ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 愛しているの ( No.9 )
- 日時: 2011/09/24 16:31
- 名前: 葵沙 ◆7ZaptAU4u2 (ID: /iUvxDbR)
■第二章[逃げ続ける卑怯者は誰だろうか]
逃げ続ける卑怯者は誰だろうか、という小説の題名に視線を落とす。
何となく今の状況に合っている。因みに純文学小説だ。
内容も情緒不安定な母親と元アルコール依存症の父親の家庭に育った一人娘が、人間を冷めた目で観察する話。
以前、噂で情緒不安定な母親と家庭内暴力を揮う父親の家庭、と莉絵の家庭の噂が流されたのを思い出した。
あの父親は母親しか暴力をふるわないはずだ、とも。
書店で見つけた新人小説家のデビュー作。
手を差し伸ばした。
ルナの腕にしっかりと抱えられた本は会計の処へ持って行かれ、無事ルナの所有物だ。気休め程度に読む本だと考えていた。
書店を出る。
外は生憎の雨で本を鞄の中に仕舞い込んだ。ビニール傘を広げて一歩、足を進める。
水たまりが、跳ね飛び靴下を濡らす。泥水が混じって汚くなる。
町の片隅、細く長い川が流れる沿いの細道、その端で人影を見つけた。
奥村廉だ。
彼は雨の日だが、傘を差さずに歩いている。顔に張り付いた虚ろな笑顔を作っている。人通りが皆無な分、浮いていた。
雨と共に溶けてしまいそうで、焦ったルナが一気に彼の元へ駆け出した。
「奥村」
滅多な事がない限り、同級生と口を聞かないルナが初めて廉に呼びかける。理由は無い。でも、話しかけないといけない気がした。
「………、天城か」
薄く軽い笑顔を返して声を落とす。雨は音を吸収するのか周囲の音が、廉とルナ以外の音を通していないような気にさせる。
俯き加減で廉が語った。
何故、自分がこんなに落ち込んでいるのかを。
「もう、疲れたんだ」
彼が哀愁深く漂わせた言葉を紡ぐ。まだ若い青年が纏う雰囲気でない。纏うのは、渋く大人の男で良いのだ。青二才は逆に痛々しい。
仰向くと顔に雨が一身に降り注がれる。横顔が寂しく感じさせた。このまま溶けて死んでしまえ、と思ってしまった。
ぞっとした。背筋が凍りついて冷凍したかと思った。
まるで莉絵のような傲慢さを抱いた。ルナはそのことで恐怖を覚えた。無感情に生きてきた神経が鋭く研ぎ澄まされる。
「莉絵の〝お守〟をするのを、さ」
奴隷の間違いでは、と言いたくなった。
言ったら彼の壊れかかった精神が完全に壊れてしまうので言わない。
「嫌なら、断れば良い。嫌なら、反抗すれば良い。逃げ続けていても、何にも変わらないよ」
ドラマに出てきそうな臭い台詞を言えたものだ、と感心してしまう。
「そうだよ、な」
雨で白く煙った視界の中、彼の姿が良く判別できない。
今にも、消えて溶けてしまいそうだ。
■
事件が起こった。教室に入ると同級生が滅多に話しかけないはずだが、ルナに話しかけてきた。話題は廉の自殺未遂の話題だった。
表情に感情が昇る事が滅多にないルナの顔が僅かに驚く。同級生達は珍しいものを見たさに集まってくる。
内心うんざりしたけど、とりあえず同級生の話題を聞いてみることに。
自殺の理由は、疲れたの一文だけだった、とある女子が語る。
吹奏楽部のツインテールが似合う、お洒落好きの可愛らしい女子だった。
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