だ。両親は当たり前、と言うのだろうけれど。
先程の夢を思い出す。白い霧で視界が遮られている状況、そこで見た人影が、自分に手を振っていた。
自分は、何故か手を差し伸べていた。
すると、人影が去ってしまう。
何故か慌てて追いかけたけれど、人影の距離が遠くなって、もう一度、手を差し伸べた瞬間、目が覚めた。

「ルナ!ルナ!起きなさい!早く部屋から出なさい!」

母のヒステリックな声がドアを隔てた向こうから聞こえる。仕方なくルナは椅子から立ち上がってドアを開けた。
お盆にコーヒーとデザートを持った母が、ヒステリックな甲高い声で、喚き散らし、リビングへ戻ってしまった。
散々、言い訳を聞かず好きなだけ罵り、本題は勉強の息抜き用のデザートを持ってきただけだった。思わず、溜息を漏らす。

「置くという選択はなかったのかな?」

まあ、悪い事じゃない、と言って中へ戻る。
勉強机に置いて隣のベットに寝転んだ後、滅多に鳴らない携帯が鳴った。

「誰?………結城莉絵からだ」

内容は明日の正午に忠犬ハチ公の銅像前、とシンプルなメールが来た。
送信しない自分も悪いが、彼女の頭に配慮という言葉はないらしい。
そして読み終えたころ、廉からのメールが来た。序でに見てみる。
内容は彼女の行いに対する謝罪文。つくづく苦労人だな、と同情した。まるで彼女の奴隷みたいだ、と感じた時、違和感を覚える。

「…………あ、あれ……何か、気の所為?」

脳裏に誰かの姿が浮かんだ———。
だけど、すぐさま、奥へと追い込まれた。
何か、可笑しいと思うけど気の所為だと思い返し、目を閉じる。
時計の動く音、自分の遠のく意識の中で響く寝息の音が混ざって静寂を際立たせている。
睡魔が襲った。
最後の意識の中、また誰かの姿が思い浮かんで消えてしまった。








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