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Re: 愛しているの ( No.7 )
日時: 2011/09/21 18:53
名前: 葵沙 ◆7ZaptAU4u2 (ID: /iUvxDbR)
参照: 台風で四限しかなかッたよ!








忠犬ハチ公とは、主人の帰りを駅で毎日ずっと待ち続けてた犬。その主人は既に世を去った後でも。
犬は本当に忠誠心が高い、と思う。片耳が折れてる、瞳はずっと駅の方を向いている、気がした。ルナは感慨深く銅像を見た。
台風が近く接近する日だ。暴風が酷く傘を差しても、雨が風と共に勢い良く吹き荒れてて、体を濡らした。
今度にする、という選択は選んでないようで廉からのメールは、10分前に、やはり彼女の行為に対する再度の謝罪文だ。
これ程まで、不憫な人間だと思ったのは、人生初の出来事であった。待ち合わせ時間が午後1時。後10分で1時丁度になる。

「天城ルナ!来てやったわよ」
「否、お前が強制的に誘ったんだろ」
「黙りなさい!アンタ、アタシに人の事を言えるつもり?」

傍から見ると、SMカップルの喧嘩を見ている感じだ。台風の所為で人通りが少ないけど、視線はしっかりと感じられる。
二人に羞恥心の言葉がないと見えた。今すぐ家に帰りたいと思った。
待ち合わせ場所に着いた二人が、雨と風が激しいので近くの喫茶店に入る。そこで、やっと立ったままの体が席に着いた。

「こんな気候で呼んで悪かったわ」

珍しいこともある。あの、自分の非を一切認めないという噂の莉絵が、素直に謝罪したのだ。
先程の会話とは打って変わった印象である。
廉も口パクでたまにある、と伝えた。
莉絵も謝る時もある、と学んだ。注文を適当に頼んだ後、何の話題を話すか、分からない。
二人とも、そうであるらしく黙ったままだ。
莉絵に計画性があるのか、疑問に思える。
莉絵のことだから気まぐれで遊ぼうと言いだしたに違いない—— 頭が痛くなった気がした。
そんな沈黙を打ち破るように、莉絵が喋り始めた。

「あの、さ。天城ってハーフなの?」

良く言われる話題だった。ルナが慣れている話題だが。
黙って首を横に振る。
意外にも、彼女の目がやや見開いた。


「薄茶髪だし、目は黒だけど。肌も白いし——」
「生まれつき、色素が薄いんだ」
「そうなんだ。アンタって華奢な体だし、ハーフかと思ったよ」

無駄に痩せて貧弱な印象の、この体を華奢と表現した彼女。
ルナも死んだ兄も、家族揃って小食だから、余り物を食べないだけだ。

「そういや、何で〝ルナ〟って外人みたいな名前なんだ?」

一番痛い処を突いて言われる。
余り話さない家庭の事情を、彼等に話す。


「……母方のイタリア人とイギリス人のハーフの祖母がいるの。お母さんがその〝日本人〟とのハーフで二十歳まで曾祖父の住んでたイギリスに住んでて、二十歳のころに日本に来たの。それでお父さんと知り合って、間にあたしと……死んだ兄がいたの。あたしがまだ中学2年の時、兄さんが大学一年生だった。だけど、ある日、自殺したんだ。理由は少年院で罪を償って更生した少女と交際してたけど、両親に反対されて、その人が自殺して悲しさの余り、気が狂って精神科病棟の施設に引き取られたけど、脱走して自殺、したんだ。つまり、あたしは、生まれつき色素が薄いことも反してイタリア系イギリス人とのクォーターなんだよ」



重く悲惨な過去を当たり前に話す自分が悲しく思えた。
ルナが真剣な表情になった二人を見て、しまったと思う。焦ったのは久しぶりだ。
重く暗い雰囲気を一層するべく、話の続きを進める。




「それでお母さんが名付けてくれたんだ。あたしが産まれた日は、とても満月の綺麗な夜だったと。それに、お母さんはあたしより、兄さんの方が可愛かったんだ。産まれたあたしを疎ましく邪魔だから、……そうだね、西洋では月は不吉だとされてるから。英語で〝ルナティック〟という日本語で気違いとか悪い意味の英語があるんだよ。もう分かったでしょ、ルナティックのルナから名付けられた。適当に、名付けられたんだよね。お祖母ちゃんは反対してあたしには、満月の綺麗な晩だったから、と言ってくれたけど——」


痛くないと感じた胸が、痛くなった。










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